婚約破棄されたので、愛のない契約結婚を選んだはずでした

鍛高譚

文字の大きさ
2 / 29
第1章 婚約破棄と白い結婚の提案

2話

しおりを挟む
しかし、そんな彼女の淡々とした態度に、ある日エドワルドは耐えられなくなったのだろう。
 「カーテンリンゼ。俺はお前との結婚を考え直させてもらう」
 王宮に招かれた席で、彼はそう言い放った。まるで優しい表情を模した仮面を脱ぎ捨てるかのように、その声にはわずかな苛立ちが滲んでいた。

 突然の婚約破棄宣言に、周囲の侍女たちがどよめく。しかし、カーテンリンゼ本人は冷静そのものだった。むしろ「ようやくきたか」とでも言わんばかりに、ほんの少し眉をひそめた程度である。
 「私は、これまでに王太子殿下に何か不快な思いをさせてしまったのでしょうか」
 問いかける声は落ち着いていた。だが、王太子の返答もまた、遠回しではあるがはっきりとした拒絶であった。

 「お前の態度はまるで人形のようだ。優美ではあるが、心がまったく伴っていない。俺は王太子として、表向きは完璧に取り繕うことができる相手を求めていた。だが、いざお前と顔を合わせ、言葉を交わせば交わすほど、その空虚さに耐えられなくなる。……俺は、形だけの結婚を望んでいるわけじゃない」

 冷ややかな美貌を持つカーテンリンゼに対し、多くの者は“高嶺の花”として憧れを抱く。一方で、彼女の内面に近づこうとする者は、そこに暖かさを見いだせずに戸惑う。まるで深い湖の底を覗き込もうとしても、表面の鏡のような水面に自分が映るばかりで、内側が見えてこない。
 エドワルドはそれに耐えられなくなったのだろう。王太子とはいえ、一人の若き男性だ。将来を共にする女性には、自分を必要とし、自分に心を開いてほしい――そう思うのは自然なことかもしれない。

 「ですが、カーテンリンゼ。お前自身はどうなんだ? 俺との婚約に、何か感じるものはあったか? 嬉しさでも、不安でも、恐怖でもいい。何か、こう……心の底から湧きあがるものが、少しでもあったのか?」
 エドワルドの問いかけに、カーテンリンゼは言葉を詰まらせる。まさに、彼の言う通りだった。喜びも不安も、心を震わすような感情も、彼女の中には存在しなかった。たとえ相手が国の王太子であっても、愛を求める情熱を抱くことはできなかった。
 「私は……」
 どこか申し訳なさそうに言葉を切ると、カーテンリンゼはかすかに瞳を伏せた。

 それだけで、彼女の答えはわかる。
 「そっか。やっぱり、そうなんだな」
 エドワルドは静かにうなずいた。仮面の優しさを捨てた姿は、いつもよりも人間味を帯びているように思える。

 「だから、もういい。俺はお前のように冷淡な女と結婚して、これからの人生を灰色に染めるわけにはいかない。形だけの婚姻は、王太子妃の座を演じ切れる相手なら誰でもいいってわけでもないんだ。……俺は、愛する者と結ばれたい。お前にそれを求めるのは無理そうだ」
 そう言って、エドワルドは正式に婚約破棄を言い渡した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも
恋愛
「今回で最後だ。誓うよ」 これは二度目の『結婚式キャンセル』の時に言われた言葉。 四年間、愛する婚約者ディートリッヒのため尽くし続けてきたイリス。 だがディートリッヒは、イリスの献身を当然のものとし、やがて初恋の令嬢エレノアを優先するようになる。 裏切り、誤解、そして理不尽な糾弾。 心も身体も限界を迎えた夜、イリスは静かに決意した。 ──もう、終わらせよう。 ディートリッヒが「脅しのつもり」で差し出した婚約解消の書類を、イリスは本当に提出してしまう。 すべてを失ってから、ようやく自分の愛に気づいたディートリッヒ。 しかしもう、イリスは振り返らない。 まだ完結まで執筆が終わっていません。 20話以降は不定期更新になります。 設定はゆるいです。

愛してくれないのなら愛しません。

火野村志紀
恋愛
子爵令嬢オデットは、レーヌ伯爵家の当主カミーユと結婚した。 二人の初対面は最悪でオデットは容姿端麗のカミーユに酷く罵倒された。 案の定結婚生活は冷え切ったものだった。二人の会話は殆どなく、カミーユはオデットに冷たい態度を取るばかり。 そんなある日、ついに事件が起こる。 オデットと仲の良いメイドがカミーユの逆鱗に触れ、屋敷に追い出されそうになったのだ。 どうにか許してもらったオデットだが、ついに我慢の限界を迎え、カミーユとの離婚を決意。 一方、妻の計画など知らずにカミーユは……。

「君は強いから一人でも平気だろう?」と妹を優先する夫。~陶器の心を持つ私の完璧な微笑みに、夫が凍りつくまで~

水上
恋愛
努力と苦労の末、傾いた実家の窯業を立て直した伯爵令嬢アデライドに対し、夫は「君は強いから一人でも平気だろう?」と、いつも妹ばかりを甘やかした。 度重なる無神経さに、アデライドはついに見切りをつける。 「私が強いのではなく、あなたが私の弱さを無視し続けただけです」 水面下で着々と離縁の準備を進めていた彼女は、完璧な微笑みを残して屋敷を去った。 残されたのは、何もできない夫と、寄生することしか能のない家族。 影で支えていたアデライドを失った彼らが、生活と経営の両面で破滅していく様を描く、断罪の物語。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。  その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。  しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。  ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」  一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる────── ※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。 ※※不貞行為の描写があります※※ ※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

処理中です...