完璧すぎた令嬢ですが、婚約破棄のおかげで幸せを掴みました

鍛高譚

文字の大きさ
22 / 43

2-12 閉じていた扉を開く

しおりを挟む
閉じていた扉を開く

 夜、自室の窓辺に腰掛けて、ミアータはうっすらと光る月を眺めていた。静かな闇の中で、遠くに街の灯りがちらちらと見える。あの先には孤児院があり、貧困に苦しむ人々が暮らしている。
 「私が今まで見ていた世界は、本当に狭かったのだわ……」
 王宮での舞踏会、貴族同士の華やかな社交、そしてアレンとの婚約――その環の中にいるときは、まるでそれが世界の全てかのように思えていた。けれども、実際は自分の知らない現実が幾重にも広がっている。
 そして、婚約破棄という出来事は、まるで閉ざされた扉が外からこじ開けられたかのように、ミアータに「その先」を見せ始めたのだ。
 深呼吸をして、少し冷えた夜気を吸い込む。婚約破棄からの喪失感は、まだ完全には消えていない。ただ、そこに重なるようにして、新しい世界への興味や希望が少しずつ芽生え始めている。
 窓を閉め、寝台に向かう前に、彼女は机に置いたままの折り紙のハートマークを手に取った。その文字――「ありがと」を指先でなぞり、小さく微笑む。
 「完璧じゃなくても、こうして気持ちは届くのね……。私も誰かに、こんなふうに素直に“ありがとう”と伝えられる人間になりたい」
 そう呟いて、ハートマークを大切に引き出しの中へしまう。子供たちからもらった最初の“贈り物”を、いつでも取り出して励みにできるように。
 “ざまあ”という言葉は、ひどく冷酷に聞こえるかもしれない。しかし、ミアータにとっては、あの婚約破棄は「ある意味で良かったのかもしれない」と思える瞬間が増えつつある。今のこの感情は、決して悲しみだけではない。
 人が変わるきっかけは、往々にして大きな痛みを伴うことがある。それでも、それを乗り越えた先に見える景色は、これまでとは全く違うのだ――。ミアータはまだそこに到達してはいないが、その方向へ歩き始めていることは確かだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

兄の婚約解消による支払うべき代償【本編完結】

美麗
恋愛
アスターテ皇国 皇帝 ヨハン=シュトラウス=アスターテ アスターテ皇国は周辺国との関係も良く、落ち着いた治世が続いていた。貴族も平民も良く働き、平和で豊かな暮らしをおくっている。 皇帝ヨハンには 皇妃に男の子が一人 妾妃に女の子が一人 二人の子どもがある。 皇妃の産んだ男の子が皇太子となり 妾妃の産んだ女の子は降嫁することが決まっている。 その皇女様の降嫁先だった侯爵家の とばっちりを受けた妹のお話。 始まります。 よろしくお願いします。

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

【完結】私を捨てた国のその後を見守ってみた。

satomi
恋愛
侯爵令嬢のレナは公然の場でというか、卒業パーティーで王太子殿下イズライールに婚約破棄をされた挙句、王太子殿下は男爵令嬢のラーラと婚約を宣言。 殿下は陛下や王妃様がいないときを狙ったんでしょうね。 レナの父はアルロジラ王国の宰相です。実家にはレナの兄が4名いますがみんなそろいもそろって優秀。 長男は領地経営、次男は貿易商、3男は情報屋、4男は…オカマバー経営。 レナは殿下に愛想をつかして、アルロジラ王国の行く末を見守ろうと決意するのです。 次男監修により、国交の断絶しているエミューダ帝国にて。

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

処理中です...