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新しい未来のために
王国の統治は、帝国軍本隊が到着したのち、正式に“帝国属州”という形に再編されることになった。王家は象徴的な存在として一部残されたものの、実権は帝国の総督府が握り、ハウザーを含む将官や役人が政治を取り仕切る。
こうして見ると、王国が完全に帝国の支配下に組み込まれるのも時間の問題だろう。しかし、ハウザーはその責務の中で、できる限り穏やかな改革を実現しようと動いていた。民衆の抵抗を最小限に抑え、現地の自治を尊重し、破壊ではなく復興を目指すやり方を徹底している。
もちろん、帝国内の強硬派からは「もっと厳しく支配せよ」との声が上がり、王国の保守派からも「帝国の飼い犬になるな」との非難が飛び交う。二つの板挟みの中でハウザーは苦戦を強いられるが、それでも諦めずに道を探ろうと奔走していた。
コーラルは伯爵家の娘として、それらの協議の場にも参加し、帝国と王国の折衝役を担うことが増えた。慈善事業や人道的支援ばかりでなく、政治の場で声を上げる役割も果たしているのだ。
「伯爵令嬢、次の会議は帝国総督府の管理官が主催するようです。税制の変更など、大きな課題が議題に上るとか」
従者が書類を差し出してくるのを、コーラルは受け取りながら、苦笑いを浮かべる。
「ええ、わかりました。戦争が終わったとはいえ、やるべきことは山積み……ですね」
かつては社交界の夜会で着飾り、エスコートされる立場だったのが嘘のようだ。今や彼女は多忙を極め、身分を問わず人々のために力を注ぎ込んでいる。
そんなコーラルを、王都の民衆は少しずつ“希望の星”として見るようになった。敗戦の混乱で貴族に対する不信感が高まる中、彼女だけは民を見捨てず、帝国との交渉にも正面から向き合っているからだ。
もちろん、それが危険を伴うこともコーラルは重々承知していた。帝国の中枢部は一枚岩ではなく、いつ強硬派が台頭してくるかわからない。けれど、ハウザーという理解者がいることが大きな支えになる。
以前の戦時中に比べれば、二人きりで言葉を交わす機会は増えた。激務の合間に雑務を片付けながら、または夜更けの警戒態勢を見回る中で、短い会話を交わす。その中には、帝国と王国の将来だけでなく、コーラル自身の想いや、ハウザーの心のうちを覗かせるような言葉も混ざっている。
「貴女がここまで尽くしてくれるおかげで、私も肩の荷が下りる瞬間がある。……もしよければ、今度の休暇には少し外を散歩しませんか?」
そんな提案をハウザーから受けたとき、コーラルは少し戸惑った。しかし、彼の真摯な瞳を見れば、決して軽々しい誘いではないとわかる。
かつての自分なら、軍人という立場の相手に警戒しか抱かなかったかもしれない。だが、今のコーラルは少し勇気を持ち、素直に笑みを返す。
「散歩……ええ、ぜひ。私も外の空気を吸って、気分を変えたいと思っていましたの」
それは、まるで新しい恋の芽生えを予感させる穏やかなやりとりだった。もう、アリオンの幻影に囚われることはない。あれほど愛した過去ではあっても、その結末を自分の目で見届けた今、コーラルは前へ進もうと心に決めている。
王国の統治は、帝国軍本隊が到着したのち、正式に“帝国属州”という形に再編されることになった。王家は象徴的な存在として一部残されたものの、実権は帝国の総督府が握り、ハウザーを含む将官や役人が政治を取り仕切る。
こうして見ると、王国が完全に帝国の支配下に組み込まれるのも時間の問題だろう。しかし、ハウザーはその責務の中で、できる限り穏やかな改革を実現しようと動いていた。民衆の抵抗を最小限に抑え、現地の自治を尊重し、破壊ではなく復興を目指すやり方を徹底している。
もちろん、帝国内の強硬派からは「もっと厳しく支配せよ」との声が上がり、王国の保守派からも「帝国の飼い犬になるな」との非難が飛び交う。二つの板挟みの中でハウザーは苦戦を強いられるが、それでも諦めずに道を探ろうと奔走していた。
コーラルは伯爵家の娘として、それらの協議の場にも参加し、帝国と王国の折衝役を担うことが増えた。慈善事業や人道的支援ばかりでなく、政治の場で声を上げる役割も果たしているのだ。
「伯爵令嬢、次の会議は帝国総督府の管理官が主催するようです。税制の変更など、大きな課題が議題に上るとか」
従者が書類を差し出してくるのを、コーラルは受け取りながら、苦笑いを浮かべる。
「ええ、わかりました。戦争が終わったとはいえ、やるべきことは山積み……ですね」
かつては社交界の夜会で着飾り、エスコートされる立場だったのが嘘のようだ。今や彼女は多忙を極め、身分を問わず人々のために力を注ぎ込んでいる。
そんなコーラルを、王都の民衆は少しずつ“希望の星”として見るようになった。敗戦の混乱で貴族に対する不信感が高まる中、彼女だけは民を見捨てず、帝国との交渉にも正面から向き合っているからだ。
もちろん、それが危険を伴うこともコーラルは重々承知していた。帝国の中枢部は一枚岩ではなく、いつ強硬派が台頭してくるかわからない。けれど、ハウザーという理解者がいることが大きな支えになる。
以前の戦時中に比べれば、二人きりで言葉を交わす機会は増えた。激務の合間に雑務を片付けながら、または夜更けの警戒態勢を見回る中で、短い会話を交わす。その中には、帝国と王国の将来だけでなく、コーラル自身の想いや、ハウザーの心のうちを覗かせるような言葉も混ざっている。
「貴女がここまで尽くしてくれるおかげで、私も肩の荷が下りる瞬間がある。……もしよければ、今度の休暇には少し外を散歩しませんか?」
そんな提案をハウザーから受けたとき、コーラルは少し戸惑った。しかし、彼の真摯な瞳を見れば、決して軽々しい誘いではないとわかる。
かつての自分なら、軍人という立場の相手に警戒しか抱かなかったかもしれない。だが、今のコーラルは少し勇気を持ち、素直に笑みを返す。
「散歩……ええ、ぜひ。私も外の空気を吸って、気分を変えたいと思っていましたの」
それは、まるで新しい恋の芽生えを予感させる穏やかなやりとりだった。もう、アリオンの幻影に囚われることはない。あれほど愛した過去ではあっても、その結末を自分の目で見届けた今、コーラルは前へ進もうと心に決めている。
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