冷たい夫のはずが…政略結婚から始まる溺愛の行方

鍛高譚

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第2章: 「冷酷な夫の裏の顔」

2-6. 暖かさに触れた瞬間

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2-6. 暖かさに触れた瞬間

 リオネルのリードで始まったワルツは、驚くほど滑らかだった。彼の冷徹なイメージからは想像もつかないほど丁寧で、まるで何度も練習を重ねてきたかのように安定している。
 右手でカリエラの腰をそっと支え、左手でカリエラの手を握る。額や鼻先が触れ合うほど近くにあるリオネルの顔を見上げると、その端整な横顔は変わらず無表情に見える――しかし、その瞳には先ほどまでの刺すような冷たさはなかった。
 音楽に合わせてステップを踏むたび、カリエラのドレスの裾がふわりと広がる。まるで二人だけの世界に入り込んだかのように、周囲の視線が遠のいていくようだ。これが、夫婦としての初めての舞踏とは思えないほど息が合っている。
 カリエラの頬が少し熱くなるのを感じた。リオネルの手は大きく、そして意外なほどに暖かい。いつもは“氷のような人”としか感じられなかったのに、今はなぜだかその温もりがしっかりと伝わってくる。
 舞曲が終わると同時に、場内は盛大な拍手に包まれた。二人は自然と視線を交わし、カリエラはそこで初めてリオネルの唇の端がほんのわずかに動いたのを見た――微笑ではないかもしれないが、先ほどまでの無表情とは違う、温度のある表情。
 エリザベスをはじめ、先ほどまでカリエラを貶めようとしていた者たちはいたたまれない面持ちだった。噂を書き立てた紙の件も、リオネルの一喝で完全に萎縮してしまったらしい。
 そうして夜会は、リオネルの“妻を守る”という鮮烈な印象を残したまま続いていった。音楽や宴が再び賑わいを取り戻すとともに、あの醜い噂の話題はもはや誰の口にも上らない。
 ただし、エリザベスの顔は怒りとも嫉妬ともつかない感情で歪んでいた。次こそは必ず叩きのめしてやろう――そんな暗い決意を胸に秘めているような眼差しが、遠巻きに二人を刺していた。
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