婚約破棄されたら運が覚醒しました

鍛高譚

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25話

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婚約破棄から始まった、本当の幸運

それからしばらく経ち、わたくしとセイラン殿下(いまや王太子殿下)は正式に婚約を発表した。
国民の多くは「レオン殿下がいなくなった今、セイラン殿下が王になるのは妥当」と受け止め、わたくしに対しても好意的な声が目立つ。
――以前は「捨てられ令嬢」「かわいそうな子」などと思われていたのが嘘のようだ。

庭園の一角、バラが咲き誇るアーチの下で、わたくしはセイラン殿下と並んで歩く。
「フランボワーズ、顔が緩んでいるぞ」
「……あら、失礼いたしました。婚約破棄されて悲しむかと思ったら、こんな幸運に恵まれるなんて、まだ夢を見ているようですわ」
恥ずかしげに言うと、殿下は声を立てて笑う。

「最初からお前は“王太子妃としての本分”なんて気にしていなかったじゃないか。むしろ、らっきーすとらいくのおかげで、周囲のほうが振り回された感じだな」
「ま、まあ……否定はできませんわ」
最初は“ざまぁ”展開を期待されていたとしても、結果的にわたくしは何も大きな努力をしていない。勝手に運が良い方向へ転がっていっただけの話なのだ。

一方、レオン元殿下とカレン様のその後は、公にはほとんど姿を見せていない。噂では、田舎の療養地で静かに暮らしているという。
カレン様の容体は改善したり悪化したりを繰り返しているようだが、レオン元殿下が懸命に看病しているという話を耳にした。
「不思議なものだよな。兄上があれほどまでに一途になれるとは、昔の俺には想像もできなかった」
セイラン殿下がしみじみとそう言う。
「……きっとカレン様にはカレン様の役割があって、レオン殿下にもまた違う幸せがあるんでしょう。おそらく、わたくしの“らっきーすとらいく”とは別のベクトルでね」

そう思えば、この世界は案外、上手くできているのかもしれない。誰もがそれぞれの場所で、模索しながら生きている。
わたくしも、錬金術研究所の開設に向けて忙しい日々が始まるが、何だかとても前向きな気持ちでいっぱいだ。今度は“婚約破棄令嬢”ではなく、“幸運の王太子妃候補”として、新たな道を堂々と歩めるのだから。

「セイラン殿下、今度、研究所の完成披露をしたら、皆でお茶会を開きませんか? 最新の錬金術で作ったお菓子や香りを披露したら、きっと楽しんでいただけると思うのです」
「いいな、それ。お前の研究の集大成を見せてくれ。――いや、その頃には“王妃”としてのお前と、共に祝杯を上げるのも悪くない」

殿下のまっすぐな視線を受け止めながら、わたくしは笑顔を返す。
かつて“婚約破棄”をされたときは、心のどこかで落ち込むかと思っていた。けれど、それがスタートだった。身も心も縛られず、自然体で好きなことを追いかけた結果、いまの幸運がやってきたのだ。

――こうして、婚約破棄から始まったわたくしの物語は、思いもよらぬかたちで“本当の幸せ”を掴んで幕を下ろす。
レオン殿下とカレン様は“聖女伝説”の終焉と共に、世間から姿を消していくかもしれない。しかし、それぞれに新しい人生を選んだのは事実だ。
そして、わたくしはこの国の新たな王太子妃として、錬金術研究と“らっきーすとらいく”な日常を楽しむ。恋も、研究も、わたくしの“自由”にしてみせる。
婚約破棄による一時のスキャンダルが、こんな結末をもたらそうとは――人生、何が起こるかわからない。だからこそ、面白い。

その日、庭園を吹き抜けるそよ風が心地よく、満開の花々が出迎えてくれた。わたくしは心の底から微笑みながら、セイラン殿下と隣り合って歩く。
今なら胸を張って言える。婚約破棄すら、わたくしにとっては“ラッキー”に転がる最高の出来事だったのだ、と。
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