婚約破棄されたので、愛のない契約結婚を選んだはずでした

鍛高譚

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第1章 婚約破棄と白い結婚の提案

1話

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カーテンリンゼ・セレスティーヌ・アルベルト――。
 優雅で美しく、どこか冷たいほどに整った顔立ちを持つ彼女は、広大な王都の中でもひときわ目立つ存在だった。その周囲には常に人だかりができ、彼女の一挙手一投足に大勢の貴族子弟が振り回される。そう、それほどに彼女の存在感は大きかった。
 生まれは名門アルベルト侯爵家、父は王国有数の財産と広大な領地を所有する侯爵。母は優美さと社交界での完璧なふるまいに定評があり、いわゆる“華のある令嬢”として名を馳せていた女伯爵の娘。そんな両親の一人娘であるカーテンリンゼは、当然ながら幼いころから周囲の期待を一身に背負い、そして何不自由なく育てられてきた。
 もっとも、本人はそうした環境をさほど気に入っているわけでもなかった。己に向けられる多くの称賛や憧憬の眼差しを、まるで淡々とした“景色”として眺めているかのようで、どこか冷ややかな視線を持ち合わせていたのである。

 そして、本来なら幸せの絶頂とも言えるはずの“王太子との婚約”という、すべての貴族令嬢が夢見るような栄誉を与えられても、カーテンリンゼ本人の内心はどこか白々しく乾いたままだった。
 ――王太子エドワルド。
 この国の未来を担う存在であり、王族としての気品と力強さを兼ね備えている。さらに、穏やかで優しい人柄は多くの国民に好感を持たれ、国王の代理として彼が公務を執り行う場面も珍しくはない。事実、カーテンリンゼ自身もエドワルドの良識ある言動や、決して傲慢になることのない誠実な態度には一定の評価をしていた。
 ただし、“恋愛”という点で見れば、彼女の胸のうちに芽生えるものは何もなかった。これまでにも何度か顔を合わせ、食事会や宮廷舞踏会などで会話を重ねてきた。だが、どんなに見目麗しい男性が相手であっても、カーテンリンゼの心はまるで動かない。

 ――愛なんてものは儚い。
 彼女は幼いころから、貴族の世界における“結婚”の実態をまざまざと見せつけられてきた。多くの場合、それは家同士の利害関係によって結ばれ、表面上は仲睦まじく見えても、その裏には複雑な感情や駆け引きが渦巻いている。
 彼女の両親は例外的に仲が良かったが、それでも互いの利益を考慮しての結婚だったと耳にしている。社交界においては愛よりも名誉、そして財力や地位がものを言う。ましてや、王太子の婚約者ともなれば、偽りの愛や、愛のふりをした打算がさらに増幅されるのではないか――そう考えれば考えるほど、カーテンリンゼは“愛”という概念にまったく興味を抱けなくなっていた。

 そんな彼女にとって、王太子エドワルドとの婚約は「義務」であり、「国に対する貢献」でしかなかった。父のアルベルト侯爵も、母も、そして王宮関係者も、大いに喜び、この結婚を前提とした諸々の準備を進めている。
 ――私にとってはただの形式。
 自分は王太子妃としての役目を果たし、国民の前で優美に振る舞い、王家と自家の繋がりを強固にする。それだけを粛々とこなしていけばいい。そう、カーテンリンゼは割り切っていた。
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