何もしない聖女は追放されましたが、隣国では“いるだけで奇跡が起こる”そうです

鍛高譚

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7話

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国王の寵愛と周囲の驚き

「フローレンス殿、今日も調子はいかがかな?」

国王レオポルドは、毎朝欠かさず彼女に挨拶するのが習慣になっていた。

「おかげさまで、よく眠れましたわ。あと、朝の紅茶が美味しゅうございました」

「それはよかった。ああ、こちらも体調は万全だ。まるで二十年前に戻ったかのようだよ」

王の快復ぶりは、日を追うごとに顕著になっていった。
かつては床に伏していた身体が、今では日課の散歩までこなすようになり、
ついには執務室に戻って政務をこなすほどに。

「……あの、私、本当に何もしておりませんのに」

「何もせずに、我が命を救った。それ以上の“何か”など、必要ないのだよ」

王の言葉は、フローレンスの心を静かに温めた。

その日の昼食会では、王子フェルディナンドとカミル第一王子も同席し、
フローレンスを囲んで和やかな雰囲気が広がっていた。

「君、やっぱり変わってるよね」

とカミルが言えば、

「ほっといてくださって結構ですわ。私は、“何もしない”のが信条なんですの」

とフローレンスが返す。

「でも、その“何もしない”で、うちの国が潤ってるんだよね。不思議だ」

「うちの猫も毛並みがよくなったぞ。あれも君のせいか?」

「責任は負いませんわよ?」

笑いが生まれ、使用人たちもつられて笑みをこぼす。

王宮の空気は明るく、穏やかだった。

---

一方、王宮の外では民衆の間で“奇跡の聖女”の評判が広がっていた。

「聖女様が通った村、作物の実りがすごいって!」
「王様の病も癒したっていうし、本当に神様のような方だ」

それに合わせて、トスカーナ国内の経済も上昇傾向を見せていた。

王国の魔法省は驚きの報告を提出する。

「この三ヶ月で、国内の自然魔力濃度が平均で三割上昇しています。すべてが聖女様の影響とは断定できませんが……ほぼ間違いないかと」

バジリオ学者は記者会見で語った。

「フローレンス殿がいることで、空気が柔らかくなり、地も水も穏やかになっている。これは、地脈と連動する大魔力の放出現象であり……つまり、“彼女が中心にいる限り、この国は癒される”のです」

それでも、フローレンス本人の認識はまったく変わっていなかった。

「なんだか皆さん、大げさですわね。私はいつも通り紅茶を飲んでるだけですのに」

---

そんな彼女の姿に、王宮の者たちだけでなく、民たちまでもが魅了されていった。

お忍びで宮殿を訪れた少年がいた。

「聖女様……母が、もうすぐ死んじゃうって……でも、最後に一目だけ会いたいって……」

「まぁ……そんなこと、どうして早く言ってくださらなかったの?」

フローレンスは少年の手を取り、王宮の者に言った。

「馬車を出してくださいまし。今すぐその方のもとへ参ります」

道中、何をするでもなく、ただ彼女はその家に入っていき、
老いた婦人の手を取って、にっこりと微笑んだ。

その瞬間――婦人の目に涙が浮かび、かすかに震える指でフローレンスの手を包んだ。

「……ああ、ありがたや……もう、それだけでいいんです……」

翌朝。
その婦人は、安らかな表情で眠るように旅立った。

それを見送った人々の心には、“癒し”だけが残っていた。

“何もしない聖女”は、確かにそこにいて、
ただ微笑むことで人々の心を救っていたのだった。
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