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1 薔薇の微笑みと婚約破棄
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春の訪れを告げる花々が咲き乱れる王都。その中心部にそびえる公爵家、クラレット公爵家は、王国の中でもとりわけ格の高い名門だった。そこに生を受けた唯一の令嬢、ミアータ・クラレットは、誰もが羨むほどの美貌と才覚、そして気品を兼ね備えていた。
透き通るような白い肌、緩やかに波打つ銀色の髪。長い睫毛の下にある瞳は淡いブルーで、見る者の心を優しく包み込む。さらに、その口元にはいつも穏やかな微笑みが浮かんでおり、社交界では「微笑みの薔薇」と称えられていた。
ミアータの暮らす館は、王都でも指折りの広大な敷地を誇り、手入れの行き届いた庭園には四季折々の花々が咲く。薔薇の迷路、噴水の周りを取り囲む花壇、そして温室には珍しい植物も数多く栽培されていた。屋敷の中は大理石の床が陽光を反射し、天井には美しいシャンデリアが輝いている。格式高い調度品や高価な芸術品が並ぶその様子からは、一目で公爵家の力と財を窺い知ることができた。
そんな煌びやかな環境で育ったミアータではあるが、彼女自身は「貴族令嬢」という立場に傲ることなく、常に穏やかで柔らかな物腰を保っていた。それもそのはず、幼い頃から「優雅たれ」「人に対して慈しみの心を忘れるな」と両親から厳しくも愛情深く教えられてきたのだ。完璧な礼儀作法や教養はもちろん、舞踏や音楽にも長けているのは、彼女自身の才覚と努力の賜物であった。
ある日の午後、ミアータは書斎で読みかけの小説に目を落としていた。窓の外からは穏やかな春の風と、小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。天気が良く、ゆったりとした時間が流れていた。とはいえ、その心はどこか落ち着かない。
今日の夜には、王宮で盛大な舞踏会が催される予定だ。上流貴族のみならず、多くの有力者たちが招かれるこの舞踏会は、社交界の一大イベントでもある。そこで、ミアータは婚約者である侯爵家の嫡男――アレン・ヴァーサーと共に、改めて婚約の報告を行う運びとなっていた。もちろん、この婚約はすでに公爵家と侯爵家の間で正式に取り決められている。王国中の誰もが羨む、美男美女同士の結びつき。本人たちも、幼い頃からの幼馴染として穏やかな関係を築いてきた……はずだった。
しかし、どこか釈然としない想いがミアータの胸の奥底にあった。アレンは紳士的で聡明、身分や家柄を見ても申し分ない相手だ。けれども、彼からはどこかよそよそしさを感じることが少なくない。特にここ数ヶ月は、何か悩んでいるような素振りがあり、時折り視線も合わなくなった。言葉少なに短く会話を終わらせようとする様子が続いていたのだ。
ミアータは、もしや自分が何かアレンを怒らせてしまったのではないかと考え、悩んだこともあった。しかし思い当たる節はない。彼女なりに、侯爵家の令嬢にふさわしくあろうと振る舞ってきたし、いつでもにこやかに接してきた。それでも埋まらぬ距離があるようで、モヤモヤとした不安が心を覆っていた。
「ああ……こんな気持ちのまま舞踏会へ行くなんて……。でも、決まった行事なのだから仕方ないわね。」
小説を閉じて立ち上がると、そばに控えていた侍女が「お着替えの準備はいかがいたしましょう?」と声をかけてきた。
ミアータは一瞬だけ迷ったが、すぐにいつもの柔らかな微笑みに戻り、「お願いするわ」と答えた。こういった日常の中でも、気持ちを切り替えて完璧に振る舞うのが彼女の“公爵令嬢”としての使命だと信じていた。
透き通るような白い肌、緩やかに波打つ銀色の髪。長い睫毛の下にある瞳は淡いブルーで、見る者の心を優しく包み込む。さらに、その口元にはいつも穏やかな微笑みが浮かんでおり、社交界では「微笑みの薔薇」と称えられていた。
ミアータの暮らす館は、王都でも指折りの広大な敷地を誇り、手入れの行き届いた庭園には四季折々の花々が咲く。薔薇の迷路、噴水の周りを取り囲む花壇、そして温室には珍しい植物も数多く栽培されていた。屋敷の中は大理石の床が陽光を反射し、天井には美しいシャンデリアが輝いている。格式高い調度品や高価な芸術品が並ぶその様子からは、一目で公爵家の力と財を窺い知ることができた。
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ある日の午後、ミアータは書斎で読みかけの小説に目を落としていた。窓の外からは穏やかな春の風と、小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。天気が良く、ゆったりとした時間が流れていた。とはいえ、その心はどこか落ち着かない。
今日の夜には、王宮で盛大な舞踏会が催される予定だ。上流貴族のみならず、多くの有力者たちが招かれるこの舞踏会は、社交界の一大イベントでもある。そこで、ミアータは婚約者である侯爵家の嫡男――アレン・ヴァーサーと共に、改めて婚約の報告を行う運びとなっていた。もちろん、この婚約はすでに公爵家と侯爵家の間で正式に取り決められている。王国中の誰もが羨む、美男美女同士の結びつき。本人たちも、幼い頃からの幼馴染として穏やかな関係を築いてきた……はずだった。
しかし、どこか釈然としない想いがミアータの胸の奥底にあった。アレンは紳士的で聡明、身分や家柄を見ても申し分ない相手だ。けれども、彼からはどこかよそよそしさを感じることが少なくない。特にここ数ヶ月は、何か悩んでいるような素振りがあり、時折り視線も合わなくなった。言葉少なに短く会話を終わらせようとする様子が続いていたのだ。
ミアータは、もしや自分が何かアレンを怒らせてしまったのではないかと考え、悩んだこともあった。しかし思い当たる節はない。彼女なりに、侯爵家の令嬢にふさわしくあろうと振る舞ってきたし、いつでもにこやかに接してきた。それでも埋まらぬ距離があるようで、モヤモヤとした不安が心を覆っていた。
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