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21話 侍女扱いの王宮
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21話 侍女扱いの王宮
王宮財務局での二日目、キャル・キュレイションは朝から機嫌が悪かった。
理由ははっきりしている。
帰れなかったからだ。
正確には、昨日のうちに公爵家へ戻ることはできた。だが戻った頃にはもうすっかり夜で、侍女見習いとしての朝支度をするには睡眠時間が少なすぎた。つまり、王宮の仕事が増えた分だけ、公爵家での生活まで圧迫されている。
これは良くない。
非常に良くない。
しかも今朝、財務局へ着いた瞬間から、廊下の空気が昨日よりさらにうるさかった。音ではない。視線だ。
監査室で何日も解けなかった案件を片づけた公爵家の侍女見習い。
帳簿を読む変な娘。
小石を並べて計算するらしい娘。
そのあたりの噂が、ひどく中途半端な形で広がっているのだろう。
最悪である。
「おはようございます」
低く落ち着いた声がして、横を見るとルネ・ベルティエが立っていた。今日も整った服装で、疲れているのにきちんとして見えるのだから、この人は本当に仕事のできる官吏なのだろう。
「おはようございます」
キャルは返しながら、少しだけ目を細めた。
「今日は監査室ではありませんか」
「午前のうちは財務局本体です」
「嫌な予感しかしません」
「同感です」
その即答だけで、だいたい察した。
監査室で数字そのものと格闘するのも面倒だが、財務局本体で待っているのは別種の面倒だ。つまり、人間である。
ルネは控えめに言った。
「監査室の件が上に上がりまして」
「はい」
「何人かが、あなたに会いたいと」
「断ってください」
「できればしています」
その返しに、キャルは思わず少しだけ顔をしかめた。
それ、昨日公爵も言っていた。
「王宮も同じなんですね」
「何がですか」
「断りたい相手ほど断れないところが」
ルネがほんの少しだけ口元を動かす。笑ったのだろうが、ごく小さかった。
「……そうかもしれません」
通されたのは、監査室よりずっと整った部屋だった。机も椅子も上等で、紙の積み方も綺麗だ。綺麗だが、それだけに中にいる人間の気配が濃い。
三人いた。
年配の男が二人と、中年の女が一人。
服装も立ち方も、監査室の実務官より一段上だ。机に向かう人間の顔ではなく、机の向こうに人を立たせることに慣れた顔をしている。
つまり高官だ。
キャルはその瞬間、もう帰りたくなった。
「こちらが、ヴァレール公爵家からの臨時協力者です」
ルネがそう紹介すると、年配の男のひとりが椅子にもたれたままこちらを見た。
「……この娘が?」
その一言に、キャルは心の中で深くため息をついた。
やはり始まった。
「キャル・キュレイションです」
一応名乗る。
だが相手は名乗り返すより先に、値踏みするような目でキャルを見た。
「侍女見習いと聞いたが」
「はい」
「本当に公爵家は、こんな者を寄越したのか」
こんな者。
わざとだろうな、とキャルは思う。
こういう人間は最初に線を引く。身分、年齢、立場。そのどれかで下に置けると判断した相手には、最初から踏みつけるような話し方をする。
怒るだけ無駄だ。
だからキャルは淡々と答えた。
「寄越した、というより貸し出された形でしょうか」
女の高官がわずかに眉を上げる。
「口は回るのね」
「最低限は」
その返しに、ルネが横で少しだけ遠い目をした。
庇う気配がないあたり、この状況を完全には助けられないと分かっているのだろう。むしろ変に庇われるよりはましだった。庇いは時々、「余計に下だ」と強調することがある。
もう一人の高官が、机上の紙を指先で叩いた。
「監査室では、随分派手に働いたそうだな」
「派手、ではありません」
「そうか?」
「読みにくい帳簿を読みやすくしただけです」
男は鼻で笑った。
「地方ではそれを大仕事と言うのかもしれんが、王宮は違う」
来たな、とキャルは思う。
地方では。王宮は。侍女見習い。子爵令嬢。そのあたりの言葉を混ぜてくるタイプだ。
「そうでしょうね」
キャルは素直に頷いた。
「王宮の方が、たぶん読みにくい書類が多そうですし」
一拍遅れて、ルネが咳払いをした。
女の高官の目が細くなる。
「皮肉かしら」
「事実です」
キャルは机上の紙をちらりと見た。
「少なくとも、ここに置かれているまとめ表は、項目の順番が三度入れ替わっています」
部屋の空気が、少しだけ変わった。
高官たちの顔に「何を見ている」という色が浮かぶ。
キャルは平然と続けた。
「金額を読む前に、それが気になります」
年配の男が、やや苛立った声で言う。
「勝手に書類を見るな」
「見える位置にありますので」
「言い方に気をつけたまえ」
「気をつけています」
キャルとしては本気だった。
これでもかなり気をつけている。公爵家の中なら、もう少し露骨に「読みにくいですね」と言っている。
ルネが横から口を開いた。
「本日は、監査室の件を受けて、補修費以外の処理でも意見を聞きたいとのことで」
その言い方には、少しだけ「お願いですから本題へ行ってください」という色が混じっていた。
助け舟としてはだいぶ控えめだが、ないよりましだ。
女の高官が腕を組む。
「では聞きましょうか」
紙を一枚引き寄せ、キャルの前へ置いた。
「この王宮南棟の雑費一覧。何か分かる?」
言い方が試す気満々だった。
どうせ「地方の小娘には無理でしょう」と思っているのだろう。
キャルは紙を受け取り、目を走らせた。
インク、蝋燭、茶葉、暖炉用薪、敷布補修、客間用陶器。月ごとの支出は一応出ている。だが項目順がばらつき、途中で単位もずれている。さらに一部の月だけ“臨時雑費”という便利な言葉が増えていた。
うん、ひどい。
「……読みにくいです」
思わず本音が漏れた。
年配の男がすぐさま言う。
「感想を聞いているのではない」
「感想ではなく前提です」
キャルは紙から目を離さないまま答えた。
「読みにくいものは、読みやすくしないと変なところが拾えませんので」
高官二人が黙る。
女の高官が促す。
「それで?」
「臨時雑費が多すぎます」
キャルは即座に答えた。
「多い?」
「はい。この額なら、せめて中身を分けた方がいいです」
年配の男が皮肉げに言う。
「侍女風情に、王宮の費目整理までされる筋合いはないな」
その一言で、キャルの中の何かが少し冷えた。
侍女風情。
やはり出るか、と思う。
怒るほどの価値もない。むしろこういう人間ほど、言葉に頼る。
「では黙りますが」
キャルは平然と言った。
「その場合、この妙な増え方は残ります」
男の顔が少し止まる。
「妙な増え方?」
「はい。臨時雑費そのものより、暖炉用薪との関係が気になります」
紙の端を指で示す。
「冬の月だけ薪費が上がるのは自然ですが、その時期の臨時雑費も一緒に増えています」
「だから何だ」
「同じ理由で二重に積んでいる可能性があります」
女の高官が身を乗り出した。
「根拠は?」
「その月だけ、客間用陶器の補修がゼロだからです」
キャルは淡々と答える。
「本来なら寒い時期の来客増で、補修や暖炉や茶葉が少しずつ増えるはずです。でも陶器だけが動かない。なのに雑費は増える。なら、別のところをまとめて“雑費”へ押し込んでいるのでは」
今度こそ、三人とも黙った。
ルネがほんの少しだけ息を吐くのが聞こえた。たぶん、「はい、こうなります」と言いたいのだろう。
年配の男は、まだ納得しきらない顔で紙を見る。
「偶然かもしれん」
「そうかもしれません」
キャルはあっさり頷いた。
「でも、偶然かどうかは、次の月も見れば分かります」
そう言って、隣の紙束へ手を伸ばした。
止められなかった。
高官たちが黙って見ている間に、キャルは次の月、その次の月をざっと追う。暖炉用薪、臨時雑費、補修陶器、敷布。やはり同じ動き方をしている。
「……同じですね」
女の高官が低く言う。
「何が」
「臨時雑費の増える月と、薪費の増える月が同じです」
キャルは紙を揃えた。
「しかも、客間補修の項目が一つだけ寝ています。何かを移しているか、まとめているかのどちらかかと」
部屋の空気が少し変わった。
最初の見下しが、完全に消えたわけではない。だが少なくとも、「侍女風情に何が分かる」の段階から、「本当に拾うのか、この娘」に変わったのは分かる。
それは気持ちがいいというより、やれやれという感覚に近かった。
結局こうなるのだ。
身分で軽く見られて、仕事で黙らせる。たぶんこの先もずっと、その繰り返しなのだろう。
年配の男が、不本意そうに口を開いた。
「……ベルティエ」
「はい」
「この一覧、追加で精査に回せ」
「承知しました」
「あと」
男は一瞬だけ言い淀み、それからキャルを見た。
「キュレイション嬢、だったか」
呼び方が変わったな、とキャルは思った。
さっきまで侍女風情だの小娘だのという顔をしていたのに、仕事を見た途端に“嬢”になる。
そういうところが、逆に分かりやすい。
「はい」
「……もう一枚、見てもらえるか」
頼み方がぎこちない。
しかも“もらえるか”なのが、少し面白かった。さっきまで命令口調だった人間が、こういう時だけ変に慎重になるのだ。
「仕事ですので」
キャルは淡々と答えた。
「見るのは構いません」
そう言うと、ルネが本当に少しだけ安堵した顔をした。
たぶん胃が痛かったのだろう。気の毒だとは思うが、そこまで同情はしない。王宮に連れてきた側でもあるのだから。
机の上には、また新しい紙が乗る。
キャルはそれを見て、心の中で深くため息をついた。
王宮でも結局これだ。
見下す。試す。拾わせる。黙る。もう一枚、となる。
最悪である。
それでも紙に手を伸ばしてしまうあたり、自分の性分もだいぶ最悪だな、とキャルは本気で思った。
王宮財務局での二日目、キャル・キュレイションは朝から機嫌が悪かった。
理由ははっきりしている。
帰れなかったからだ。
正確には、昨日のうちに公爵家へ戻ることはできた。だが戻った頃にはもうすっかり夜で、侍女見習いとしての朝支度をするには睡眠時間が少なすぎた。つまり、王宮の仕事が増えた分だけ、公爵家での生活まで圧迫されている。
これは良くない。
非常に良くない。
しかも今朝、財務局へ着いた瞬間から、廊下の空気が昨日よりさらにうるさかった。音ではない。視線だ。
監査室で何日も解けなかった案件を片づけた公爵家の侍女見習い。
帳簿を読む変な娘。
小石を並べて計算するらしい娘。
そのあたりの噂が、ひどく中途半端な形で広がっているのだろう。
最悪である。
「おはようございます」
低く落ち着いた声がして、横を見るとルネ・ベルティエが立っていた。今日も整った服装で、疲れているのにきちんとして見えるのだから、この人は本当に仕事のできる官吏なのだろう。
「おはようございます」
キャルは返しながら、少しだけ目を細めた。
「今日は監査室ではありませんか」
「午前のうちは財務局本体です」
「嫌な予感しかしません」
「同感です」
その即答だけで、だいたい察した。
監査室で数字そのものと格闘するのも面倒だが、財務局本体で待っているのは別種の面倒だ。つまり、人間である。
ルネは控えめに言った。
「監査室の件が上に上がりまして」
「はい」
「何人かが、あなたに会いたいと」
「断ってください」
「できればしています」
その返しに、キャルは思わず少しだけ顔をしかめた。
それ、昨日公爵も言っていた。
「王宮も同じなんですね」
「何がですか」
「断りたい相手ほど断れないところが」
ルネがほんの少しだけ口元を動かす。笑ったのだろうが、ごく小さかった。
「……そうかもしれません」
通されたのは、監査室よりずっと整った部屋だった。机も椅子も上等で、紙の積み方も綺麗だ。綺麗だが、それだけに中にいる人間の気配が濃い。
三人いた。
年配の男が二人と、中年の女が一人。
服装も立ち方も、監査室の実務官より一段上だ。机に向かう人間の顔ではなく、机の向こうに人を立たせることに慣れた顔をしている。
つまり高官だ。
キャルはその瞬間、もう帰りたくなった。
「こちらが、ヴァレール公爵家からの臨時協力者です」
ルネがそう紹介すると、年配の男のひとりが椅子にもたれたままこちらを見た。
「……この娘が?」
その一言に、キャルは心の中で深くため息をついた。
やはり始まった。
「キャル・キュレイションです」
一応名乗る。
だが相手は名乗り返すより先に、値踏みするような目でキャルを見た。
「侍女見習いと聞いたが」
「はい」
「本当に公爵家は、こんな者を寄越したのか」
こんな者。
わざとだろうな、とキャルは思う。
こういう人間は最初に線を引く。身分、年齢、立場。そのどれかで下に置けると判断した相手には、最初から踏みつけるような話し方をする。
怒るだけ無駄だ。
だからキャルは淡々と答えた。
「寄越した、というより貸し出された形でしょうか」
女の高官がわずかに眉を上げる。
「口は回るのね」
「最低限は」
その返しに、ルネが横で少しだけ遠い目をした。
庇う気配がないあたり、この状況を完全には助けられないと分かっているのだろう。むしろ変に庇われるよりはましだった。庇いは時々、「余計に下だ」と強調することがある。
もう一人の高官が、机上の紙を指先で叩いた。
「監査室では、随分派手に働いたそうだな」
「派手、ではありません」
「そうか?」
「読みにくい帳簿を読みやすくしただけです」
男は鼻で笑った。
「地方ではそれを大仕事と言うのかもしれんが、王宮は違う」
来たな、とキャルは思う。
地方では。王宮は。侍女見習い。子爵令嬢。そのあたりの言葉を混ぜてくるタイプだ。
「そうでしょうね」
キャルは素直に頷いた。
「王宮の方が、たぶん読みにくい書類が多そうですし」
一拍遅れて、ルネが咳払いをした。
女の高官の目が細くなる。
「皮肉かしら」
「事実です」
キャルは机上の紙をちらりと見た。
「少なくとも、ここに置かれているまとめ表は、項目の順番が三度入れ替わっています」
部屋の空気が、少しだけ変わった。
高官たちの顔に「何を見ている」という色が浮かぶ。
キャルは平然と続けた。
「金額を読む前に、それが気になります」
年配の男が、やや苛立った声で言う。
「勝手に書類を見るな」
「見える位置にありますので」
「言い方に気をつけたまえ」
「気をつけています」
キャルとしては本気だった。
これでもかなり気をつけている。公爵家の中なら、もう少し露骨に「読みにくいですね」と言っている。
ルネが横から口を開いた。
「本日は、監査室の件を受けて、補修費以外の処理でも意見を聞きたいとのことで」
その言い方には、少しだけ「お願いですから本題へ行ってください」という色が混じっていた。
助け舟としてはだいぶ控えめだが、ないよりましだ。
女の高官が腕を組む。
「では聞きましょうか」
紙を一枚引き寄せ、キャルの前へ置いた。
「この王宮南棟の雑費一覧。何か分かる?」
言い方が試す気満々だった。
どうせ「地方の小娘には無理でしょう」と思っているのだろう。
キャルは紙を受け取り、目を走らせた。
インク、蝋燭、茶葉、暖炉用薪、敷布補修、客間用陶器。月ごとの支出は一応出ている。だが項目順がばらつき、途中で単位もずれている。さらに一部の月だけ“臨時雑費”という便利な言葉が増えていた。
うん、ひどい。
「……読みにくいです」
思わず本音が漏れた。
年配の男がすぐさま言う。
「感想を聞いているのではない」
「感想ではなく前提です」
キャルは紙から目を離さないまま答えた。
「読みにくいものは、読みやすくしないと変なところが拾えませんので」
高官二人が黙る。
女の高官が促す。
「それで?」
「臨時雑費が多すぎます」
キャルは即座に答えた。
「多い?」
「はい。この額なら、せめて中身を分けた方がいいです」
年配の男が皮肉げに言う。
「侍女風情に、王宮の費目整理までされる筋合いはないな」
その一言で、キャルの中の何かが少し冷えた。
侍女風情。
やはり出るか、と思う。
怒るほどの価値もない。むしろこういう人間ほど、言葉に頼る。
「では黙りますが」
キャルは平然と言った。
「その場合、この妙な増え方は残ります」
男の顔が少し止まる。
「妙な増え方?」
「はい。臨時雑費そのものより、暖炉用薪との関係が気になります」
紙の端を指で示す。
「冬の月だけ薪費が上がるのは自然ですが、その時期の臨時雑費も一緒に増えています」
「だから何だ」
「同じ理由で二重に積んでいる可能性があります」
女の高官が身を乗り出した。
「根拠は?」
「その月だけ、客間用陶器の補修がゼロだからです」
キャルは淡々と答える。
「本来なら寒い時期の来客増で、補修や暖炉や茶葉が少しずつ増えるはずです。でも陶器だけが動かない。なのに雑費は増える。なら、別のところをまとめて“雑費”へ押し込んでいるのでは」
今度こそ、三人とも黙った。
ルネがほんの少しだけ息を吐くのが聞こえた。たぶん、「はい、こうなります」と言いたいのだろう。
年配の男は、まだ納得しきらない顔で紙を見る。
「偶然かもしれん」
「そうかもしれません」
キャルはあっさり頷いた。
「でも、偶然かどうかは、次の月も見れば分かります」
そう言って、隣の紙束へ手を伸ばした。
止められなかった。
高官たちが黙って見ている間に、キャルは次の月、その次の月をざっと追う。暖炉用薪、臨時雑費、補修陶器、敷布。やはり同じ動き方をしている。
「……同じですね」
女の高官が低く言う。
「何が」
「臨時雑費の増える月と、薪費の増える月が同じです」
キャルは紙を揃えた。
「しかも、客間補修の項目が一つだけ寝ています。何かを移しているか、まとめているかのどちらかかと」
部屋の空気が少し変わった。
最初の見下しが、完全に消えたわけではない。だが少なくとも、「侍女風情に何が分かる」の段階から、「本当に拾うのか、この娘」に変わったのは分かる。
それは気持ちがいいというより、やれやれという感覚に近かった。
結局こうなるのだ。
身分で軽く見られて、仕事で黙らせる。たぶんこの先もずっと、その繰り返しなのだろう。
年配の男が、不本意そうに口を開いた。
「……ベルティエ」
「はい」
「この一覧、追加で精査に回せ」
「承知しました」
「あと」
男は一瞬だけ言い淀み、それからキャルを見た。
「キュレイション嬢、だったか」
呼び方が変わったな、とキャルは思った。
さっきまで侍女風情だの小娘だのという顔をしていたのに、仕事を見た途端に“嬢”になる。
そういうところが、逆に分かりやすい。
「はい」
「……もう一枚、見てもらえるか」
頼み方がぎこちない。
しかも“もらえるか”なのが、少し面白かった。さっきまで命令口調だった人間が、こういう時だけ変に慎重になるのだ。
「仕事ですので」
キャルは淡々と答えた。
「見るのは構いません」
そう言うと、ルネが本当に少しだけ安堵した顔をした。
たぶん胃が痛かったのだろう。気の毒だとは思うが、そこまで同情はしない。王宮に連れてきた側でもあるのだから。
机の上には、また新しい紙が乗る。
キャルはそれを見て、心の中で深くため息をついた。
王宮でも結局これだ。
見下す。試す。拾わせる。黙る。もう一枚、となる。
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