完璧すぎた令嬢ですが、婚約破棄のおかげで幸せを掴みました

鍛高譚

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3-9 真実の愛――カイルとの距離

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 アレンの訪問に動揺を隠せないまま、ミアータは夜を迎えた。屋敷の灯火が次々と消される中、彼女は書斎に一人腰掛けて、考えを巡らせる。
 「アレン様は、このままリリー様と破滅の道を歩んでしまうのか……。かといって、私が何かできるわけでもない。あれはもう、彼自身が清算すべき問題だわ」
 頭ではそう割り切っていても、かつて親しかった相手が苦しんでいることを完全に放っておくのは心苦しい。それでも、自分から干渉すれば、かえって相手を混乱させるだけかもしれない。
 そんな葛藤を抱える中、ふいに扉がノックされる。入ってきたのは母である公爵夫人だった。
 「こんな時間まで起きているのね。大丈夫? 顔色がすぐれないわ」
 母親は心配そうな眼差しで近づき、娘の肩にそっと手を置く。ミアータは一瞬戸惑いながらも、静かに首を振った。
 「少し考えごとをしていただけよ。婚約破棄の件で……アレン様がこちらを訪ねてきたの」
 「そう……やはり何かあったのね」
 母親はため息交じりに言うと、続けて優しい声で言葉をかける。
 「あなたはもう十分、前へ進んでいるじゃない。孤児院を手助けして、新しい道を模索して……。たとえアレン殿が苦しんでいても、あなたが背負う必要はないわ。ここは一度、距離をおきなさい」
 その言葉は、ミアータの心に静かに染み込んだ。母は、娘を単に突き放すのではなく、「あなたにはあなたの人生がある」ということを優しく伝えたかったのだろう。
 「ええ……そうね。ありがとう、母様。私は私の道を……」
 そう呟いたとき、自然とある人物の姿が脳裏に浮かぶ。孤児院で頼もしいアドバイスをくれ、子供たちと笑顔で触れ合っていたカイル・エルネスト侯爵。彼の存在は、ミアータの中で日増しに大きくなりつつあるのを感じていた。
 「彼は私を支えてくれるのかしら。それとも、私が彼に近づきたいと思うのは、まだ早いのか……」
 これまで“完璧な婚約者”として振る舞ってきたミアータにとって、新しい恋や愛への踏み出し方はまったく未知の領域だ。だが、そっと目を閉じると、カイルの温かい笑顔と穏やかな声が脳裏に蘇り、胸がきゅんと疼くのを感じる。
 「あの時の私には、アレン様への気持ちが本物だったのか、それとも世間体のための義務感だったのか……。少なくとも今、私の心は別の人に強く惹かれている気がする」
 母親の前で露わにするわけにはいかないが、ミアータは自室に戻ると、ベッドに腰を下ろし、一人そっと胸を押さえた。そして小さな声で告げる。
 「真実の愛……。そんなものが私にも見つかるのかしら。でも、きっと……今の私なら、恐れずに探してみたいと思えるわ」

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