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第3章:交わされる偽りの弁明、そして決裂
19話
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離縁成立後の混乱
ギルバートが公爵家を去った翌日から、私たちは速やかに離縁を「正式書面」として記録に残すための手続きを進めた。というのも、貴族の離縁には王宮への届出が必要であり、そこで一度審査が行われるからだ。もっとも、当事者同士が合意している場合は、手続き自体はスムーズに進むことが多い。
父は自らの権力と騎士団への影響力を駆使し、瞬く間に必要な書類を整えた。さらに、念には念を入れて、ギルバートが書いたサインや家紋押印入りの離縁合意書を王宮の審議官に直接提示する手はずを整える。そのためにわざわざ王宮まで赴くことになったが、父にとってはさほど苦ではなかったようだ。
「クレア、書類は揃った。今日で離縁の手続きが完了するだろう。安心して待っていなさい」
「……ありがとうございます、父様」
父は私の頭をぽん、と軽く叩き、屋敷を出て行った。
私は客間でその様子を見送りながら、複雑な胸中を抱えていた。自分の結婚がこういう形で終わるなんて、結婚前は夢にも思わなかった。愛し合うはずの夫婦が、わずか数週間で完全に決裂し、離縁に至る——。
けれど、それこそがギルバートの狙いだったのだから仕方ない。私は再びギルバートの裏切りを思い出し、心を暗い感情がかすめるのを感じる。
そんなとき、私の母がやってきて、少し外へ出ないかと誘ってくれた。
「あなた、ずっと屋敷の中にこもっていたでしょう? 天気もいいし、中庭を散歩しましょう」
「……そうですね。気分転換したいです」
母に手を引かれるまま、屋敷の敷地内を歩く。手入れの行き届いた中庭には、初夏の陽射しが降り注ぎ、色とりどりの花が咲き誇っていた。
バラのアーチをくぐり、噴水のある小さな広場へと出る。水面に揺れる光が眩しく、私は目を細めた。幼い頃から見慣れた風景なのに、今はどこか新鮮な気がする。
「クレア」
母が私の肩にそっと手を置く。
「これから先、あなたはまた社交の場に出ることもあるでしょうし、再婚の話も出てくるかもしれないわ。けれど、まずはゆっくりと心を休めて、自分を取り戻すことが大事よ。傷ついたままの心で無理に動き回ると、きっと辛いだけだから」
「……母様」
私が結婚後すぐに戻ってきたことは、当然ながら社交界でも大きな話題になっている。けれど、幸いなことに父と母の手回しのおかげで詳細は伏せられており、「クレアが体調を崩したため、しばらく実家で静養している」という程度の噂が流れているようだ。
もっとも、そのうちギルバートが何かを吹聴すれば、スキャンダルとして広まる可能性は高い。だが、それより先に離縁が確定すれば、私が公爵家で保護される形になる。あまり大事にならないよう、父母が一生懸命動いてくれたのだ。
「……こんな私でよければ、何度でもやり直せるものなんでしょうか」
母の優しさが嬉しくて、しかし同時に不安も大きい。私はぼんやりと噴水を眺めながら呟く。
「当たり前じゃない。あなたはまだ若いし、これからたくさんの出会いがあるわ。第一、あなたは何も悪いことをしていない。悪いのはギルバートなのだから、自分を責める必要はないのよ」
母の言葉に、私はほんの少しだけ笑みを返した。再婚——正直、今は全く考えられない。あんな思いをするなら、二度と結婚なんてしたくないとも思う。だが、母はそれを急かすつもりはないと言ってくれている。
「ありがとう、母様。今はただ、ゆっくり休みたいわ」
そう言ったところで、私の胸に少しだけ希望の光が差し込んでくる。ギルバートの存在に縛られず、これからは自分の意思で人生を歩んでいける。そう思うと、重い鎖から解放されたような気持ちになれるのだ。
私と母は、しばらく噴水の周囲を散歩しながら言葉を交わし、やがて少し疲れた頃合いで再び屋敷へと戻っていった。
ギルバートが公爵家を去った翌日から、私たちは速やかに離縁を「正式書面」として記録に残すための手続きを進めた。というのも、貴族の離縁には王宮への届出が必要であり、そこで一度審査が行われるからだ。もっとも、当事者同士が合意している場合は、手続き自体はスムーズに進むことが多い。
父は自らの権力と騎士団への影響力を駆使し、瞬く間に必要な書類を整えた。さらに、念には念を入れて、ギルバートが書いたサインや家紋押印入りの離縁合意書を王宮の審議官に直接提示する手はずを整える。そのためにわざわざ王宮まで赴くことになったが、父にとってはさほど苦ではなかったようだ。
「クレア、書類は揃った。今日で離縁の手続きが完了するだろう。安心して待っていなさい」
「……ありがとうございます、父様」
父は私の頭をぽん、と軽く叩き、屋敷を出て行った。
私は客間でその様子を見送りながら、複雑な胸中を抱えていた。自分の結婚がこういう形で終わるなんて、結婚前は夢にも思わなかった。愛し合うはずの夫婦が、わずか数週間で完全に決裂し、離縁に至る——。
けれど、それこそがギルバートの狙いだったのだから仕方ない。私は再びギルバートの裏切りを思い出し、心を暗い感情がかすめるのを感じる。
そんなとき、私の母がやってきて、少し外へ出ないかと誘ってくれた。
「あなた、ずっと屋敷の中にこもっていたでしょう? 天気もいいし、中庭を散歩しましょう」
「……そうですね。気分転換したいです」
母に手を引かれるまま、屋敷の敷地内を歩く。手入れの行き届いた中庭には、初夏の陽射しが降り注ぎ、色とりどりの花が咲き誇っていた。
バラのアーチをくぐり、噴水のある小さな広場へと出る。水面に揺れる光が眩しく、私は目を細めた。幼い頃から見慣れた風景なのに、今はどこか新鮮な気がする。
「クレア」
母が私の肩にそっと手を置く。
「これから先、あなたはまた社交の場に出ることもあるでしょうし、再婚の話も出てくるかもしれないわ。けれど、まずはゆっくりと心を休めて、自分を取り戻すことが大事よ。傷ついたままの心で無理に動き回ると、きっと辛いだけだから」
「……母様」
私が結婚後すぐに戻ってきたことは、当然ながら社交界でも大きな話題になっている。けれど、幸いなことに父と母の手回しのおかげで詳細は伏せられており、「クレアが体調を崩したため、しばらく実家で静養している」という程度の噂が流れているようだ。
もっとも、そのうちギルバートが何かを吹聴すれば、スキャンダルとして広まる可能性は高い。だが、それより先に離縁が確定すれば、私が公爵家で保護される形になる。あまり大事にならないよう、父母が一生懸命動いてくれたのだ。
「……こんな私でよければ、何度でもやり直せるものなんでしょうか」
母の優しさが嬉しくて、しかし同時に不安も大きい。私はぼんやりと噴水を眺めながら呟く。
「当たり前じゃない。あなたはまだ若いし、これからたくさんの出会いがあるわ。第一、あなたは何も悪いことをしていない。悪いのはギルバートなのだから、自分を責める必要はないのよ」
母の言葉に、私はほんの少しだけ笑みを返した。再婚——正直、今は全く考えられない。あんな思いをするなら、二度と結婚なんてしたくないとも思う。だが、母はそれを急かすつもりはないと言ってくれている。
「ありがとう、母様。今はただ、ゆっくり休みたいわ」
そう言ったところで、私の胸に少しだけ希望の光が差し込んでくる。ギルバートの存在に縛られず、これからは自分の意思で人生を歩んでいける。そう思うと、重い鎖から解放されたような気持ちになれるのだ。
私と母は、しばらく噴水の周囲を散歩しながら言葉を交わし、やがて少し疲れた頃合いで再び屋敷へと戻っていった。
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