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4話
しおりを挟むルーシュエが館内で孤独と不安を抱えながら隠し部屋や文書を調べ上げ、家族の陰謀に気づき始めてから数日が経った。夜の帳が降りる頃、館内は静寂に包まれ、誰もが眠りについたかのような深い静けさが漂っていた。しかし、その夜、ひそかに動いていたのは義母マリナであった。
マリナは、表向きは心配そうな母の顔を装いながらも、実際は自分の野望を実現するため、ルーシュエという障害を排除する決意を固めていた。彼女の中には、かねてより「記憶を失った娘を利用し、自分の実の娘を跡継ぎに据える」という冷徹な計略が渦巻いていた。
その夜、館内の奥深くにある一室で、マリナは密かに計画を練っていた。彼女は小さな机に広げた紙片や、古い日記、そして何枚かの手紙を確認しながら、低い声でつぶやいた。
「これで、すべてがうまくいけば……ルーシュエがいなくなれば、私の娘が――」
その言葉は、静寂の中に冷たい響きを残した。
――第一の計略は、誘拐事件であった。
翌晩、マリナは、あらかじめ密かに雇っておいた一団の盗賊たちに指示を出した。
「ルーシュエを森の中へ連れ去れ。朝が来る前に、確実に彼女をこの館から消し去っておくのよ。」
盗賊たちは、黒装束に身を包み、闇に紛れて館内を忍び歩いた。計画通り、ルーシュエが寝静まった夜中、物音も立てずに部屋に忍び込み、彼女を無理やり連れ出そうとした。
しかし、ルーシュエは、深い眠りの中にもかかわらず、何かが違うと感じ、体を起こしてしまった。まさにその瞬間、部屋の戸がゆっくりと開き、盗賊たちの手が彼女に伸びた。だが、ルーシュエはとっさに身を翻し、かすかな光を放つ拳を振り上げた。
「ぎゃああっ!」
盗賊の一人が、彼女の拳に捉えられたかのように、その勢いで壁際に吹き飛ばされた。
騒音と共に他の盗賊たちも慌てふためき、混乱の中で計略は露見してしまった。
翌朝、館内には盗賊たちの足跡と、破壊された一部の設備の跡が残っていた。使用人たちは、何事もなかったかのように振る舞おうとしたが、噂はあっという間に広まった。冒険者ギルドに所属する一部の者が内部調査を開始し、ルーシュエの部屋から盗賊たちが使用した武器や手がかりが見つかると、すぐに疑念はマリナの存在に向けられた。
――次に、マリナは食事に毒を盛るという計略に出た。
その日の夕食時、館内の食堂には普段通り豪華な料理が並べられ、家族は笑顔を装いながら食事を楽しんでいた。ルーシュエもまた、何の異変も感じることなく食事をとっていた。しかし、彼女はふと、味や香りに違和感を覚えた。どうも、どこかに苦味と不穏な香りが混じっているような……。
ルーシュエは、慎重に口に運んだ料理を味わおうとしたが、隣にいた護衛の一人がすぐに眉をひそめ、鋭い声で警告した。
「お嬢様、これは危険です。食事に毒が盛られているかもしれません!」
その瞬間、館内は再び騒然とし、義母マリナの顔に一瞬、冷や汗が滲んだ。護衛たちが迅速に対応し、毒の疑いがある料理はすべて隔離された。冒険者ギルドの調査により、後日、実験室で検査された結果、微量ながらも毒物が検出されることが明らかになった。
「こんな……! 毒殺未遂だ……!」
と、護衛たちが嘆く中、ルーシュエはただ冷静にその状況を受け止めた。
彼女は自らの内に潜む力に気づいていたが、それを完全に制御できていなかった。しかし、今は何よりも自分の命を守るため、そしてこの陰謀の真相を暴くために、冷静さを保たねばならなかった。
――最後の計略は、屋敷で「事故」を装った暗殺だった。
夜も更け、館内の雰囲気はますます不穏になっていた。マリナは、計画の最終段階として、ルーシュエが眠りに落ちたと思われる夜、密かに自室の階段へ忍び込んだ。
彼女は、暗闇に紛れてルーシュエの寝室に近づき、そっと扉を開けた。そして、階段の端に立っていたルーシュエが、寝ぼけ眼の中、ふと階段を見下ろした瞬間――
突然、何者かがルーシュエを狙って、勢いよく突き落とそうとした。
「ぎゃああっ!」
ルーシュエは瞬時の反射で、飛び出してしまい、急転倒寸前になった。だが、奇跡的に、彼女の腕が階段の欄干に引っかかり、体勢を保つことができた。
その衝撃で、マリナ自身が、勢い余って階段から滑り落ちる寸前に転倒し、何とか転落を免れたが、明らかに計画は露見した。
館内に響く悲鳴と、駆け寄る使用人たちの足音の中で、ルーシュエはすぐさま状況を把握した。
「これは……必ず、誰かに気づかれる。私の命を狙う暗殺計画が……!」
彼女はすぐに護衛の冒険者たちに連絡し、異常があったことを報告した。
翌朝、館内には一連の暗殺未遂事件の痕跡が残っていた。
盗賊が暴れた跡、毒の痕跡、そして階段での事故と見せかけた事件……
すべてが、義母マリナの計略であることは、冒険者ギルドの調査により次第に明らかになっていった。
公爵は、これまでの証拠と使用人たちの証言を前に、怒りを露にせずにはいられなかった。
「こんなにも我が家に不幸をもたらすとは……ルーシュエ、君に何があったのか、どうしてこんなことになったのか、決して許されることではない。」
しかし、彼の怒りは、義母に向けられたものであった。
「マリナ、すべての証拠が揃った。君の陰謀は明らかだ。もはや、この家に君の居場所はない。」
公爵の厳しい口調は、館内に冷たい空気を巻き起こした。
使用人たちは一斉に頭を下げ、真実が明るみに出たことに安堵と同時に畏怖の念を抱いた。
その後、正式な調査が行われ、義母マリナの暗殺計略は、裏切りと悪事として記録された。
「あなたは、我が家を内側から蝕み、ルーシュエを排除しようとした。」
公爵は厳然たる態度で宣告した。
「マリナ・フォン・リヒト、あなたは公爵家より追放される。これ以上、家族の名を汚すことは許されぬ。」
その言葉は、館内に冷たい衝撃を走らせ、義母は深く沈黙した。
彼女は、すべての計略が露見したことに絶望し、もはや取り返しのつかぬ過ちを犯したと悟った。
ルーシュエは、その知らせを聞いたとき、複雑な感情に苛まれた。
「なぜ……私が狙われたのか?」
彼女は、自分がなぜ利用され、排除されようとしていたのか、その真意を問い続けた。しかし、答えは簡単ではなかった。
義母は、自分の娘を跡継ぎに据えるため、ルーシュエという存在が都合が悪いと考えていたに違いない。
だが、それだけではなく、家族内には数々の因縁や隠された秘密が存在していた。
ルーシュエは、ふと胸の奥で、記憶の欠片がぼんやりと蘇るような気がした。
「私……もしかして、誰かに利用されるために生まれてきたのかしら?」
その問いは、彼女の心に深い傷を刻み、同時にこれから自分自身で未来を切り拓く決意をもたらした。
館内では、義母マリナの追放が正式に決まり、家族はその知らせを重く受け止めた。
公爵は、ルーシュエに向けて優しく語った。
「これで、君はもう、家族のしがらみに縛られることはない。しかし、真実は必ず君の力となる。どうか、これからの道を恐れず歩むがよい。」
その言葉に、ルーシュエは静かにうなずいた。
彼女は、これまでの混乱と裏切りの中で、すべてを失ったわけではない。
むしろ、真実と自分自身の強さを知るための貴重な機会を得たのだと感じた。
夜が明けると、ルーシュエは館内を一人歩きながら、今後の計画を練り始めた。
「私は、これから自分の未来を自分の手で切り拓いてみせる。どんな裏切りや陰謀も、もはや私の進む道の障害にはならない。」
彼女は、隠し部屋で見つけた文書や手紙、古い写真の一枚一枚を慎重に整理し、家族の秘密を徹底的に解明する覚悟を固めた。
その過程で、彼女は自らの存在がいかに家族にとって都合の悪いものとされてきたのかを痛感する。
しかし、それは同時に、彼女が自分自身の力と可能性を知るための糧ともなった。
静かな館内の一角で、ルーシュエは小さな机に向かい、手に取った文書に目を通す。
古い筆跡で綴られた一文一文は、彼女にとっては遠い昔の囁きのように感じられたが、その中には確固たる事実と、裏切りの痕跡が隠されていた。
「……これが、義母の計略……」
彼女は震える手でその文書を握りしめ、心の中で強く誓った。
「もう、私は誰にも利用されない。私の未来は、私が決める。」
こうして、追放された義母の陰謀が明らかになった夜、ルーシュエは家族のしがらみと裏切りから解放されると同時に、自らの新たな道を歩む決意を固めた。
彼女は、記憶の断片を失った孤独な少女から、真実を追い求める強い女性へと変貌し始めたのだ。
館内の静寂な廊下を歩く彼女の足音は、未来への確かな一歩を刻むようであった。
「私は、もう振り返らない。これからは自分の力で、真実を掴み、未来を切り拓く。」
その言葉は、冷たい石壁や静まり返った部屋に確かに響き渡った。
外では、朝日がゆっくりと昇り、館の窓から柔らかな光が差し込む。
ルーシュエはその光を浴びながら、静かに微笑んだ。
「今日から、私は新たな一歩を踏み出す。」
そして、彼女はすべての裏切りと陰謀に満ちたこの館を後にし、未来への扉を開けるための準備を始めた。
これまでのすべての出来事――記憶喪失、森での目覚め、そして家族の裏切り――は、彼女にとって避けられない試練であった。
だが、同時にそれは、彼女が自分自身を確立し、自由に生きるための貴重な糧となった。
ルーシュエは、過去のすべてを背負いながらも、未来への希望と決意を新たに、静かに歩み出した。
「これからは、私が自分の運命を決める。誰にも縛られることなく、私だけの道を進むの。」
そう、彼女は、家族の陰謀と裏切りから解放されると同時に、自らの力で未来を切り拓くための覚悟を固めたのだった。
こうして、義母の陰謀が暴かれ、追放という形で決着を迎えた夜、ルーシュエは決して屈することのない強さと、未来への希望を胸に、次なる一歩を踏み出すのであった。
その歩みは、今後の冒険者としての旅路、そして自分自身の真実を見出すための、長く険しい道の始まりに他ならなかった。
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