婚約破棄されたので辺境でスローライフします……のはずが、氷の公爵様の溺愛が止まりません!』

鍛高譚

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第34話 **「修羅場からの避難。 クルト様、カチュアを“誰も入れない密室”へ連れ込む」**

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第34話

**「修羅場からの避難。

クルト様、カチュアを“誰も入れない密室”へ連れ込む」**


---

アレクシスとクルト様の、
鋭い視線のぶつかり合い。

その場の空気は、
触れただけで切れそうなほど張りつめていた。

(……こ、これは二人とも限界ですわ……!
わたしがここにいたら、余計に火に油を注ぎますわ……!!)

その時だった。

クルト様が、
私の手を包む指に力を込めた。

「……ついて来い」

低い声。
有無を言わせない響き。

「えっ……クルト様……?」

「今は……誰の言葉も聞きたくない。
お前の顔だけ、見ていたい」

(ひ……ひえぇぇ……!)

アレクシスが口を開こうとしたが、

「後で話す。
今は……カチュアを連れて行く」

クルト様がそう告げた瞬間――

ぐいっ。

私は腕を引かれ、
そのままクルト様の胸元へ抱き寄せられた。

(ち、近い……!
距離が……いつもより近い……!!)

「クルト。そんな強引に――」

アレクシスが言いかける。

しかしクルト様は振り返りもせず言い放った。

「悪いが、今は譲らん」

その声音の“本気”が、
アレクシスを黙らせた。

(……クルト様が、あんなふうに……
はっきり自分の意志を言うなんて……)

クルト様は、
私の腰をそっと抱き寄せるように支えながら、
部屋の外へ出た。

扉が閉じる。

足音が早い。
でも乱れている。

まるで焦っているような――
そんな歩き方。

「クルト様……大丈夫ですの……?」

胸に寄せられた私の声が震える。

クルト様は少しだけ息を荒くして、

「……すまない。
今は……お前の顔を見る余裕もない」

「え?」

「見たら……抱きしめたくなる。
離したくなくなる」

(え……!?)

ドキンッ。

胸が跳ねた。

(わ、わたし……
そんなふうに思われていたなんて……!!)

クルト様は黙ったまま歩き続け、
屋敷の奥――
滅多に誰も入らない特別室へ向かった。

――ガチャ。

扉の奥は、
普段は書類管理に使われる“私室兼書庫”。

静かで、
誰にも邪魔されない場所。

クルト様は私を中へ促し、
扉を閉め……鍵をかけた。

カチャッ。

(か、鍵!?
クルト様が鍵を……!?)

驚いて見上げると、
彼は少し険しい顔で私を見つめていた。

「……誰にも、入ってきてほしくない」

(こ、これは……!
完全に独占モードですわ……!)

クルト様はゆっくりと近づき、
私の目の前に立った。

「カチュア」

低い声。

「アレクシスの前では言えなかった言葉が、あるだろう?」

全身がカッと熱くなる。

(あ……
わたし……心の中では……
ちゃんと決めていたのに……)

クルト様は、
いつになく苦しそうな目をして続ける。

「……教えてほしい。
俺のどこが、お前を不安にさせる?」

「クルト様……?」

「お前が迷っているなら……
俺に足りない部分があるのだと思った」

(ま、待って……そんな……!)

胸が詰まって、
息が苦しくなる。

「違いますわ……!
わたし……
クルト様のせいで迷っているのではありません……!」

「……なら、なぜ迷う?」

「それは……」

(い、言えない……
好きだとか……愛しているとか……
そんな言葉……!!)

唇が震えた。

視線を落とす。

その時だった。

クルト様の指先が、
そっと私の顎を持ち上げた。

「カチュア」

「……っ」

「俺を……見てくれ」

逃げ場がない。
瞳をそらせない。

そして。

クルト様の瞳の奥には、
痛いほどの“熱”が宿っていた。

「……お前が迷う間は、俺は苦しむ。
だがな」

言って、クルト様は私の頬へ手を添えた。

「お前が俺を選ぼうとしてくれていることは……
分かっている」

「っ……!」

「だからこそ、言わせてくれ」

その手は優しく、でも熱く。
触れられるだけで胸が溶けそう。

「――お前の心が揺れるのなら、
俺はその揺れごと抱きしめる」

「……!!」

涙が滲むほど胸が熱い。

そんな言葉……
望んでもいなかったのに。
欲しくてたまらなかったのに……。

「お前がどれだけ迷っても構わない。
だが――」

クルト様はそっと私の髪を撫でた。

「俺から離れるな」

「ぁ……」

「俺が不安になる。
……壊れそうになる」

胸の奥がぎゅううっと痛くなる。

(どうして……
どうしてこんなふうに……
心をまっすぐ向けられて……
わたし……)

熱が込み上げる。

胸の奥の“答え”が、
はっきりと形を持ち始めていた。

(わたし……
もう……)

クルト様の胸が、
すぐそこにある距離。

その距離が怖くて、
でも、温かくて。

(クルト様が……好き……)

心が叫ぶ。

唇が震えて――
言葉になろうとしたその時。

――コンッ。

突然、扉がノックされた。

「……カチュア様?
旦那様?
アレクシス様が……」

(あ……!
アレクシスさんが……!)

ノックの向こうから、
アレクシスの明るい声が聞こえた。

「クルト。
鍵までかけて何をしているんだ?」

部屋の空気が一気に緊張する。

クルト様は、
静かに……しかし確実に言った。

「――邪魔をするな」

その一言に、
背筋が震えた。


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