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27話
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悲壮な再会と、レオンの不在
翌日、ユリウスは私の招きに応じて早朝にやってきた。
とはいえ、今のグランツ公爵邸には妙な緊張感が漂っている。なぜなら、レオンが今まさに外出しているからだ。おそらく王宮のほうへ用事で出かけているらしいが、何時に戻るか分からない。
私は使用人たちを少し離れさせ、離れの小さな応接室でユリウスを出迎えることにした。もしレオンが戻ってくるのと鉢合わせになれば、また先日のように修羅場になるかもしれない。でも、噂が広まっている今、早急に話をする必要があった。
ユリウスは少しやつれた顔をしていた。あの柔和な笑みは影を潜め、憔悴したような瞳で私を見つめる。
「奥様……このたびはご迷惑をおかけして、申し訳ありません。私が軽率に出入りしてしまったばかりに、変な噂が立っているようで」
「いいえ、悪いのは私です。レオン様にも事前に伝えておけば、あなたがあんな目に遭わずに済んだのに……。それどころか、今は愛人疑惑なんて噂まで」
そう言うと、ユリウスは小さく首を振った。
「私としては、奥様に頼られることが嬉しかったので、噂など本来なら気にしないのですが……。実は、最近になって私の商売相手から契約を打ち切られる事態が続出しているんです。『公爵家に目をつけられては困る』と言われて」
「え……」
思わず絶句する。
カトリーヌの取り巻きが、ユリウスとの関係を怪しむ噂を広めているだけでなく、彼に商売上の圧力をかけているのかもしれない。
“公爵家”に目をつけられる、という言い方は本来なら逆だ。むしろ公爵家と繋がりがあるほうが商売には有利なはず。だけど、「公爵様が商人の青年を罵倒し、夫人に近づくなと言った」などという悪いイメージが流れた結果、「この青年は公爵家から睨まれている」と思われてしまったのかもしれない。
「……そんな、ひどい。あなたに非はないのに」
「でも、実際に公爵様の逆鱗に触れたのは事実ですから。周りからすれば、自分たちまで巻き添えになりたくないと考えるのでしょう」
ユリウスの声には苦々しさがにじむ。そして、その視線が不意に私の瞳を捉えた。
「奥様は、どうなさるおつもりですか? 私と取引するのをやめて、“白い結婚”を無難に続けるのが一番安全なのでは?」
その問いに、胸が鋭く痛む。ユリウスの言うとおりだ。
私が手芸用の取引を諦めてしまえば、レオンと衝突する理由も減るし、周囲の噂を煽る火種も消える。それこそ“愛のない夫婦”として淡々と暮らせば、公爵夫人としての体面は守られるかもしれない。
でも、それは……私の望む道ではない。
ずっと、何かを作り出すことが好きだった。自分の手でレースやリボンをアレンジし、かわいい装飾品を生み出し、それを喜んでくれる人たちがいる——それが、私の生きがいだった。
それを、レオンや周囲の誤解のせいで諦めたくない。
私は唇を結び、強い意志を込めて答える。
「いえ、やめません。私は、私の好きなことを続けたい。あなたにも、今まで通りお力を貸してもらいたいです」
「……ですが、公爵様の怒りを買ってしまうかもしれません」
「それでもいい。彼が怒っている理由がただの“体面”なのか、“嫉妬”なのか、どちらか分からないけれど……私は自分の意思を捨てたくありません。あなたにばかり迷惑をかけてしまうのは心苦しいけれど……」
言葉が詰まる。
ユリウスは短く息をつき、困ったように笑った。
「……本当に、奥様は不思議な方ですね。私たちのような商人に対しても分け隔てなく接してくださる。私はそこに助けられたんです。それを裏切るわけにはいきません」
「ユリウスさん……」
「今後も、お力になれるように努力します。ただし、今は私も周囲から警戒されている立場なので、少し活動が制限されるかもしれませんが」
「構いません。できる範囲で続けてください」
二人で視線を合わせ、ささやかに微笑み合う。
しかし、それはちょうどそのタイミングだった。
——扉が乱暴に開かれ、鋭い足音が近づいてくる。
「……エマール、何をしている?」
低く冷たい声に、思わず背筋が凍る。
私とユリウスが一斉に振り向くと、そこには予想どおりの姿——レオン・グランツ。彼は少し息を荒らげながら、まるで修羅のごとき形相でこちらを睨んでいた。
翌日、ユリウスは私の招きに応じて早朝にやってきた。
とはいえ、今のグランツ公爵邸には妙な緊張感が漂っている。なぜなら、レオンが今まさに外出しているからだ。おそらく王宮のほうへ用事で出かけているらしいが、何時に戻るか分からない。
私は使用人たちを少し離れさせ、離れの小さな応接室でユリウスを出迎えることにした。もしレオンが戻ってくるのと鉢合わせになれば、また先日のように修羅場になるかもしれない。でも、噂が広まっている今、早急に話をする必要があった。
ユリウスは少しやつれた顔をしていた。あの柔和な笑みは影を潜め、憔悴したような瞳で私を見つめる。
「奥様……このたびはご迷惑をおかけして、申し訳ありません。私が軽率に出入りしてしまったばかりに、変な噂が立っているようで」
「いいえ、悪いのは私です。レオン様にも事前に伝えておけば、あなたがあんな目に遭わずに済んだのに……。それどころか、今は愛人疑惑なんて噂まで」
そう言うと、ユリウスは小さく首を振った。
「私としては、奥様に頼られることが嬉しかったので、噂など本来なら気にしないのですが……。実は、最近になって私の商売相手から契約を打ち切られる事態が続出しているんです。『公爵家に目をつけられては困る』と言われて」
「え……」
思わず絶句する。
カトリーヌの取り巻きが、ユリウスとの関係を怪しむ噂を広めているだけでなく、彼に商売上の圧力をかけているのかもしれない。
“公爵家”に目をつけられる、という言い方は本来なら逆だ。むしろ公爵家と繋がりがあるほうが商売には有利なはず。だけど、「公爵様が商人の青年を罵倒し、夫人に近づくなと言った」などという悪いイメージが流れた結果、「この青年は公爵家から睨まれている」と思われてしまったのかもしれない。
「……そんな、ひどい。あなたに非はないのに」
「でも、実際に公爵様の逆鱗に触れたのは事実ですから。周りからすれば、自分たちまで巻き添えになりたくないと考えるのでしょう」
ユリウスの声には苦々しさがにじむ。そして、その視線が不意に私の瞳を捉えた。
「奥様は、どうなさるおつもりですか? 私と取引するのをやめて、“白い結婚”を無難に続けるのが一番安全なのでは?」
その問いに、胸が鋭く痛む。ユリウスの言うとおりだ。
私が手芸用の取引を諦めてしまえば、レオンと衝突する理由も減るし、周囲の噂を煽る火種も消える。それこそ“愛のない夫婦”として淡々と暮らせば、公爵夫人としての体面は守られるかもしれない。
でも、それは……私の望む道ではない。
ずっと、何かを作り出すことが好きだった。自分の手でレースやリボンをアレンジし、かわいい装飾品を生み出し、それを喜んでくれる人たちがいる——それが、私の生きがいだった。
それを、レオンや周囲の誤解のせいで諦めたくない。
私は唇を結び、強い意志を込めて答える。
「いえ、やめません。私は、私の好きなことを続けたい。あなたにも、今まで通りお力を貸してもらいたいです」
「……ですが、公爵様の怒りを買ってしまうかもしれません」
「それでもいい。彼が怒っている理由がただの“体面”なのか、“嫉妬”なのか、どちらか分からないけれど……私は自分の意思を捨てたくありません。あなたにばかり迷惑をかけてしまうのは心苦しいけれど……」
言葉が詰まる。
ユリウスは短く息をつき、困ったように笑った。
「……本当に、奥様は不思議な方ですね。私たちのような商人に対しても分け隔てなく接してくださる。私はそこに助けられたんです。それを裏切るわけにはいきません」
「ユリウスさん……」
「今後も、お力になれるように努力します。ただし、今は私も周囲から警戒されている立場なので、少し活動が制限されるかもしれませんが」
「構いません。できる範囲で続けてください」
二人で視線を合わせ、ささやかに微笑み合う。
しかし、それはちょうどそのタイミングだった。
——扉が乱暴に開かれ、鋭い足音が近づいてくる。
「……エマール、何をしている?」
低く冷たい声に、思わず背筋が凍る。
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