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第三章:氷の令嬢、王宮の晩餐会で微笑む
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張り詰めた空気を切り裂くように、ひとりの人物が静かに立ち上がった。
第二王子派を代表する騎士団長、カイル・ヴァレンタインである。
彼は軽く手袋を外し、あくまで穏やかな所作で壇上へと歩み出ると、短く拍手を打った。その音は決して大きくないが、不思議と会場全体に響き渡る。
「――皆さま。どうか、お静まりください」
低く落ち着いた声に、ざわめきが次第に収まっていく。
カイルはエドワードとシエナの方を一瞥し、次いで会場全体を見渡した。
「本日は外交使節の方々もお招きしている、由緒ある晩餐会です。多少の行き違いがあったようですが……これ以上、この場を混乱させるのは得策ではありません」
その言葉は決して王太子を直接非難するものではない。だが、場を収めるという一点において、あまりにも的確だった。
エドワードは一瞬、反論しようと口を開きかけたが、周囲の冷ややかな視線に気づき、結局言葉を飲み込む。
カイルは続ける。
「聖女シエナ様のお心遣いは、確かに尊いものなのでしょう。ただ、奇跡というものは……披露する場と方法を選ぶ必要があります。今日はまず、晩餐を楽しむことに専念されてはいかがでしょうか」
遠回しだが、これ以上続けるなという明確な制止だった。
会場の多くの貴族たちが、内心で安堵したように頷く。
「……っ」
シエナは唇を噛みしめ、俯いたまま何も言わない。
エドワードは苛立ちを隠せない様子で拳を握りしめていたが、さすがにこの状況で強行すれば、王太子としての立場がさらに悪化するのは明白だった。
「……分かった。今日は、ここまでにしよう」
不本意そうにそう告げると、エドワードはシエナの肩を抱き、足早に壇上を降りていく。その背中には、先ほどまでの自信満々な雰囲気は微塵も残っていなかった。
カイルは二人が去ったのを確認すると、軽く一礼し、会場に向かって微笑む。
「それでは、改めまして晩餐会を再開いたしましょう。料理も音楽も、準備は万端です」
その一言で、場の空気はようやく和らいだ。
オーケストラが演奏を再開し、給仕たちが静かに動き出す。貴族たちも次第に談笑を取り戻し、先ほどの騒動を“なかったこと”にしようと努めているのが見て取れた。
会場の隅でその様子を見ていたヴァレリーは、静かに息を吐いた。
(……見事な収拾ね)
感情に流されず、誰の顔も真正面から潰さず、それでいて確実に主導権を握る。
カイル・ヴァレンタインという男が、なぜ第二王子派の要と呼ばれているのか――ヴァレリーは改めて思い知らされた。
第二王子派を代表する騎士団長、カイル・ヴァレンタインである。
彼は軽く手袋を外し、あくまで穏やかな所作で壇上へと歩み出ると、短く拍手を打った。その音は決して大きくないが、不思議と会場全体に響き渡る。
「――皆さま。どうか、お静まりください」
低く落ち着いた声に、ざわめきが次第に収まっていく。
カイルはエドワードとシエナの方を一瞥し、次いで会場全体を見渡した。
「本日は外交使節の方々もお招きしている、由緒ある晩餐会です。多少の行き違いがあったようですが……これ以上、この場を混乱させるのは得策ではありません」
その言葉は決して王太子を直接非難するものではない。だが、場を収めるという一点において、あまりにも的確だった。
エドワードは一瞬、反論しようと口を開きかけたが、周囲の冷ややかな視線に気づき、結局言葉を飲み込む。
カイルは続ける。
「聖女シエナ様のお心遣いは、確かに尊いものなのでしょう。ただ、奇跡というものは……披露する場と方法を選ぶ必要があります。今日はまず、晩餐を楽しむことに専念されてはいかがでしょうか」
遠回しだが、これ以上続けるなという明確な制止だった。
会場の多くの貴族たちが、内心で安堵したように頷く。
「……っ」
シエナは唇を噛みしめ、俯いたまま何も言わない。
エドワードは苛立ちを隠せない様子で拳を握りしめていたが、さすがにこの状況で強行すれば、王太子としての立場がさらに悪化するのは明白だった。
「……分かった。今日は、ここまでにしよう」
不本意そうにそう告げると、エドワードはシエナの肩を抱き、足早に壇上を降りていく。その背中には、先ほどまでの自信満々な雰囲気は微塵も残っていなかった。
カイルは二人が去ったのを確認すると、軽く一礼し、会場に向かって微笑む。
「それでは、改めまして晩餐会を再開いたしましょう。料理も音楽も、準備は万端です」
その一言で、場の空気はようやく和らいだ。
オーケストラが演奏を再開し、給仕たちが静かに動き出す。貴族たちも次第に談笑を取り戻し、先ほどの騒動を“なかったこと”にしようと努めているのが見て取れた。
会場の隅でその様子を見ていたヴァレリーは、静かに息を吐いた。
(……見事な収拾ね)
感情に流されず、誰の顔も真正面から潰さず、それでいて確実に主導権を握る。
カイル・ヴァレンタインという男が、なぜ第二王子派の要と呼ばれているのか――ヴァレリーは改めて思い知らされた。
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