冷たい婚約破棄?では契約結婚いたしましょう

鍛高譚

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第四章:偽りの聖女、そして真実の結婚

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 王都ラクリスに広がった混乱は、その日のうちに収束した。
 だが、それは決して平穏が戻ったという意味ではない。

 偽りの聖女シエナが拘束され、闇の魔杖が押収されたという事実は、瞬く間に王宮内外へ伝わった。
 王宮の回廊ではひそひそと囁きが交わされ、貴族たちは皆、慎重に言葉を選びながらも、同じ結論に行き着いていた。

 ――王太子派は、完全に終わった。

 翌朝、王太子エドワードは自室から一歩も出てこなかった。
 侍従が何度呼びかけても反応はなく、扉越しに聞こえてくるのは、意味をなさない呟きと、嗚咽にも似た声だけだったという。

 「違う……シエナは、本物だった……」
 「神は……神は、僕を選んだはずだ……」

 何度も繰り返されるその言葉は、もはや信念ではなく、現実から目を背けるための逃避に過ぎなかった。

 王宮医師団は「極度の精神衰弱」と診断し、しばらくの静養が必要だと進言した。
 だが、重臣たちの間ではすでに別の議論が進んでいる。

 ――このまま王太子として据え置くことは、国家にとって危険ではないか。

 王は沈黙を保っていた。
 高齢の王にとって、実の息子を切り捨てる決断は容易ではない。だが、今回の件は単なる醜聞では済まされない。

 偽の聖女に心酔し、外国勢力と結びついた人物を王宮に招き入れ、結果として民衆を危険に晒した。
 それは、次期国王として致命的な失態だった。

 重臣の一人が、ついに口火を切った。

 「陛下……王太子殿下は、もはや判断力を欠いておられます。このままでは、国が揺らぎます」

 それは、遠回しではあるが、明確な進言だった。
 ――廃嫡を視野に入れるべきだ、と。

 王は長く目を閉じ、深く息を吐いたという。

 その頃、王太子派だった貴族たちは、まるで沈みゆく船から逃げ出す鼠のように動き始めていた。
 昨日までエドワードを称え、シエナを讃美していた者たちが、今日は口を閉ざし、あるいは第二王子派へと擦り寄っている。

 「我々も、騙されていたのです」
 「殿下のご判断を止められなかったこと、痛恨の極みです」

 白々しい言葉が並ぶ中、誰一人として王太子を庇おうとはしなかった。

 ――利用価値を失った存在は、切り捨てられる。

 それが貴族社会の現実であり、エドワード自身もまた、その論理の中で生きてきたはずだった。
 だが、いざ自分がその立場に立つとき、彼は何一つ理解できていなかった。

 一方、第二王子派では、事態は静かに、しかし確実に動いていた。
 表立った勝利宣言はしない。あくまで冷静に、淡々と後始末を進める。

 護衛隊長カイル・ヴァレンタインは、拘束されたシエナの護送と証拠品の管理を指揮しながら、確信していた。

 ――もう、流れは戻らない。

 王太子の失墜は、もはや時間の問題。
 そして、その裏で、もう一つの「転換点」が静かに近づいていることを、彼は理解していた。

 リチャードソン公爵家――
 そして、ヴァレリー・リチャードソン。

 彼女が選んだ道は、王太子にとって破滅の引き金であり、同時に、この国にとっては救いとなった。

 氷の令嬢と呼ばれたその女性は、感情に流されることなく、ただ正しく状況を見極め、静かに歩んだだけだ。
 結果として、愚かな者たちが自滅し、彼女だけが前へ進んだ。

 その事実を、王都の誰もが、まだはっきりとは言葉にしない。
 だが、誰もが心の奥で理解していた。

 ――時代は、確実に変わったのだ。

 そして、この変化の先に待つのは、
 「形だけの結婚」から始まる、もう一つの真実。

 それを、まだ知る者は少ない。

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