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第四章:偽りの聖女、そして真実の結婚
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王都中央広場の混乱が完全に収束したのは、日が傾き始めてからだった。
倒れた装飾柱は撤去され、負傷者は医師の手当てを受け、逃げ遅れた民衆も次第に家路へと散っていく。
だが、人々の表情には、興奮よりも戸惑いと、そして確かな失望が残っていた。
――聖女は、聖女ではなかった。
その事実が、重くのしかかっている。
王太子エドワードは、儀式の場からそのまま王宮へと運ばれた。
意識は取り戻したものの、問いかけにはほとんど反応せず、虚空を見つめたまま、同じ言葉を繰り返しているという。
「……信じていた……」
「間違っていなかったはずだ……」
だが、その声に応える者はいない。
王宮の重臣たちは即座に動き、
シエナとその取り巻きの身柄は第二王子派の管理下へ移された。
押収された魔道具、資金の流れ、外国勢力との接点――
どれを取っても、言い逃れのできない証拠ばかりだった。
「もはや、庇い立ては不可能ですな」
誰かがそう呟き、
誰も否定しなかった。
王太子派の貴族たちは、沈黙を選んだ。
昨日までの忠誠は、今日には存在しない。
――それが、この世界の現実だった。
一方、広場の一角で起きた出来事は、静かに、しかし確実に人々の記憶に刻まれていた。
奇跡を語らず、
声高に主張もせず、
ただ冷静に真実を突きつけた一人の令嬢。
ヴァレリー・リチャードソン。
彼女が前に出た瞬間、
場の空気が変わったことを、誰もが無意識に覚えている。
「氷の令嬢」と揶揄されてきたその女性は、
激情に流されることなく、
誰よりも静かに、誰よりも正確に、嘘を断ち切った。
それが、どれほどの勇気を要する行為だったのか――
人々は、あとになって気づき始める。
夕刻、リチャードソン公爵家の一室。
ヴァレリーは椅子に腰掛け、ようやく深く息を吐いた。
「……終わりましたね」
隣に立つカイルが、静かに頷く。
「ええ。
少なくとも、第四章は」
その言葉に、ヴァレリーは小さく微笑んだ。
「王太子殿下も、シエナも……
自分で選んだ道の先に、行き着いただけです」
「あなたは、後悔していませんか?」
カイルの問いに、ヴァレリーは一瞬考え、首を横に振った。
「いいえ。
もし今日、黙っていたら――
私はきっと、自分自身を許せなかった」
沈黙が、穏やかに流れる。
やがて、カイルが口を開いた。
「近いうちに、動きがあります。
王宮は、このままでは済みません」
「ええ……」
ヴァレリーは理解していた。
今日の出来事は終わりではなく、決定的な始まりだ。
王太子の権威は地に落ち、
王国は次の継承者を必要としている。
そして――
自分自身もまた、立場を変えつつあることを。
婚約を破棄された令嬢から、
王国の行方に関わる存在へ。
「氷の令嬢」という仮面は、
もう必要ないのかもしれない。
ヴァレリーは、窓の外に沈みゆく夕陽を見つめながら、
静かに告げた。
「次は……
私自身の選択、ですね」
それが、
契約結婚という名の、新たな物語の始まりであることを、
彼女はまだ、はっきりとは言葉にしなかった。
だが、確かに――
第四章は、ここで幕を下ろす。
破滅を選んだ者たちと、
前へ進むことを選んだ者たちを、
はっきりと分けたまま。
倒れた装飾柱は撤去され、負傷者は医師の手当てを受け、逃げ遅れた民衆も次第に家路へと散っていく。
だが、人々の表情には、興奮よりも戸惑いと、そして確かな失望が残っていた。
――聖女は、聖女ではなかった。
その事実が、重くのしかかっている。
王太子エドワードは、儀式の場からそのまま王宮へと運ばれた。
意識は取り戻したものの、問いかけにはほとんど反応せず、虚空を見つめたまま、同じ言葉を繰り返しているという。
「……信じていた……」
「間違っていなかったはずだ……」
だが、その声に応える者はいない。
王宮の重臣たちは即座に動き、
シエナとその取り巻きの身柄は第二王子派の管理下へ移された。
押収された魔道具、資金の流れ、外国勢力との接点――
どれを取っても、言い逃れのできない証拠ばかりだった。
「もはや、庇い立ては不可能ですな」
誰かがそう呟き、
誰も否定しなかった。
王太子派の貴族たちは、沈黙を選んだ。
昨日までの忠誠は、今日には存在しない。
――それが、この世界の現実だった。
一方、広場の一角で起きた出来事は、静かに、しかし確実に人々の記憶に刻まれていた。
奇跡を語らず、
声高に主張もせず、
ただ冷静に真実を突きつけた一人の令嬢。
ヴァレリー・リチャードソン。
彼女が前に出た瞬間、
場の空気が変わったことを、誰もが無意識に覚えている。
「氷の令嬢」と揶揄されてきたその女性は、
激情に流されることなく、
誰よりも静かに、誰よりも正確に、嘘を断ち切った。
それが、どれほどの勇気を要する行為だったのか――
人々は、あとになって気づき始める。
夕刻、リチャードソン公爵家の一室。
ヴァレリーは椅子に腰掛け、ようやく深く息を吐いた。
「……終わりましたね」
隣に立つカイルが、静かに頷く。
「ええ。
少なくとも、第四章は」
その言葉に、ヴァレリーは小さく微笑んだ。
「王太子殿下も、シエナも……
自分で選んだ道の先に、行き着いただけです」
「あなたは、後悔していませんか?」
カイルの問いに、ヴァレリーは一瞬考え、首を横に振った。
「いいえ。
もし今日、黙っていたら――
私はきっと、自分自身を許せなかった」
沈黙が、穏やかに流れる。
やがて、カイルが口を開いた。
「近いうちに、動きがあります。
王宮は、このままでは済みません」
「ええ……」
ヴァレリーは理解していた。
今日の出来事は終わりではなく、決定的な始まりだ。
王太子の権威は地に落ち、
王国は次の継承者を必要としている。
そして――
自分自身もまた、立場を変えつつあることを。
婚約を破棄された令嬢から、
王国の行方に関わる存在へ。
「氷の令嬢」という仮面は、
もう必要ないのかもしれない。
ヴァレリーは、窓の外に沈みゆく夕陽を見つめながら、
静かに告げた。
「次は……
私自身の選択、ですね」
それが、
契約結婚という名の、新たな物語の始まりであることを、
彼女はまだ、はっきりとは言葉にしなかった。
だが、確かに――
第四章は、ここで幕を下ろす。
破滅を選んだ者たちと、
前へ進むことを選んだ者たちを、
はっきりと分けたまま。
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