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第3章:はじめての領地視察と新たな出会いな出会い
23話
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新たな課題と決意
村での初日を終え、わたしは宿舎として用意してもらった簡素な民家の一室で、グレゴリーと二人になりました。今日はとりあえず村長や農夫たちの話を聞き、畑を見てまわっただけで終わったのです。
明日からは、さらに川や森の近くを調査しようと考えていますが、正直なところ情報量が多く、頭が少しパンクしそうな感覚もありました。
「お嬢様、大丈夫ですか? お疲れでしょう。長旅のあとにこれだけ歩き回りましたし、慣れない土地でもありますから……。」
グレゴリーが心配そうに声をかけてくれました。
わたしは苦笑しつつ、「そうね、少し疲れたかも……」と答えます。しかし、不思議なことに、体は疲れていても心はどこか充実していました。
「でも、グレゴリー。わたし、こういう形で村の人たちの声を直接聞けてよかったと思うの。婚約破棄をされて落ち込んでいたときは、自分には何の価値もないように感じていたけれど、実際にこうして動いてみると“まだできることはある”とわかるから……。」
その言葉を聞いたグレゴリーは、静かにうなずきました。
「わたしもそう思います。お嬢様はこれまで王太子妃になるための勉強を重ねてこられましたが、その学びを領地のために生かす道もある。伯爵様や奥方様も、お嬢様の成長を喜んでいらっしゃることでしょう。」
わたしはベッドの端に腰かけ、窓の外を見つめました。そこには星がきらめき、夜の静けさが広がっています。以前のわたしなら、この時間は宮廷の夜会や社交の場に出ていたかもしれません。きらびやかな衣装をまとい、礼儀正しく振る舞っていたかもしれません。
でも今のわたしは、質素な木の家の一室で、村人たちの抱える問題を解決しようと頭を悩ませています。どちらが正しいとか良いとかではなく、ただ自分の選んだ道を進んでいるだけ――そう思うと、不思議と気分が落ち着いていきました。
「明日は川のほうを見に行きましょう。水路の状態をきちんと把握して、村の皆さんと相談しながら改善策を考えないと。アーヴィンさんの話だと、森の管理も重要だっていうし、やることはいくらでもあるわね。」
わたしがそう口にすると、グレゴリーも「お任せください。明朝に村長と打ち合わせのうえ、実際に川をさかのぼる経路を確認しましょう」と前向きな返事をくれました。
そのまま二人で今後の段取りを話し合い、わたしはノートにメモを取りつつ、次の日にやるべきことを書き出しました。こつこつと準備をしていると、時間が経つのを忘れるほど集中してしまいます。
やがて夜も更け、グレゴリーが退室し、わたしは一人になりました。ベッドに入ると、どっと疲れが押し寄せてきます。肉体的な疲労もありますが、心はむしろ穏やかでした。
婚約破棄のショックはまだ完全には癒えていないし、思い出すと胸が痛むこともあります。でも、こうして領地での問題解決に取り組んでいると、自分が生きる道を見つけているような感覚になれるのです。もし王太子殿下と結婚していたら、こんなふうに村を訪れ、土を触り、村人の話に耳を傾ける機会はなかったかもしれません。
「わたしはわたしなりに、歩いていけばいいんだ……。」
そう小さく呟いて、わたしは目を閉じました。外からは虫の声がかすかに聞こえてきます。ゆりかごのように揺れるその音に、わたしは心を委ねるように深い眠りに落ちていきました。
村での初日を終え、わたしは宿舎として用意してもらった簡素な民家の一室で、グレゴリーと二人になりました。今日はとりあえず村長や農夫たちの話を聞き、畑を見てまわっただけで終わったのです。
明日からは、さらに川や森の近くを調査しようと考えていますが、正直なところ情報量が多く、頭が少しパンクしそうな感覚もありました。
「お嬢様、大丈夫ですか? お疲れでしょう。長旅のあとにこれだけ歩き回りましたし、慣れない土地でもありますから……。」
グレゴリーが心配そうに声をかけてくれました。
わたしは苦笑しつつ、「そうね、少し疲れたかも……」と答えます。しかし、不思議なことに、体は疲れていても心はどこか充実していました。
「でも、グレゴリー。わたし、こういう形で村の人たちの声を直接聞けてよかったと思うの。婚約破棄をされて落ち込んでいたときは、自分には何の価値もないように感じていたけれど、実際にこうして動いてみると“まだできることはある”とわかるから……。」
その言葉を聞いたグレゴリーは、静かにうなずきました。
「わたしもそう思います。お嬢様はこれまで王太子妃になるための勉強を重ねてこられましたが、その学びを領地のために生かす道もある。伯爵様や奥方様も、お嬢様の成長を喜んでいらっしゃることでしょう。」
わたしはベッドの端に腰かけ、窓の外を見つめました。そこには星がきらめき、夜の静けさが広がっています。以前のわたしなら、この時間は宮廷の夜会や社交の場に出ていたかもしれません。きらびやかな衣装をまとい、礼儀正しく振る舞っていたかもしれません。
でも今のわたしは、質素な木の家の一室で、村人たちの抱える問題を解決しようと頭を悩ませています。どちらが正しいとか良いとかではなく、ただ自分の選んだ道を進んでいるだけ――そう思うと、不思議と気分が落ち着いていきました。
「明日は川のほうを見に行きましょう。水路の状態をきちんと把握して、村の皆さんと相談しながら改善策を考えないと。アーヴィンさんの話だと、森の管理も重要だっていうし、やることはいくらでもあるわね。」
わたしがそう口にすると、グレゴリーも「お任せください。明朝に村長と打ち合わせのうえ、実際に川をさかのぼる経路を確認しましょう」と前向きな返事をくれました。
そのまま二人で今後の段取りを話し合い、わたしはノートにメモを取りつつ、次の日にやるべきことを書き出しました。こつこつと準備をしていると、時間が経つのを忘れるほど集中してしまいます。
やがて夜も更け、グレゴリーが退室し、わたしは一人になりました。ベッドに入ると、どっと疲れが押し寄せてきます。肉体的な疲労もありますが、心はむしろ穏やかでした。
婚約破棄のショックはまだ完全には癒えていないし、思い出すと胸が痛むこともあります。でも、こうして領地での問題解決に取り組んでいると、自分が生きる道を見つけているような感覚になれるのです。もし王太子殿下と結婚していたら、こんなふうに村を訪れ、土を触り、村人の話に耳を傾ける機会はなかったかもしれません。
「わたしはわたしなりに、歩いていけばいいんだ……。」
そう小さく呟いて、わたしは目を閉じました。外からは虫の声がかすかに聞こえてきます。ゆりかごのように揺れるその音に、わたしは心を委ねるように深い眠りに落ちていきました。
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