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29話
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仮面の裏側との対決、演技勝負の誘い
茶会から数日後。
私はヴィクトール様を、ある劇場へと誘った。
その劇場は王都の外れにあり、庶民や旅の芸人たちが集まる“小劇場”と言われる場所。
貴族が足を運ぶような格式ばった劇場とは違い、安価な興行も多く、庶民的な空気が漂っている。
「ここにお連れするなんて、少し意外ですね。
アンネローゼ様のような高貴な方は、あまりこの手の場所に近づかないと思っていましたが……」
ヴィクトール様は少し戸惑いつつも、私の顔を伺うように微笑む。
その笑みを見て、私は小さく息をつく。
(やっぱり、ここには“来たことがある”目をしてるわね。
きっと密かに“役者仲間”がいる場所なのでしょう)
「ええ、私も普段はあまり来ませんわ。
でも、たまにはこういう庶民の娯楽に触れてみるのも勉強になると思いまして。
……それに、ヴィクトール様の“寸劇”があまりにお見事でしたので、もっと本格的な舞台を一緒に観賞してみたくなったのです」
「ああ、それは光栄です。……では、早速入りましょうか」
ヴィクトール様の瞳には、微かな警戒心が宿っているように見えた。
もしかすると、彼は私が“真実”を突き止めようとしていることを感じ取っているのかもしれない。
でも、それならそれで構わない。
私はあえて表情を崩さず、彼を劇場のロビーへと誘導した。
――そこで私は、一人のスタッフらしき男性に声をかける。
「すみません、この劇場で今夜、飛び入りの演者を募集していると聞いたのですが……」
するとスタッフは目を丸くして、「ええ、そうですが。どなたが……?」と首を傾げる。
私はヴィクトール様の腕をちょんと叩いて、いたずらっぽく微笑んだ。
「私たち、二人で参加させていただけませんか?
実は彼も私も、少し芝居の心得があるんです。
短い寸劇でもいいので、舞台で披露できれば、と……」
ヴィクトール様が「え……?」と驚いた表情を浮かべる。
私はそのまま畳みかけるように言った。
「ねえ、ヴィクトール様。以前の茶会での寸劇、とても楽しかったわ。
私も一緒に演じてみたいと思ったのです。……貴方がよろしければ、の話ですけれど」
あえて、周囲に聞こえるような声量で話すことで、ヴィクトール様が断りにくい状況を作る。
スタッフや通りかかった劇団員らしき人々も、興味津々にこちらを見つめている。
(さあ、どうするの? もし“プロ級の演技”ができるなら、こんな小劇場で即興の寸劇をするのも容易いでしょう?
それとも、これ以上“演技力”を見せたくないから断る?)
ヴィクトール様は一瞬、唇をきゅっと結んだが、やがて柔らかな笑みを浮かべた。
「……もちろん、構いませんよ。アンネローゼ様と舞台に立てるなんて光栄です。
ただ、私も即興のお芝居なんて、そこまで得意ではありませんから……」
「まあ、茶会の寸劇は即興ではなかったんですの?」
笑顔で返した私に、ヴィクトール様は苦笑する。
「お手柔らかにお願いします。私が本気を出しても、驚かないでくださいね?」
“本気”――そう、聞き捨てならない単語をさらりと口にする。
やはり、彼は芝居のプロだ。
こうして私たちは、その日のうちに行われる小さな発表会に“飛び入り参加”する運びとなった。
茶会から数日後。
私はヴィクトール様を、ある劇場へと誘った。
その劇場は王都の外れにあり、庶民や旅の芸人たちが集まる“小劇場”と言われる場所。
貴族が足を運ぶような格式ばった劇場とは違い、安価な興行も多く、庶民的な空気が漂っている。
「ここにお連れするなんて、少し意外ですね。
アンネローゼ様のような高貴な方は、あまりこの手の場所に近づかないと思っていましたが……」
ヴィクトール様は少し戸惑いつつも、私の顔を伺うように微笑む。
その笑みを見て、私は小さく息をつく。
(やっぱり、ここには“来たことがある”目をしてるわね。
きっと密かに“役者仲間”がいる場所なのでしょう)
「ええ、私も普段はあまり来ませんわ。
でも、たまにはこういう庶民の娯楽に触れてみるのも勉強になると思いまして。
……それに、ヴィクトール様の“寸劇”があまりにお見事でしたので、もっと本格的な舞台を一緒に観賞してみたくなったのです」
「ああ、それは光栄です。……では、早速入りましょうか」
ヴィクトール様の瞳には、微かな警戒心が宿っているように見えた。
もしかすると、彼は私が“真実”を突き止めようとしていることを感じ取っているのかもしれない。
でも、それならそれで構わない。
私はあえて表情を崩さず、彼を劇場のロビーへと誘導した。
――そこで私は、一人のスタッフらしき男性に声をかける。
「すみません、この劇場で今夜、飛び入りの演者を募集していると聞いたのですが……」
するとスタッフは目を丸くして、「ええ、そうですが。どなたが……?」と首を傾げる。
私はヴィクトール様の腕をちょんと叩いて、いたずらっぽく微笑んだ。
「私たち、二人で参加させていただけませんか?
実は彼も私も、少し芝居の心得があるんです。
短い寸劇でもいいので、舞台で披露できれば、と……」
ヴィクトール様が「え……?」と驚いた表情を浮かべる。
私はそのまま畳みかけるように言った。
「ねえ、ヴィクトール様。以前の茶会での寸劇、とても楽しかったわ。
私も一緒に演じてみたいと思ったのです。……貴方がよろしければ、の話ですけれど」
あえて、周囲に聞こえるような声量で話すことで、ヴィクトール様が断りにくい状況を作る。
スタッフや通りかかった劇団員らしき人々も、興味津々にこちらを見つめている。
(さあ、どうするの? もし“プロ級の演技”ができるなら、こんな小劇場で即興の寸劇をするのも容易いでしょう?
それとも、これ以上“演技力”を見せたくないから断る?)
ヴィクトール様は一瞬、唇をきゅっと結んだが、やがて柔らかな笑みを浮かべた。
「……もちろん、構いませんよ。アンネローゼ様と舞台に立てるなんて光栄です。
ただ、私も即興のお芝居なんて、そこまで得意ではありませんから……」
「まあ、茶会の寸劇は即興ではなかったんですの?」
笑顔で返した私に、ヴィクトール様は苦笑する。
「お手柔らかにお願いします。私が本気を出しても、驚かないでくださいね?」
“本気”――そう、聞き捨てならない単語をさらりと口にする。
やはり、彼は芝居のプロだ。
こうして私たちは、その日のうちに行われる小さな発表会に“飛び入り参加”する運びとなった。
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