6 / 33
第6話
しおりを挟む
元・婚約者? カトリーヌの嫌味
さまざまな挨拶を受け流し、少し疲れた私は、会場の隅に用意された控え室で一息入れていた。
レオンは仕事上の知人に挨拶をするとのことで離れている。私は軽く紅茶を飲みながら、ゆっくり体を休めていたのだが……。
突然、控え室の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
彼女はきらびやかなフリルのドレスを纏い、豊かな金髪を上品にまとめた美しい伯爵令嬢——カトリーヌ・ヴェルナール。
彼女は私を見るなり、目を細めて不思議な笑みを浮かべた。
「まあ、あなたがグランツ公爵夫人……エマール・グランツ様、ですわね?」
「ええ、そうですが。あなたは……?」
「カトリーヌ・ヴェルナールと申します。実は以前、わたくし……レオン様との縁談が噂された時期がありまして。こうしてお目にかかるのは初めてですわね」
縁談? レオンの元・婚約者候補ということだろうか。
初耳だったが、名門の公爵なら一度や二度の縁談があっても不思議ではない。たまたま話が流れて、私との結婚につながったのかもしれない。
けれどカトリーヌの口調は、どこか挑発的だ。
「……そうだったのですね。存じ上げませんでした。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「いいえ、今さら無粋なことは申しませんわ。ただ、少し興味があって。あなたとレオン様が“白い結婚”だと聞いたものですから」
出た、“白い結婚”という言葉。
私は苦笑気味にそれを受け止める。ここで否定しても仕方ないし、実際そういう条件で結婚したのだ。
「ええ、まあ、形式的にはそのように。特に問題もありませんし、むしろ気楽で助かってますわ」
そう答えると、カトリーヌはまるで私を嘲笑うように唇を歪めた。
「本当にそうかしら? レオン様は昔から自分の興味のない相手にはとことん冷たいのよ。あなた、寂しくないの?」
「……それは私とレオン様の問題です。お気遣いどうも」
やんわりと切り返すと、彼女は肩をすくめる。
「ま、あなたがそれで満足ならいいのだけど。私なら、形だけの結婚なんてごめんですわ。どうせなら本当に愛されたいもの。……お気の毒」
言いたい放題である。しかし、ここで感情をむき出しにしたら私の負けだ。私は笑顔を崩さずに応じる。
「お気遣いなく。わたくしは十分に幸せですので」
つとめて涼しい顔でそう告げると、カトリーヌは「まあ、そう」と鼻で笑って控え室を出て行った。
残された私は、微妙に胸がざわついている。
愛がない、冷たくされている——確かに第三者から見ればそう思うだろう。でも、実際のレオンは“全くの無関心”ではなく、むしろあれこれと気を配ってくれる場面が多い。
——あれは、少なくとも“冷たくあしらっている”のとは違うはず。
それを証明したい衝動に駆られた自分が怖い。私は白い結婚に不満はないと思っていたのに、いつの間にかレオンとの関係を“他人から否定されたくない”と感じるようになっている。
……胸がちくりと痛む。
(それでも、私たちは形式上の夫婦。本気の愛なんて必要ない。……必要ない、はず、なのに)
自分に言い聞かせるように、ぎゅっと拳を握る。
そして控え室を出て、舞踏会のフロアへ戻った。カトリーヌの言葉が耳にこびりついて離れなかったけれど、今は人前で取り繕うしかない。
さまざまな挨拶を受け流し、少し疲れた私は、会場の隅に用意された控え室で一息入れていた。
レオンは仕事上の知人に挨拶をするとのことで離れている。私は軽く紅茶を飲みながら、ゆっくり体を休めていたのだが……。
突然、控え室の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
彼女はきらびやかなフリルのドレスを纏い、豊かな金髪を上品にまとめた美しい伯爵令嬢——カトリーヌ・ヴェルナール。
彼女は私を見るなり、目を細めて不思議な笑みを浮かべた。
「まあ、あなたがグランツ公爵夫人……エマール・グランツ様、ですわね?」
「ええ、そうですが。あなたは……?」
「カトリーヌ・ヴェルナールと申します。実は以前、わたくし……レオン様との縁談が噂された時期がありまして。こうしてお目にかかるのは初めてですわね」
縁談? レオンの元・婚約者候補ということだろうか。
初耳だったが、名門の公爵なら一度や二度の縁談があっても不思議ではない。たまたま話が流れて、私との結婚につながったのかもしれない。
けれどカトリーヌの口調は、どこか挑発的だ。
「……そうだったのですね。存じ上げませんでした。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「いいえ、今さら無粋なことは申しませんわ。ただ、少し興味があって。あなたとレオン様が“白い結婚”だと聞いたものですから」
出た、“白い結婚”という言葉。
私は苦笑気味にそれを受け止める。ここで否定しても仕方ないし、実際そういう条件で結婚したのだ。
「ええ、まあ、形式的にはそのように。特に問題もありませんし、むしろ気楽で助かってますわ」
そう答えると、カトリーヌはまるで私を嘲笑うように唇を歪めた。
「本当にそうかしら? レオン様は昔から自分の興味のない相手にはとことん冷たいのよ。あなた、寂しくないの?」
「……それは私とレオン様の問題です。お気遣いどうも」
やんわりと切り返すと、彼女は肩をすくめる。
「ま、あなたがそれで満足ならいいのだけど。私なら、形だけの結婚なんてごめんですわ。どうせなら本当に愛されたいもの。……お気の毒」
言いたい放題である。しかし、ここで感情をむき出しにしたら私の負けだ。私は笑顔を崩さずに応じる。
「お気遣いなく。わたくしは十分に幸せですので」
つとめて涼しい顔でそう告げると、カトリーヌは「まあ、そう」と鼻で笑って控え室を出て行った。
残された私は、微妙に胸がざわついている。
愛がない、冷たくされている——確かに第三者から見ればそう思うだろう。でも、実際のレオンは“全くの無関心”ではなく、むしろあれこれと気を配ってくれる場面が多い。
——あれは、少なくとも“冷たくあしらっている”のとは違うはず。
それを証明したい衝動に駆られた自分が怖い。私は白い結婚に不満はないと思っていたのに、いつの間にかレオンとの関係を“他人から否定されたくない”と感じるようになっている。
……胸がちくりと痛む。
(それでも、私たちは形式上の夫婦。本気の愛なんて必要ない。……必要ない、はず、なのに)
自分に言い聞かせるように、ぎゅっと拳を握る。
そして控え室を出て、舞踏会のフロアへ戻った。カトリーヌの言葉が耳にこびりついて離れなかったけれど、今は人前で取り繕うしかない。
0
あなたにおすすめの小説
9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。
結婚だってそうだった。
良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。
夫の9番目の妻だと知るまでは――
「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」
嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。
※最後はさくっと終わっております。
※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
ただ誰かにとって必要な存在になりたかった
風見ゆうみ
恋愛
19歳になった伯爵令嬢の私、ラノア・ナンルーは同じく伯爵家の当主ビューホ・トライトと結婚した。
その日の夜、ビューホ様はこう言った。
「俺には小さい頃から思い合っている平民のフィナという人がいる。俺とフィナの間に君が入る隙はない。彼女の事は母上も気に入っているんだ。だから君はお飾りの妻だ。特に何もしなくていい。それから、フィナを君の侍女にするから」
家族に疎まれて育った私には、酷い仕打ちを受けるのは当たり前になりすぎていて、どう反応する事が正しいのかわからなかった。
結婚した初日から私は自分が望んでいた様な妻ではなく、お飾りの妻になった。
お飾りの妻でいい。
私を必要としてくれるなら…。
一度はそう思った私だったけれど、とあるきっかけで、公爵令息と知り合う事になり、状況は一変!
こんな人に必要とされても意味がないと感じた私は離縁を決意する。
※「ただ誰かに必要とされたかった」から、タイトルを変更致しました。
※クズが多いです。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
戦いの終わりに
トモ
恋愛
マーガレットは6人家族の長女13歳。長く続いた戦乱がもうすぐ終わる。そんなある日、複数のヒガサ人、敵兵士が家に押し入る。
父、兄は戦いに出ているが、もうすぐ帰還の連絡があったところなのに。
家には、母と幼い2人の妹達。
もうすぐ帰ってくるのに。なぜこのタイミングで…
そしてマーガレットの心には深い傷が残る
マーガレットは幸せになれるのか
(国名は創作です)
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる