冷たい夫のはずが…政略結婚から始まる溺愛の行方

鍛高譚

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第2章: 「冷酷な夫の裏の顔」

2-5. 「私の妻だ」

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2-5. 「私の妻だ」

 リオネルはカリエラの手を離さぬまま、会場を見回す。その瞳には怒りの炎が宿っているようにも見えた。彼がここまで感情を露わにする姿は、カリエラはもちろん、周囲の誰にとっても珍しいことだった。

「私の妻を、くだらない噂で貶めようとするとは……どこのどいつの仕業だ?」

 低く、冷徹な声が大広間に響き渡る。その問いに答えられる者は、もちろん誰もいない。
 エリザベスは気まずそうに目をそらすが、リオネルの視界にはしっかり入っていた。彼女が紙を拾い上げた瞬間も、彼は見逃していないのだろう。
 しんと静まり返る会場で、リオネルはさらに言葉を続ける。

「この結婚が政略であったことは事実だが、カリエラが自ら望んだものではない。俺や当家の事情があってのことだ。何も知らない外野が口を挟むな。これは私事だ」

 それは、今まで一度も語られることのなかったリオネル自身の言い分だった。まるで“カリエラには罪などない”と言わんばかりに明言している。
 カリエラは心臓の音が耳に響くほど高鳴っているのを感じた。これまで「必要以上に関わらない」と距離を置かれていた夫が、まさかここで明確に自分を擁護する言葉を口にしてくれるとは思わなかったからだ。
 リオネルはカリエラの手を軽く引き寄せ、はっきりと聞こえる声で宣言する。

「……彼女は、私の妻だ。それだけ理解しておけばいい」

 その言葉は、冷たくとも力強かった。貴族社会において“彼女は私の妻”と公言することがどういう意味を持つか――周囲の者たちにも一瞬で伝わった。リオネルがはっきりと“妻を守る”と示したのだ。
 これを聞き、取り巻きたちやエリザベスの顔色は一気に青ざめる。バツの悪そうな沈黙が流れるなか、リオネルは再びカリエラに目をやった。彼女はその瞳をまともに見返すことができない。
 しかし、彼の声は先ほどよりも少し優しく感じられた。

「カリエラ。……踊るなら、俺がパートナーになろう」

 思いがけない申し出に、カリエラは息を呑む。これは間違いなくリオネルからの“助け舟”だ。今この場で夫婦がそろって舞踏をすれば、先ほどの醜い噂話などかき消してしまえるかもしれない。
 カリエラは僅かに戸惑いながらも、心の奥で湧きあがる喜びを隠しきれず、小さく頷いて手を預けた。リオネルがそっとその手を引き、舞踏のスペースへと導いていく。音楽が再開され、会場は一転して二人の踊りに視線を集めるのだった。
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