冷たい婚約破棄?では契約結婚いたしましょう

鍛高譚

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第一章:氷の令嬢、無慈悲に婚約破棄される

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第一章:氷の令嬢、無慈悲に婚約破棄される

 王都ラクリスは、今日も朝から清々しい陽光に包まれていた。立ち並ぶ石畳の道は多くの商人や旅人でにぎわい、大通りでは忙しなく荷馬車が行き交っている。遠くにそびえる白亜の王城、その優美な尖塔の先端が青空を突き抜けるかのように輝いていた。
 そんな王都の中心から少し離れた場所に、リチャードソン公爵家の屋敷は建っている。周囲は緑豊かな庭園で囲まれ、様々な季節の花が艶やかに咲き誇ることで名高い。王家に次ぐ高貴な家柄でありながら、華美すぎない落ち着いた内装と丁寧な管理が行き届いた庭園は、多くの貴族たちから「品位ある佇まい」と称賛されていた。

 そんなリチャードソン公爵家の令嬢――ヴァレリー・リチャードソンは、王国における最高の美貌と知性を持つと噂されている。深い金色の髪と美しい青紫色の瞳は、まるで氷の宝石を思わせる輝きを帯びている。
 ただし、そのあまりに冷ややかな表情と、まるで氷の彫刻のように整いすぎた容姿のせいか、社交界では「氷の令嬢」と揶揄されることも少なくなかった。本人はあまり意に介していないが、どこか隙を感じさせない雰囲気や、他人に流されず常に冷静沈着である点も相まって、そのような異名が定着している。

 ヴァレリーは、今まさに午前中のティータイムを終え、午後から開かれる王宮主催の舞踏会の準備をしていた。
 この舞踏会は、ただの社交の場として開かれるものではない。王太子であるエドワード殿下が、長らく婚約中だったヴァレリーとの正式な結婚日程を、そろそろ発表するのではないか、と噂されている。

 ヴァレリーは王太子エドワードと数年前に婚約して以来、王太子妃候補として周囲に振る舞ってきた。まだ若いにもかかわらず、公務の手伝いや各種慈善事業を積極的にこなし、貴族としての務めに不足はない。その凛とした姿はしばしば話題に上り、「王太子の隣に立つのに、これほどふさわしい女性はいない」とも評されている。
 だが同時に、人々は心の奥底で思っていた。――本当に王太子とヴァレリーは、互いに心を通わせているのだろうか? と。

 なぜなら、エドワード殿下は噂好きの貴族令嬢たちに囲まれるのが好きで、あまり落ち着きがなく、どこか軽薄なところがある。一方のヴァレリーは、そうした軽々しい振る舞いを最も嫌う性格だった。
 公の場では互いに微笑み合って見せるが、その笑顔に真実味を感じない――。周囲にそう思わせる程度には、二人の間にぎこちなさがあった。

 しかし、王家とリチャードソン公爵家は古くからの縁が深い。国政においても公爵家は要であり、今さら婚約解消などということはありえない。少なくとも、誰もがそう思っていた。

 だが、この日の舞踏会こそが、人々の思い込みを一変させる大きな転機となる。

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