婚約お断り令嬢ですわ ~奇行で縁談を潰していたら本命騎士に再会しました~

鍛高譚

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35話

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 騎士団の遠乗り、久々の再会と淡い言葉

早朝の空気は冷んやりとしていて、馬たちの吐く息が白い。
城門前には数名の騎士が集まり、エドガーの指示を仰いで準備を進めていた。

「おお、今日はずいぶんと気合が入っているな、エドガー副団長」
「そりゃあもう、公爵令嬢がお見えになるんだから……」

そんなひそひそ話が耳に入る。
私は馬車で到着し、侍女のサラを伴いながら門の外へ足を進める。

すると、目を留めたのが黒髪の騎士――エドガーだ。
背筋を伸ばしてこちらに振り向き、柔らかな笑みを浮かべる。

「お越しいただきありがとうございます、アンネローゼ様。
 まだ出発までには時間がありますが、馬にご興味がおありなら、近くでご覧になっていってください」

「ええ、そうさせてもらいますわ。
 ……お変わりないようで安心しました。お忙しかったのでしょう?」

言葉を交わすのは久しぶり。
昔のように親しげに話すわけにもいかないが、その笑顔を見ると懐かしいぬくもりが蘇ってくる。

エドガーは視線を優しく落としながら、小さく息をついた。
「少しだけ……話をする時間、取れそうです。
 もしよかったら、出発前の空き時間に……」

はい、と返しかけた瞬間、他の騎士がエドガーを呼び止めた。
「副団長、すみませんがこちらの書類を……!」

「あ、ああ、わかった。すぐに行く!」

苦笑いを浮かべてエドガーが小走りで向かう姿を見送り、私は微妙に拍子抜けする。
(せっかく話すチャンスなのに……まあ、仕方ないか。彼は副団長だし、仕事中だものね)

侍女のサラと連れ立って、私は待機している騎士たちを遠巻きに見学する。
彼らの甲冑と馬具の輝き、そして規律正しい雰囲気がどこか清涼感をもたらしてくれる。

――そうこうしているうちに、遠乗りの出発時刻が来てしまった。
エドガーは最後まで忙しそうに指示を出し、整列を確認し、そして馬に跨って準備完了。

「……結局、ゆっくり話せなかったわね」

私が小さく嘆息していると、エドガーが馬上からこちらを見やり、大きく手を振ってくれた。

「アンネローゼ様。帰りは夜になるので、もし遅い時間でもよろしければ……屋敷の方へ立ち寄っても構いませんか?」

突然の申し出に驚く。
「え、それは……夜遅くに?」

「ええ、とはいえ公爵令嬢の家に夜分に押しかけるのは不躾かとも思いますが……どうしても少しだけ、お話したいことがあるんです。
 もしご都合が悪ければ、別の日にでも……」

彼の声は遠乗りの隊列が動き出す音にかき消されそうだったが、私は慌てて頷いた。

「構いませんわ! ぜひいらしてください、いつでも歓迎いたします!」

その言葉に、エドガーはほっとしたように微笑む。
そして、騎士団の一団と共に走り去っていった。

(夜遅くにでも来たい……なんて。……エドガーが、何を話そうとしているのかしら)

胸の鼓動が高鳴るのを感じる。
ついに彼も何かを決意したのかもしれない。

――私はそれから一日、何をするにも心ここにあらずで、エドガーの来訪を待つことになる。
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