婚約お断り令嬢ですわ ~奇行で縁談を潰していたら本命騎士に再会しました~

鍛高譚

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15話

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 決裂する取引、暴かれる真実の偽装婚約

晴れやかな陽光が差し込む昼下がり。
大広間には、私の両親とフェルガン男爵家の当主、それにカイルが集まり、正式に挨拶を交わしていた。

男爵家の当主――カイルの父は、なかなか威厳ある男性だった。
貴族としての格は公爵家に劣るかもしれないが、そこに流れる血筋や統率力はしっかりしている印象。

しかし、その瞳の奥にはどこか焦りのようなものがちらついている。
領地の拡大や、商業のさらなる成功を狙うには、公爵家との縁組がどうしても欲しいのだろう。

最初のうちは和やかに会話が進んでいた。
――が、問題はやはり“挙式”の話題に移った時だった。

「やはり、結納金や嫁入り道具の準備などもあるので、あまり日を空けずに婚儀を執り行いたいと考えております。
 アンネローゼ様にも、すぐにでもフェルガン家へお越しいただいて……」

男爵家当主の主張はまるで、こちらがYesと言うのは当然だとばかり。
私の父は苦い顔で、それを制するように咳払いをする。

「しかし、我が娘はまだ若いですし、前の婚約破談の件で周囲から冷ややかな視線もある。
 急ぎの挙式は、娘にも負担が大きいのではないかと思うのだが」

父の言い分は正当だ。
しかし、男爵家当主は少し苛立ったように唇を尖らせる。

「ですが、公爵家との縁をお待ちする時間が惜しいのです。
 ご理解いただけるかと思いますが……我がフェルガン領は今、商業路の拡大のチャンスに直面しています。
 この時期を逃せば、どこぞの伯爵家や侯爵家に先を越される恐れもある。
 挙式を先送りにしている余裕など、正直申し上げてないのですよ」

なるほど。
“グレイシア公爵家と縁組を結んだ”という事実が、男爵家の権威向上に必要不可欠ということか。

(確かに……これでは、あまり悠長にしていられない気持ちもわかるわ)

カイルは横で申し訳なさそうに私を見つめている。
「ごめんなさい……。でも、僕たちにとっても死活問題なんだ……」と、その瞳が物語っているようだ。

私は、エドガーへの想いと、フェルガン家の事情、そして自分の未来を天秤にかける。
どう転んでも、私が完全に自由になる未来は遠のく。

「……でも、私にはどうしても挙式は早すぎると感じます。
 せめて、もう少し時間をいただけないでしょうか。公爵家の令嬢としての準備もございますし……」

私がそう言った瞬間、男爵家当主の表情が微妙に歪んだ。

「おや……アンネローゼ様は、まさか結婚自体に乗り気ではないのでは?」

「それは……」

躊躇して言葉に詰まる私。
まさか、本人の前で「偽装婚約なんです」などと言えるわけがない。

けれど、男爵家当主もバカではない。
婚約の話が進んでいるのに、どうも煮え切らない態度を見せる私を見て、何か勘づいたようだ。

「……もしや、何か別の理由があるのではありませんか? たとえば、他に想い人がいるとか……」

ビクリとする私。
まさか、ここでそんなことを突っ込まれるとは思わなかった。

すると、その時だった。
ドアの外から、聞き慣れない声が上がった。
「大変失礼いたします! 男爵様、申し上げたいことが……っ!」

なにやら慌てふためいた様子の男爵家の使用人らしき青年が、広間に飛び込んでくる。
男爵家当主は顔を真っ赤にして「何事だ!」と叱咤するが、その青年は息を切らしながら言い放った。

「男爵家の敷地で、アリス様の存在が近隣住民に目撃され、噂が広まってしまいました……!
 カイル様が平民を囲っており、結婚前から夫婦のように暮らしているのではないか、という話が……もう町中で騒ぎになっております!」

――一瞬、場の空気が凍り付く。

男爵家当主は目を剥き、カイルを鋭く睨みつけた。
「か、カイル! お前……平民の女を囲っていたというのは本当なのか!?
 そんな愚行、今の時期にバレたらどうなると思っている!?」

「……っ……」

カイルは咄嗟に言葉を失った。
私は横で胸がざわめくのを感じる。
アリスとの関係がついに露見してしまったのだ。

「こ、これはどういうことです!? まさか……男爵家の嫡男が公爵令嬢との婚約を控えていながら、平民の女を囲っていたなど……」

私の父も困惑の声を上げる。
母は顔を覆って「なんという……」と嘆息した。

私は必死に頭を回転させる。
このままでは両家の関係が破綻するだけでなく、私の評判にも影響が出るのは避けられない。

そして――ここで決定的な声が上がった。
男爵家当主が激怒したまま、私に向き直る。

「アンネローゼ様、今回の婚約話はなかったことに――破談にさせていただきたい!
 まさか私の息子がこんな不義理を働いていたとは……。とても公爵家の令嬢を嫁がせるなど許されない!
 せっかくのご縁を台無しにして申し訳ありませんが……我々には“貴族の尊厳”がある! これ以上スキャンダルを大きくするわけにはいかないのだ!」

怒り心頭の様子だが、それはむしろ私にとって好都合……なのかもしれない。
不謹慎だが、これでまた破談だ。

ただ、問題は破談の理由が「カイルの平民愛人発覚」というスキャンダルであること。
これによって、私も「なぜそんな男と婚約を承諾したのか」という批判を受けるリスクが高い。

(……まあ、私の評判は既に落ちるところまで落ちているんだけどね)

複雑な心境で、私は小さく息を吐く。
こうなると、もう私がどうあがいても覆せない。

「わかりました。私も、貴方たちが望むのであれば、それに従いましょう。
 ……婚約は、破談。これでお互い納得ということで」

「も、申し訳ありません……アンネローゼ様……」

カイルは今にも泣きそうな顔で謝罪する。
これで彼は、貴族としての評判を一気に落とすことになるだろう。
下手をすれば、領民の信用を失い、商業政策にも支障が出るかもしれない。

思わずアリスのことを思うと切ないが、こればかりはどうしようもない。
私にできるのは、彼らの幸運を祈ることだけ。

――こうして、私の第二の婚約話もあっけなく破談に終わった。
まさか、想定外のスキャンダルによって幕が下りるとは……。
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