冷たい婚約破棄?では契約結婚いたしましょう

鍛高譚

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第三章:氷の令嬢、王宮の晩餐会で微笑む

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 そう。杯から飛び散った液体は、どう見ても普通の水だ。これまでの“奇跡”でも似たような演出があったが、結局それ以上の変化は起こらない。
 だが、シエナはめげずに両手をかざし、杯を凝視している。すると、どうしたことか、水面が淡い光を帯び始めた……ように見えた。

「おお……光っている……?」

 最前列の一部の者たちが目を凝らす。だが、その光はまるで蜃気楼のように揺らめき、すぐに消えてしまった。
 会場には微妙な空気が流れる。「これが奇跡なのか……?」 という困惑まじりの疑問が立ち込め、拍手も起こらない。

 エドワードはあわてて咳払いし、フォローするように声を張り上げた。

「シエナの力はまだ不完全で……その、今日は皆さまにお見せするために急ぎ準備をしたのです。もう少し待てば、きっともっとはっきりとした奇跡が……」

 しかし、その言葉を裏切るように、祭壇上の杯はまた派手な音を立てて水を撒き散らすだけ。前列の人々はびしょ濡れになりそうで、慌てて後退している。
 シエナ自身も戸惑いを隠せず、杯を持ち上げようとするが、なぜか重いのか、手が滑るのか、上手く扱えない。

「えっ……な、なんで……? 私が神から授かった聖水のはずなのに……?」

 周囲はどんどん白けた雰囲気になっていく。
 やがて、焦ったシエナが無理に杯を傾けようとした瞬間――ずるり、と手が滑ったのか、杯が丸ごと祭壇の下に落ちてしまった。

「きゃああっ!」

 甲高い悲鳴を上げるシエナ。彼女の白いドレスの裾にも水がかかり、濡れそぼった布がみっともなく足に張り付いている。
 慌ててエドワードが支えようとするが、床が濡れているせいで彼も足を滑らせ、二人まとめて転びそうになった。

 この光景に、会場の貴族たちは凍りついたように沈黙……かと思いきや、一部では思わず吹き出す笑い声が押しとどめられず、プスッ……という小さな失笑が連鎖的に広がっていく。

「……聖水が……床に……」
「というか、これただの水でしょう? もしかして少し香料でも入ってる?」
「せっかくの晩餐会でこんな茶番を……」

 ヒソヒソと囁く声。
 エドワードとシエナの顔がみるみる赤く染まっていく。シエナは泣きそうな表情でうつむき、エドワードも周囲の視線を感じて唇を噛んでいる。

「くっ……。な、何を笑っているんだ……! 神の奇跡をバカにするな!」

 エドワードは声を張り上げるが、どこか空回りしている。
 王太子という立場を恐れて口をつぐむ者もいるが、完全に収拾がつかない。高位貴族の中には露骨に鼻で笑う者すらいて、この惨状をどう片付ければいいのか誰もわからないのだ。

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