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16話
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「それでは、わたくしどもは予定通り、王都を発ちます! カレンを万全の状態にするため、月の巫女の花を見つけだすのだ!」
早朝の王城前広場。王太子レオン殿下の高らかな声が響き渡り、わたくし――フランボワーズ・ド・シャルティエはその様子を少し離れた場所から見つめていた。
出発の日がついに来てしまった、というのが正直な感想である。ほんの数週間前までは、わたくしは「婚約破棄された捨てられ令嬢」として平穏に暮らせるはずだったのだが……。いまや王太子殿下と聖女カレン様に巻き込まれ、危険かもしれない“月の巫女の花探しの旅”へ同行することになってしまった。
「フランボワーズ様、どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ」
見送りに来てくれた母が、わたくしの手をぎゅっと握りしめる。
「大丈夫ですわ、お母様。セイラン殿下も可能な限りサポートしてくださると仰っていましたし、護衛騎士も大勢いますもの」
そう微笑んではみるものの、母の表情は不安げだ。わたくし自身も、不安がないと言えば嘘になる。
しかし、同時にわくわくした高揚感もあるのが不思議だ。珍しい薬草や動物に出会えるかもしれないし、何より今回の目的である“月の巫女の花”は昔から文献にだけ存在した幻の花。錬金術マニアとしては、こんなに胸が躍る話はそうそうない。
旅の一行
今回の旅には、次のメンバーが参加する。
王太子レオン殿下……旅の発起人。やる気だけは十分だが、政務を放棄しているため王宮内での評判は悪化中。
聖女カレン様……体調が安定しないままの参加。殿下と離れたくないと言い張り、無理をおして馬車に乗る。
フランボワーズ(わたくし)……錬金術&薬草学担当。護衛騎士に守られながら、実地調査と薬の調合を担う。
騎士団数名……国王陛下とセイラン殿下の手配により選ばれた護衛要員。皆が頭を抱えているが、王太子命令には逆らえない。
従者や侍女数名……カレン様や殿下の身の回りの世話をするが、危険地帯には深入りしない方針。
本当は第二王子セイラン殿下も同行を申し出てくれたが、王都を空けると政務に大きな支障が出るため、やむなく断念したらしい。ただし、「何かあればすぐに連絡するように」と、使いの鳥(魔力で通信できる特殊な使い魔)を一羽渡してくださった。
「もしものときは、必ず知らせてくれ。……フランボワーズ、どうか無事で」
そう言われたとき、わたくしは少し胸がきゅんとした。
出発、そして早速のトラブルの予感
王都から東に延びる街道を、わたくしたち一行は馬車数台と騎馬隊で進んでいく。大通りこそ整備されているが、辺境へ近づくにつれ道は荒れ、森や湿地が増えてくる。
「ねえ、フランボワーズ。あんた、本当にあの花の在処を知ってるんでしょうね?」
馬車の中、レオン殿下がやや疑いの目でこちらを見てくる。
「いえ、“確実にここにある”と断言できるほどの情報はありませんわ。あくまでも古文献を元に推測しただけです」
「なんだ、そうなのか? まあいい。俺はカレンのためならどこへでも行くからな」
殿下が意気込みを示す一方、ソファに座るカレン様はうつむいたまま。体調が芳しくないらしく、暑さと馬車の揺れで少し辛そうだ。
「カレン様、無理をなさらないで。お水を飲んでくださいな」
「……ありがとう、フランボワーズ様。すみません、足を引っ張っちゃって」
申し訳なさそうに微笑む彼女。その顔色の悪さが気になって、わたくしは簡易的に作った鎮静薬を差し出す。
「少し飲むだけで、楽になるはずです。眠くなるかもしれませんが……」
「はい、ありがとうございます……」
彼女は言われるがまま、薬を口に含む。しばらくすると、呼吸が落ち着き、目を閉じて小さく微睡(まどろ)み始めた。
「カレンの看病は任せたぞ、フランボワーズ。お前のその薬、本当によく効くらしいからな」
レオン殿下は軽い調子で言うが、内心では相当に不安なのだろう。カレン様をこんな状態で旅に連れ出して大丈夫なのかと、わたくしのほうがハラハラする。
――そして、出発して一日目の夜。早くも最初のトラブルがやってきた。
早朝の王城前広場。王太子レオン殿下の高らかな声が響き渡り、わたくし――フランボワーズ・ド・シャルティエはその様子を少し離れた場所から見つめていた。
出発の日がついに来てしまった、というのが正直な感想である。ほんの数週間前までは、わたくしは「婚約破棄された捨てられ令嬢」として平穏に暮らせるはずだったのだが……。いまや王太子殿下と聖女カレン様に巻き込まれ、危険かもしれない“月の巫女の花探しの旅”へ同行することになってしまった。
「フランボワーズ様、どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ」
見送りに来てくれた母が、わたくしの手をぎゅっと握りしめる。
「大丈夫ですわ、お母様。セイラン殿下も可能な限りサポートしてくださると仰っていましたし、護衛騎士も大勢いますもの」
そう微笑んではみるものの、母の表情は不安げだ。わたくし自身も、不安がないと言えば嘘になる。
しかし、同時にわくわくした高揚感もあるのが不思議だ。珍しい薬草や動物に出会えるかもしれないし、何より今回の目的である“月の巫女の花”は昔から文献にだけ存在した幻の花。錬金術マニアとしては、こんなに胸が躍る話はそうそうない。
旅の一行
今回の旅には、次のメンバーが参加する。
王太子レオン殿下……旅の発起人。やる気だけは十分だが、政務を放棄しているため王宮内での評判は悪化中。
聖女カレン様……体調が安定しないままの参加。殿下と離れたくないと言い張り、無理をおして馬車に乗る。
フランボワーズ(わたくし)……錬金術&薬草学担当。護衛騎士に守られながら、実地調査と薬の調合を担う。
騎士団数名……国王陛下とセイラン殿下の手配により選ばれた護衛要員。皆が頭を抱えているが、王太子命令には逆らえない。
従者や侍女数名……カレン様や殿下の身の回りの世話をするが、危険地帯には深入りしない方針。
本当は第二王子セイラン殿下も同行を申し出てくれたが、王都を空けると政務に大きな支障が出るため、やむなく断念したらしい。ただし、「何かあればすぐに連絡するように」と、使いの鳥(魔力で通信できる特殊な使い魔)を一羽渡してくださった。
「もしものときは、必ず知らせてくれ。……フランボワーズ、どうか無事で」
そう言われたとき、わたくしは少し胸がきゅんとした。
出発、そして早速のトラブルの予感
王都から東に延びる街道を、わたくしたち一行は馬車数台と騎馬隊で進んでいく。大通りこそ整備されているが、辺境へ近づくにつれ道は荒れ、森や湿地が増えてくる。
「ねえ、フランボワーズ。あんた、本当にあの花の在処を知ってるんでしょうね?」
馬車の中、レオン殿下がやや疑いの目でこちらを見てくる。
「いえ、“確実にここにある”と断言できるほどの情報はありませんわ。あくまでも古文献を元に推測しただけです」
「なんだ、そうなのか? まあいい。俺はカレンのためならどこへでも行くからな」
殿下が意気込みを示す一方、ソファに座るカレン様はうつむいたまま。体調が芳しくないらしく、暑さと馬車の揺れで少し辛そうだ。
「カレン様、無理をなさらないで。お水を飲んでくださいな」
「……ありがとう、フランボワーズ様。すみません、足を引っ張っちゃって」
申し訳なさそうに微笑む彼女。その顔色の悪さが気になって、わたくしは簡易的に作った鎮静薬を差し出す。
「少し飲むだけで、楽になるはずです。眠くなるかもしれませんが……」
「はい、ありがとうございます……」
彼女は言われるがまま、薬を口に含む。しばらくすると、呼吸が落ち着き、目を閉じて小さく微睡(まどろ)み始めた。
「カレンの看病は任せたぞ、フランボワーズ。お前のその薬、本当によく効くらしいからな」
レオン殿下は軽い調子で言うが、内心では相当に不安なのだろう。カレン様をこんな状態で旅に連れ出して大丈夫なのかと、わたくしのほうがハラハラする。
――そして、出発して一日目の夜。早くも最初のトラブルがやってきた。
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