冷たい婚約破棄?では契約結婚いたしましょう

鍛高譚

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第一章:氷の令嬢、無慈悲に婚約破棄される

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 広々とした王城の大広間では、既に多くの貴族たちが華やかな装いで集っていた。シャンデリアの眩い光が床を美しく照らし、壁には歴代の王や英雄の肖像画が飾られている。会場の中央では壮麗なオーケストラが演奏を始め、優雅なワルツの調べが響き渡っていた。
 ヴァレリーは自家の馬車を降り、侍女に続かれる形で会場へ入る。ドレスは淡いパールグレーを基調とし、裾のフリルや胸元のビジューにも過度な装飾はなく、むしろシンプルな気品を漂わせている。氷の彫刻めいた美貌のヴァレリーがまとえば、その控えめな色調ですら目を奪われるほどの威容となるのだから不思議だ。

 大広間に入り、一際目立つ場所に立つと、すでに多くの視線がヴァレリーへと注がれていた。だが、彼女はいつも通り微動だにせず、涼やかなまなざしで周囲を見渡す。
 そこに、王太子エドワード殿下の姿が見えた。淡い金の髪を丁寧に整え、白地に金糸の刺繍がほどこされた華やかな軍服風の礼装を身に着けている。彼はヴァレリーに気づくと、いつものように穏やかな笑みを浮かべた――が、その瞳にはどこか迷いがあるようだった。

「おや、リチャードソン令嬢。少し遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」

 エドワード殿下はいつになく軽い調子で言葉をかける。ヴァレリーはかすかに首を傾げたが、即座に装った笑みを返す。

「お待たせして申し訳ございません、殿下。ですが、開始時刻に遅れたというほどではないかと……」

「いや、まあいい。それよりも、今日は大事な発表があるからね。君も楽しみにしていてくれ」

 そう言われて、ヴァレリーは瞬き一つ。自分たちの結婚の日程が正式に公表されるのだと、あらためて心を引き締める思いだ。とはいえ、彼女は浮足立つような感情にはならなかった。この結婚は、公爵家と王家双方の義務を担うものであり、そこにあまりロマンチックな要素は感じにくい。

 それでも、ヴァレリーは王太子妃として国や民のために尽力しようと心に決めていた。どうせ感情を伴わない結婚なのであれば、せめて公務に邁進し、自分に与えられた役割を全うしたい――それが彼女の決意である。

 しかし――。
 この後、思いもよらぬ形でヴァレリーの婚約が崩れ去るとは、まだ誰も予想していなかった。

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