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1-4 未来の抵抗と、新居に連れて行かれる未来
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1-4 未来の抵抗と、新居に連れて行かれる未来
その日は、結局ずるずると一日が過ぎていった。
新居の見学という名目で連れてこられた超高級マンション。
シャンデリアが煌めく広すぎるリビング。
調度品はすべて本物、イタリア製やらフランス製やら、未来にはわけがわからない代物ばかり。
専属のシェフは昼食を用意してくれていた。
出された料理は、カフェメニューでもなく家庭の味でもなく、もはやレストランのフルコースだった。
「……これって、ランチ……だよね?」
「ええ。普段はもう少し軽めですが、今日は“歓迎メニュー”です」
「……もう、胃も心も満腹なんですけど……」
料理を作ったシェフは満足げだった。
未来はこの状況が現実なのか夢なのか、途中から味すらよくわからなくなっていた。
午後にはメイドが三人現れ、未来の“部屋”に案内される。
「お嬢様のドレッサーはこちらです。コスメは一通り揃えてありますが、お気に召さなければ取り寄せも可能です」
「この棚、何段あるの……? っていうか、化粧なんてまだ全然分かんないんだけど……」
クローゼットには制服の予備や私服が、すでに整理されて並んでいた。
「……あれ、これ……」
「お母様と旦那様から事前に伺っておりましたので、サイズなども考慮してご用意しております」
「服のサイズまで把握されてるって、どんな情報網!?」
もはや逃げ場などない。
“結婚”という一方的な通達は、気がつけば現実に塗り固められ、未来はすでにその舞台の上に立たされていた。
しかも、この城のような新居は、逃げ場がどこにもない。
玄関にはオートロックと顔認証。
廊下は静かで広く、家なのにやたらと音が反響する。
リビングにはあの“久川隼人”が、ごく自然に座っていた。
ソファに寄りかかる姿すら、様になる。
無駄がなくて、隙もない。
彼にとってはこの豪邸が日常であり、未来にとっては非日常の塊だ。
「……ちょっと散歩してきていいですか」
「外出希望ですか? 構いませんが、車を出しましょうか」
「違うんです。部屋の外に出たいってだけです」
「では、メイドが付き添います」
「ひとりにならせてよおおお!!」
どうやっても、自由にならない。
囲われている。保護されている。優しく、丁寧に、でも確実に――
未来は、静かにクッションを抱えてソファの隅に丸くなった。
「ねぇ、私……これから、どうなっちゃうの?」
ぽつりとこぼれたその言葉に、隼人がコーヒーを口にしながら答える。
「どうなるも何も。君は、僕の妻になる。それだけです」
「……高校生でも?」
「関係ない。君は君だ。年齢も学歴も、君の価値を決めるものじゃない」
未来はクッションに顔を埋めたまま、モゴモゴと返す。
「……それ、言ってて自分で恥ずかしくならないんですか」
「ならない。むしろ、もう少し言ってやろうか?」
「やめて!耳が腐る!」
それでも、心の奥の方で――ほんの少し、あたたかくなっている自分がいた。
夜。
「未来さん。そろそろお部屋に」
「……うん」
案内されたのは、広すぎるベッドルーム。
隼人とは別の部屋だ。
でも、ダブルベッドがふたつ並べられているのを見て、未来は思わず身構えた。
(まさか、一緒に寝ろとか言わないよね……!?)
「ご安心ください。隣の部屋が僕の寝室です」
「よ、よかった……」
「ただ、君が寂しくなったら、いつでもおいで」
「来ません!!!」
全力で断言して、部屋のドアを閉めた。
けれど――
その夜。
布団の中で目を閉じたはずなのに、全然寝付けなかった。
天井が広くて、静かすぎて、空調の音すらやたら響く。
「……なんか、逆に落ち着かない……」
もぞもぞと寝返りを打っていた、そのとき。
ノックの音。
「未来、起きてるか?」
「っ! な、なに!? 夜に来ないでって言ったじゃん!」
「わかってる。でも……ちょっとだけ」
半開きになったドアの向こうに、パジャマ姿の隼人がいた。
スーツじゃないだけで、妙に家庭的で、それが逆に落ち着かない。
「こっちの部屋、寒くないか? ブランケットが足りないなら――」
「……あったかいけど、逆に心が寒いんで、帰ってください」
「そうか。じゃあ――」
そう言って、なぜか未来のベッドに腰を下ろした。
「ちょ、え!? なんで入ってきてんの!? ダメでしょ!? セーフじゃないよこれ完全にアウトだよ!?」
「君がちゃんとここにいるって、確かめたかっただけ」
「いや、確かめるだけでこんな距離詰める必要ある!? 近い!近いってば!!」
でも――
隼人は、言葉を返さないまま、そっと未来を抱きしめた。
「……っ!? ちょ、ちょっと、マジで何して……っ」
「こんなに可愛いものを、そばに置かなくてどうする?」
耳元で囁かれて、未来の思考が止まった。
(な、なに、これ……やば……心臓……爆発する……)
しかし、隼人はそのまま静かに息を整えて――
そのまま、すーすーと寝息を立て始めた。
「……え?」
未来が固まる。
「まさか、もう寝てる!? これで!?」
抱きしめたまま、未来を“抱き枕”にして、隼人は完璧に熟睡していた。
「……えー……? って……私……なにこれ、抱き枕ポジション……?」
頬に当たる隼人の胸元が、あたたかい。
ぬくもりと静かな鼓動に包まれながら、未来は困ったように小さく呟いた。
「……なんなのこの生活……私、ほんとに女子高生だよね……?」
そのまま彼女もまた、逃げられない現実の中で、ゆっくりとまぶたを閉じた。
その日は、結局ずるずると一日が過ぎていった。
新居の見学という名目で連れてこられた超高級マンション。
シャンデリアが煌めく広すぎるリビング。
調度品はすべて本物、イタリア製やらフランス製やら、未来にはわけがわからない代物ばかり。
専属のシェフは昼食を用意してくれていた。
出された料理は、カフェメニューでもなく家庭の味でもなく、もはやレストランのフルコースだった。
「……これって、ランチ……だよね?」
「ええ。普段はもう少し軽めですが、今日は“歓迎メニュー”です」
「……もう、胃も心も満腹なんですけど……」
料理を作ったシェフは満足げだった。
未来はこの状況が現実なのか夢なのか、途中から味すらよくわからなくなっていた。
午後にはメイドが三人現れ、未来の“部屋”に案内される。
「お嬢様のドレッサーはこちらです。コスメは一通り揃えてありますが、お気に召さなければ取り寄せも可能です」
「この棚、何段あるの……? っていうか、化粧なんてまだ全然分かんないんだけど……」
クローゼットには制服の予備や私服が、すでに整理されて並んでいた。
「……あれ、これ……」
「お母様と旦那様から事前に伺っておりましたので、サイズなども考慮してご用意しております」
「服のサイズまで把握されてるって、どんな情報網!?」
もはや逃げ場などない。
“結婚”という一方的な通達は、気がつけば現実に塗り固められ、未来はすでにその舞台の上に立たされていた。
しかも、この城のような新居は、逃げ場がどこにもない。
玄関にはオートロックと顔認証。
廊下は静かで広く、家なのにやたらと音が反響する。
リビングにはあの“久川隼人”が、ごく自然に座っていた。
ソファに寄りかかる姿すら、様になる。
無駄がなくて、隙もない。
彼にとってはこの豪邸が日常であり、未来にとっては非日常の塊だ。
「……ちょっと散歩してきていいですか」
「外出希望ですか? 構いませんが、車を出しましょうか」
「違うんです。部屋の外に出たいってだけです」
「では、メイドが付き添います」
「ひとりにならせてよおおお!!」
どうやっても、自由にならない。
囲われている。保護されている。優しく、丁寧に、でも確実に――
未来は、静かにクッションを抱えてソファの隅に丸くなった。
「ねぇ、私……これから、どうなっちゃうの?」
ぽつりとこぼれたその言葉に、隼人がコーヒーを口にしながら答える。
「どうなるも何も。君は、僕の妻になる。それだけです」
「……高校生でも?」
「関係ない。君は君だ。年齢も学歴も、君の価値を決めるものじゃない」
未来はクッションに顔を埋めたまま、モゴモゴと返す。
「……それ、言ってて自分で恥ずかしくならないんですか」
「ならない。むしろ、もう少し言ってやろうか?」
「やめて!耳が腐る!」
それでも、心の奥の方で――ほんの少し、あたたかくなっている自分がいた。
夜。
「未来さん。そろそろお部屋に」
「……うん」
案内されたのは、広すぎるベッドルーム。
隼人とは別の部屋だ。
でも、ダブルベッドがふたつ並べられているのを見て、未来は思わず身構えた。
(まさか、一緒に寝ろとか言わないよね……!?)
「ご安心ください。隣の部屋が僕の寝室です」
「よ、よかった……」
「ただ、君が寂しくなったら、いつでもおいで」
「来ません!!!」
全力で断言して、部屋のドアを閉めた。
けれど――
その夜。
布団の中で目を閉じたはずなのに、全然寝付けなかった。
天井が広くて、静かすぎて、空調の音すらやたら響く。
「……なんか、逆に落ち着かない……」
もぞもぞと寝返りを打っていた、そのとき。
ノックの音。
「未来、起きてるか?」
「っ! な、なに!? 夜に来ないでって言ったじゃん!」
「わかってる。でも……ちょっとだけ」
半開きになったドアの向こうに、パジャマ姿の隼人がいた。
スーツじゃないだけで、妙に家庭的で、それが逆に落ち着かない。
「こっちの部屋、寒くないか? ブランケットが足りないなら――」
「……あったかいけど、逆に心が寒いんで、帰ってください」
「そうか。じゃあ――」
そう言って、なぜか未来のベッドに腰を下ろした。
「ちょ、え!? なんで入ってきてんの!? ダメでしょ!? セーフじゃないよこれ完全にアウトだよ!?」
「君がちゃんとここにいるって、確かめたかっただけ」
「いや、確かめるだけでこんな距離詰める必要ある!? 近い!近いってば!!」
でも――
隼人は、言葉を返さないまま、そっと未来を抱きしめた。
「……っ!? ちょ、ちょっと、マジで何して……っ」
「こんなに可愛いものを、そばに置かなくてどうする?」
耳元で囁かれて、未来の思考が止まった。
(な、なに、これ……やば……心臓……爆発する……)
しかし、隼人はそのまま静かに息を整えて――
そのまま、すーすーと寝息を立て始めた。
「……え?」
未来が固まる。
「まさか、もう寝てる!? これで!?」
抱きしめたまま、未来を“抱き枕”にして、隼人は完璧に熟睡していた。
「……えー……? って……私……なにこれ、抱き枕ポジション……?」
頬に当たる隼人の胸元が、あたたかい。
ぬくもりと静かな鼓動に包まれながら、未来は困ったように小さく呟いた。
「……なんなのこの生活……私、ほんとに女子高生だよね……?」
そのまま彼女もまた、逃げられない現実の中で、ゆっくりとまぶたを閉じた。
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