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2話
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舞踏会会場:正座の公爵令嬢、登場
「あ、アンネローゼ様……? な、何を……!」
私が絢爛豪華なカーペットの上に正座をした瞬間、会場全体が凍りついた。
貴族の立ち振る舞いには美しさが求められる。
もちろん舞踏会では基本的に、男女共に優雅に立ったまま、あるいは礼儀正しく椅子へ腰掛けるのが通例だ。
それなのに、私は両足をきちんと畳んで膝を床につき、まるで和の作法でも学んできたかのように、きっちり正座している。
周囲の貴族たちが、口をあんぐり開けて私を凝視する。
ある者はグラスを落とし、ある者は急いで近づいて「アンネローゼ様、足を崩されたほうが……」と囁いてくる。
けれど、私は涼しい顔でこう言った。
「失礼ですわね。公爵令嬢の私が、どう座ろうと私の勝手でしょう? それともわざわざ足を伸ばすべき理由があるのかしら」
まさかの理屈っぽい反論に、周囲の人々は更に驚いた表情を浮かべる。
これでいい。今日は“奇行のアンネローゼ”として名を上げねばならない。
――なぜなら、今日この舞踏会で私が婚約するお相手は、レオン・フォン・ブライト侯爵家の嫡男。
資産や領地の豊かさもさることながら、女遊びの噂が絶えないことで有名な男。
一見すると華やかな貴公子――だが、周囲を困らせることが趣味のような男で、私の心を踏みにじることなど、きっと何とも思ってはいないだろう。
それなら先手を打って、私が“とんでもない娘”だと世間に知らしめてしまえばいい。
侯爵家が「こんな娘と縁談など、御免被る!」と絶縁を言い出してくれれば、それで私の勝ちだ。
「アンネローゼ様、ご挨拶を……」
ブライト侯爵家の嫡男――レオンが、どこか不快そうな表情で近寄ってくる。
彼は私を見下ろすと、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「ふん、噂には聞いていたが、やはり堅苦しい令嬢というのは厄介だな。
こうして正座とは……随分と奇妙な風習をお持ちだ」
「ええ。こうすると背筋が伸びて気持ちがいいですわ。お試しになります?」
わざと何食わぬ顔で返す私。
するとレオンは蔑むような視線を向け、「冗談ではない」と呟く。
そのやり取りを見ていた周囲の貴族たちは、声も出せずに見守っていた。
なにしろ、公爵家と侯爵家が結びつく舞踏会だ。
下手に口を挟めば、何らかの不興を買う恐れがある。
私はその沈黙を味方につけるように、あえて一瞬黙りこみ、周囲をじっくりと見渡した。
すると隅のほうに、黒髪の青年がいるのが見える。
――エドガー。
私が想いを寄せる、あの時の恩人。
彼は今、騎士団の副団長として王宮にも出入りするようになったらしい。
ここにいるのはその任務の一環か、それとも……。
エドガーは少し離れた場所から、まるで私が何をしようとしているか把握しているような、そのまなざしでこちらを見つめていた。
視線が交わると、彼はほんのわずかに微笑んだように見えたが――気のせいかもしれない。
「ねえ、アンネローゼ。今夜の舞踏会は、我らが婚約披露の場なのだぞ。
お前は誰にも注意されずにここまで我が道を行くつもりか?」
レオンが苛立ちまぎれに問い掛ける。
私はすっと顔を上げ、涼やかな微笑みを浮かべながら答えた。
「いいえ。注意していただくのは構いませんけど? 貴方のような素晴らしい殿方に、私の奇行を正していただけるなら、本望ですわ」
その言葉は、表向きには“婚約者を立てる”謙虚な態度のように聞こえる。
だが、言外に「貴方にそれができるの?」という挑発を含んでいる。
当然、レオンはそこに気づく。
唇を歪め、「ずいぶんと生意気だな」と吐き捨てた。
いい調子だ。
そのまま彼が私を疎ましく思ってくれれば、早急に破談の流れができる。
だが、世の中はそう甘くはない。
レオンはプライドが高いがゆえに、逆に「こいつを手懐けてやる」という意識を持つかもしれない。
ここで終わっては困るのだ。
私は正座のまま、さらに奇行を重ねることを決意した。
「あ、アンネローゼ様……? な、何を……!」
私が絢爛豪華なカーペットの上に正座をした瞬間、会場全体が凍りついた。
貴族の立ち振る舞いには美しさが求められる。
もちろん舞踏会では基本的に、男女共に優雅に立ったまま、あるいは礼儀正しく椅子へ腰掛けるのが通例だ。
それなのに、私は両足をきちんと畳んで膝を床につき、まるで和の作法でも学んできたかのように、きっちり正座している。
周囲の貴族たちが、口をあんぐり開けて私を凝視する。
ある者はグラスを落とし、ある者は急いで近づいて「アンネローゼ様、足を崩されたほうが……」と囁いてくる。
けれど、私は涼しい顔でこう言った。
「失礼ですわね。公爵令嬢の私が、どう座ろうと私の勝手でしょう? それともわざわざ足を伸ばすべき理由があるのかしら」
まさかの理屈っぽい反論に、周囲の人々は更に驚いた表情を浮かべる。
これでいい。今日は“奇行のアンネローゼ”として名を上げねばならない。
――なぜなら、今日この舞踏会で私が婚約するお相手は、レオン・フォン・ブライト侯爵家の嫡男。
資産や領地の豊かさもさることながら、女遊びの噂が絶えないことで有名な男。
一見すると華やかな貴公子――だが、周囲を困らせることが趣味のような男で、私の心を踏みにじることなど、きっと何とも思ってはいないだろう。
それなら先手を打って、私が“とんでもない娘”だと世間に知らしめてしまえばいい。
侯爵家が「こんな娘と縁談など、御免被る!」と絶縁を言い出してくれれば、それで私の勝ちだ。
「アンネローゼ様、ご挨拶を……」
ブライト侯爵家の嫡男――レオンが、どこか不快そうな表情で近寄ってくる。
彼は私を見下ろすと、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「ふん、噂には聞いていたが、やはり堅苦しい令嬢というのは厄介だな。
こうして正座とは……随分と奇妙な風習をお持ちだ」
「ええ。こうすると背筋が伸びて気持ちがいいですわ。お試しになります?」
わざと何食わぬ顔で返す私。
するとレオンは蔑むような視線を向け、「冗談ではない」と呟く。
そのやり取りを見ていた周囲の貴族たちは、声も出せずに見守っていた。
なにしろ、公爵家と侯爵家が結びつく舞踏会だ。
下手に口を挟めば、何らかの不興を買う恐れがある。
私はその沈黙を味方につけるように、あえて一瞬黙りこみ、周囲をじっくりと見渡した。
すると隅のほうに、黒髪の青年がいるのが見える。
――エドガー。
私が想いを寄せる、あの時の恩人。
彼は今、騎士団の副団長として王宮にも出入りするようになったらしい。
ここにいるのはその任務の一環か、それとも……。
エドガーは少し離れた場所から、まるで私が何をしようとしているか把握しているような、そのまなざしでこちらを見つめていた。
視線が交わると、彼はほんのわずかに微笑んだように見えたが――気のせいかもしれない。
「ねえ、アンネローゼ。今夜の舞踏会は、我らが婚約披露の場なのだぞ。
お前は誰にも注意されずにここまで我が道を行くつもりか?」
レオンが苛立ちまぎれに問い掛ける。
私はすっと顔を上げ、涼やかな微笑みを浮かべながら答えた。
「いいえ。注意していただくのは構いませんけど? 貴方のような素晴らしい殿方に、私の奇行を正していただけるなら、本望ですわ」
その言葉は、表向きには“婚約者を立てる”謙虚な態度のように聞こえる。
だが、言外に「貴方にそれができるの?」という挑発を含んでいる。
当然、レオンはそこに気づく。
唇を歪め、「ずいぶんと生意気だな」と吐き捨てた。
いい調子だ。
そのまま彼が私を疎ましく思ってくれれば、早急に破談の流れができる。
だが、世の中はそう甘くはない。
レオンはプライドが高いがゆえに、逆に「こいつを手懐けてやる」という意識を持つかもしれない。
ここで終わっては困るのだ。
私は正座のまま、さらに奇行を重ねることを決意した。
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