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第1章 転生の先で出会う“異世界経済”
3話
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両親との朝食
その日の朝食は、豪華なダイニングルームで摂ることになった。円形の大理石テーブルの上には、焼きたてのパンやスープ、果物、チーズ、ハムなどがずらりと並ぶ。
わたしは伯爵夫人――つまりこの世界での母親――にあたる女性に促され、席に座った。彼女は「昨夜は夜更かししていなかった?」と、わたしを気遣う。伯爵である父はすでに席についており、新聞のようなものを読んでいた。
わたしはまだ状況を呑み込むのに精一杯だったが、どうやらこの家の言語は自然と理解できるようだ。異世界転生でよくある“言語チート”というやつだろうか。ともかく、会話は問題なく成立しているらしい。
父は新聞から目を上げ、微笑みながら言う。
「サラ、今日も顔色が良さそうだな。体調は万全か?」
「ええ、まあ……大丈夫です。」
本当に大丈夫かはさておき、とりあえず答えると、父は満足げにうなずいた。
「そうか。それならよかった。お前にはこれから、いろいろと社交界での経験を積んでほしいのだ。伯爵家の令嬢として、面目を保たねばならんからな。」
伯爵家? 確かにサラ・レティシアという少女は伯爵の娘。ということは、わたしは貴族の家に生まれたことになる。……まあ、悪くはないかもしれない。日本では激務に追われていたけれど、貴族令嬢としてなら悠々自適に過ごせるかも。そんな甘い期待を抱きそうになったが、わたしの性分がそれを許さない。
「でも、わたし、あまり社交界に興味がないというか……」
恐る恐る口にすると、父は少し困った顔をした。
「サラ、お前もいい年頃だ。そろそろ舞踏会にも出席して、良家の子息と顔をつないでおくのは大事なことだぞ。娘のためを思って言っているんだ。」
そう言いながら、父は手にした新聞――どうやら『アルステード王国公報』のようだ――を畳む。
「顔がいいんだ、お前は。せっかくの容姿を活かさないなんてもったいないからな。」
「そうですわよ、サラ。あなたはもっと自信を持っていいのよ。」
母はふんわりと微笑む。どうやらこの世界では、伯爵家の娘が舞踏会で華々しくデビューし、上位貴族や有力貴族の令息と婚約するのがステータスのようだ。
「……舞踏会、ですか」
わたしは生返事をするが、本心では別のことを考えていた。――経済。この世界の経済はどの程度発展しているのか? 新聞の紙面を見る限り、どうやら各国との貿易や関税の話題がそれなりに扱われている。ある程度の経済活動はあるのだろう。けれど、わたしの“前世”で培った金融知識を活かせば、十分に“大穴”がありそうだ。
「まあ、社交界がどうとか以前に、この国の通貨制度や為替はどうなってるんだろう……」
無意識にそう呟いたら、父が怪訝そうな顔をした。
「通貨制度? サラ、お前、急に難しい言葉を使うんだな。そんなもの、王国が決めた金貨と銀貨があるだけでいいのだよ。」
「うーん、そう……なんですね。」
さらりと返す父の言葉を聞き、わたしは頭の中で様々な構図を思い浮かべる。現代日本の金融システムほど複雑ではない。中央銀行のような機関は、おそらく王室が貨幣鋳造権を握っている程度だろう。しかも、隣国との貿易では金貨と銀貨の価値が微妙に違う可能性がある。そこには“裁定取引”の余地が生まれるはず。
「サラ、あまり興味がないかもしれないが、舞踏会の日程は近い。準備はしておけよ。」
父はそう言うと、朝食を済ませて席を立った。きっと今日も伯爵としての公務があるのだろう。母も「ドレスの仕立てをどうしましょう」とウキウキしている様子だ。
わたしは紅茶をすすりながら、ひそかにこの世界の通貨流通について頭をめぐらせていた。
「もしも金貨と銀貨の価値差が国によって違うのなら……それはまさに為替差益が生まれるポイントだわ。」
その日の朝食は、豪華なダイニングルームで摂ることになった。円形の大理石テーブルの上には、焼きたてのパンやスープ、果物、チーズ、ハムなどがずらりと並ぶ。
わたしは伯爵夫人――つまりこの世界での母親――にあたる女性に促され、席に座った。彼女は「昨夜は夜更かししていなかった?」と、わたしを気遣う。伯爵である父はすでに席についており、新聞のようなものを読んでいた。
わたしはまだ状況を呑み込むのに精一杯だったが、どうやらこの家の言語は自然と理解できるようだ。異世界転生でよくある“言語チート”というやつだろうか。ともかく、会話は問題なく成立しているらしい。
父は新聞から目を上げ、微笑みながら言う。
「サラ、今日も顔色が良さそうだな。体調は万全か?」
「ええ、まあ……大丈夫です。」
本当に大丈夫かはさておき、とりあえず答えると、父は満足げにうなずいた。
「そうか。それならよかった。お前にはこれから、いろいろと社交界での経験を積んでほしいのだ。伯爵家の令嬢として、面目を保たねばならんからな。」
伯爵家? 確かにサラ・レティシアという少女は伯爵の娘。ということは、わたしは貴族の家に生まれたことになる。……まあ、悪くはないかもしれない。日本では激務に追われていたけれど、貴族令嬢としてなら悠々自適に過ごせるかも。そんな甘い期待を抱きそうになったが、わたしの性分がそれを許さない。
「でも、わたし、あまり社交界に興味がないというか……」
恐る恐る口にすると、父は少し困った顔をした。
「サラ、お前もいい年頃だ。そろそろ舞踏会にも出席して、良家の子息と顔をつないでおくのは大事なことだぞ。娘のためを思って言っているんだ。」
そう言いながら、父は手にした新聞――どうやら『アルステード王国公報』のようだ――を畳む。
「顔がいいんだ、お前は。せっかくの容姿を活かさないなんてもったいないからな。」
「そうですわよ、サラ。あなたはもっと自信を持っていいのよ。」
母はふんわりと微笑む。どうやらこの世界では、伯爵家の娘が舞踏会で華々しくデビューし、上位貴族や有力貴族の令息と婚約するのがステータスのようだ。
「……舞踏会、ですか」
わたしは生返事をするが、本心では別のことを考えていた。――経済。この世界の経済はどの程度発展しているのか? 新聞の紙面を見る限り、どうやら各国との貿易や関税の話題がそれなりに扱われている。ある程度の経済活動はあるのだろう。けれど、わたしの“前世”で培った金融知識を活かせば、十分に“大穴”がありそうだ。
「まあ、社交界がどうとか以前に、この国の通貨制度や為替はどうなってるんだろう……」
無意識にそう呟いたら、父が怪訝そうな顔をした。
「通貨制度? サラ、お前、急に難しい言葉を使うんだな。そんなもの、王国が決めた金貨と銀貨があるだけでいいのだよ。」
「うーん、そう……なんですね。」
さらりと返す父の言葉を聞き、わたしは頭の中で様々な構図を思い浮かべる。現代日本の金融システムほど複雑ではない。中央銀行のような機関は、おそらく王室が貨幣鋳造権を握っている程度だろう。しかも、隣国との貿易では金貨と銀貨の価値が微妙に違う可能性がある。そこには“裁定取引”の余地が生まれるはず。
「サラ、あまり興味がないかもしれないが、舞踏会の日程は近い。準備はしておけよ。」
父はそう言うと、朝食を済ませて席を立った。きっと今日も伯爵としての公務があるのだろう。母も「ドレスの仕立てをどうしましょう」とウキウキしている様子だ。
わたしは紅茶をすすりながら、ひそかにこの世界の通貨流通について頭をめぐらせていた。
「もしも金貨と銀貨の価値差が国によって違うのなら……それはまさに為替差益が生まれるポイントだわ。」
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