婚約お断り令嬢ですわ ~奇行で縁談を潰していたら本命騎士に再会しました~

鍛高譚

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「……お嬢様、こちらに腰をお掛けくださいませ」

ふわりと広げられたレースのフリルがあしらわれた椅子。
給仕人が恭しく腰掛けを促すが、私はそれを見ても微動だにしなかった。

今日は私、アンネローゼ・フォン・グレイシアにとって最初の勝負の日。
何の勝負かと申しますと――そう、私の**“婚約破棄”計画**の初陣である。

公爵家の令嬢として、私は本来なら大人しく微笑んでいるだけで良いはずだった。
けれども、ある理由から私はどうしても、今夜の舞踏会で取り決められた婚約話を白紙に戻したいと思っていた。

なぜなら、私にはすでに心に決めた人がいる。
彼は貴族ではない。平民である。
そして何より――まだ私にとって「ただの恩人」でしかない……と、本人は思っているかもしれない。

しかし、私はあの日以来ずっと、彼を想い続けていた。
それなのに、王城や貴族の館で交わされる政略結婚の話は、あっという間に私を“婚約者”として縛り付けようとする。
こんな馬鹿げた話、受け入れられるはずがない。

もっとも、私の父も母も、悪い方々ではない。
むしろ私を心から愛し、大切に育ててくれた。
だからこそ、彼らが期待を寄せる形での婚約を**“私の意志で”**無かったことにするには、相応の手段が必要なのだ。

「アンネローゼお嬢様、こちらのボルドー色のドレス、とてもよくお似合いですよ」

侍女のサラが満面の笑みでドレスの裾を整える。
鏡に映る私は、波打つ白金の髪と青い瞳が特徴的で、我ながら外見だけは申し分のない淑女だと思う。
だからこそ、世間では「完璧な公爵令嬢」と呼ばれてきた。

……そう、今日までは。

私は微笑みを浮かべたまま、背筋をしゃんと伸ばしてサラに言った。
「ありがとう。ところで、私が今からどんな振る舞いをするか、絶対に驚かないでね?」

「え……?」

サラは戸惑いの表情を浮かべる。
だが、その真意を問い質そうとする前に、使用人が「準備が整いました」と告げに来た。

さあ、本番だ。
私は侍女を連れて舞踏会の会場へと足を踏み入れ――そして、舞踏会なのに正座で着席するのである。
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