婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

文字の大きさ
60 / 60

59話:新たな未来への誓い

しおりを挟む
59話:新たな未来への誓い


---

 披露宴が終わり、夜の帳が静かに降りる頃。
 ヴェルナとエリオットは、広場の中央に設けられた特別な祭壇の前に立っていた。

 それは、この領地に古くから伝わる儀式――
 新しい夫婦が、領地と住民たちへ感謝を捧げ、未来の繁栄を誓うための場だった。


---

 祭壇の上には、一本の大樹の苗木が置かれている。
 この地の象徴であり、未来そのものを表す存在だ。

 広場を囲む住民たちは、言葉を交わすことなく、その様子を見守っていた。

「この苗木は、私たちの未来を象徴するものです」

 ヴェルナは穏やかな声で語りかける。

「これまで支えてくださった皆さまに、心から感謝します。
 そしてこれからも、共にこの領地を守り、育てていくことを誓います」

 続いて、エリオットが一歩前に出た。

「私たちは、この地をさらに豊かで平和な場所にするため、尽力し続けます。
 この苗木がやがて大樹となるように、私たち自身も成長を止めません」

 静かな拍手が、広場に広がった。

 二人は膝をつき、そっと苗木に土をかける。
 その所作は、領地と住民への敬意と、揺るぎない覚悟を示していた。


---

 植樹を終え、二人が顔を上げると、住民たちの表情が一斉にほころんだ。

「これからも、皆さんと共に未来を築いていきましょう」

 ヴェルナの言葉に、大きな歓声が応える。

「ヴェルナ様!」 「エリオット様!」 「これからも、よろしくお願いします!」

 声が重なり、広場を満たす。

 その光景を見つめながら、ヴェルナは胸の奥が温かくなるのを感じていた。
 ――この人たちと共に生きる。
 それこそが、自分の選んだ未来なのだと。


---

 やがて二人は馬車に乗り、屋敷へと戻る。

 夜空には無数の星が瞬き、静かな闇を優しく照らしていた。

「今日は、本当に素晴らしい一日だったわ」

 ヴェルナが静かに言う。

「住民たちの笑顔を見ると、この領地を守り続けたい気持ちが、さらに強くなるの」

「私も同じです」

 エリオットは微笑み、彼女の手を包み込んだ。

「皆の幸せが、私たちの原動力です。
 そして、あなたと共に歩む未来が、何よりも楽しみです」

 ヴェルナはその言葉に、深い安心と喜びを覚えた。


---

 屋敷に戻った二人は、庭に出て夜風に身を委ねる。

 花々の香りが漂う中、空には変わらず星が輝いていた。

「これからも、きっと困難はあるわ」

 ヴェルナは空を見上げて言う。

「でも――あなたがそばにいてくれるなら、どんなことでも乗り越えられる」

「ええ」

 エリオットは静かに頷く。

「あなたと共にいられることが、私の最大の喜びです」

 二人は並んで夜空を見上げ、言葉のない誓いを交わした。


---

 翌朝。
 新しい一日が、静かに始まる。

 それは、ヴェルナとエリオットが共に歩む未来の、最初の一歩だった。
 そして同時に、この領地全体にとっての新たな希望の始まりでもある。

「さあ、行きましょう」

 ヴェルナは微笑み、手を差し出す。

「私たちの未来が、待っているわ」

「その通りです」

 エリオットはその手を取り、力強く答えた。

「私たちの歩む道が、皆の希望となるように」

 二人は並んで歩き出す。
 光に満ちた、まだ見ぬ未来へ――。


---
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

処理中です...