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第3話 最後の忠告
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第3話 最後の忠告
王宮の朝は、今日も騒がしかった。
宰相府の執務室には、朝から官僚たちが集まっている。
机の上には書類の山。
外交文書。
会計報告。
地方貴族からの陳情。
そして、その山の一角に――
また別の書類が積まれていた。
慰謝料契約書。
養育費取り決め。
口止め契約。
レティシア・アルヴェーンは、それを一枚ずつ確認していた。
官僚の一人が言う。
「宰相閣下」
「この件、王都南区の貴族家がかなり怒っております」
レティシアは書類から目を離さない。
「当然です」
「令嬢の名誉に関わる問題ですもの」
官僚は小声で続ける。
「ですが……」
「相手は王太子殿下です」
レティシアは淡々と言う。
「だからこそ」
「丁寧に処理しなければなりません」
別の官僚がため息をついた。
「今年だけで」
「何件目でしょう」
レティシアは一瞬だけ手を止めた。
「数えるのはやめましょう」
静かな声だった。
その時、扉が開いた。
「宰相」
金髪の青年。
王太子ユリウス・ヴァルディエールだった。
官僚たちは一斉に立ち上がる。
レティシアも立ち上がり、一礼した。
「王太子殿下」
ユリウスは机の上の書類をちらりと見た。
そして顔をしかめる。
「また書類か」
レティシアは静かに答える。
「殿下の問題です」
ユリウスは椅子に腰を下ろした。
「教会の件はどうなった」
「解決しました」
ユリウスは興味なさそうに言う。
「そうか」
そして笑った。
「さすがだな」
感謝ではない。
当然だろう、という口調だった。
ユリウスは机の書類を手に取る。
「しかし」
「お前は本当に細かい」
書類をぱらぱらめくる。
「慰謝料」
「口止め」
「支援金」
ユリウスは肩をすくめた。
「こんなことを気にしていたら、王族などやっていられん」
レティシアは静かに言った。
「殿下」
「王宮の予算も有限です」
ユリウスは眉をひそめる。
「は?」
レティシアは机の書類を示した。
「これらはすべて」
「殿下の後始末です」
慰謝料。
賠償金。
補償金。
レティシアは続ける。
「貴族家との関係調整」
「教会との交渉」
「王宮の財政」
ユリウスは鼻で笑った。
「そんなもの」
「宰相の仕事だろう」
レティシアは少しだけ沈黙した。
そして言った。
「殿下」
「せめて」
ユリウスが顔を上げる。
レティシアは淡々と言った。
「避妊をお考えください」
完全な沈黙。
官僚たちは一斉に視線を逸らした。
ユリウスの顔が歪む。
「……お前」
「婚約者に向かって何を言っている」
レティシアは表情を変えない。
「事実です」
ユリウスは机を叩いた。
「俺は王太子だ!」
「女の一人や二人で騒ぐな!」
レティシアは静かに言う。
「一人や二人ではありません」
再び沈黙。
官僚の一人が咳払いをした。
ユリウスは苛立ったように立ち上がる。
「くだらん」
「書類ばかりの女め」
扉へ向かいながら言う。
「お前は本当に」
「細かい」
そして吐き捨てた。
「宰相というより」
「書記官だな」
扉が閉まる。
静かな執務室。
官僚の一人がぽつりと言った。
「……宰相閣下」
「よろしいのですか」
レティシアは書類を見ていた。
そして羽根ペンを取る。
「問題ありません」
淡々と署名する。
「仕事ですから」
だが、その言葉の奥にあるものを。
この時、誰も知らなかった。
それは。
王太子への――
最後の忠告だった。
王宮の朝は、今日も騒がしかった。
宰相府の執務室には、朝から官僚たちが集まっている。
机の上には書類の山。
外交文書。
会計報告。
地方貴族からの陳情。
そして、その山の一角に――
また別の書類が積まれていた。
慰謝料契約書。
養育費取り決め。
口止め契約。
レティシア・アルヴェーンは、それを一枚ずつ確認していた。
官僚の一人が言う。
「宰相閣下」
「この件、王都南区の貴族家がかなり怒っております」
レティシアは書類から目を離さない。
「当然です」
「令嬢の名誉に関わる問題ですもの」
官僚は小声で続ける。
「ですが……」
「相手は王太子殿下です」
レティシアは淡々と言う。
「だからこそ」
「丁寧に処理しなければなりません」
別の官僚がため息をついた。
「今年だけで」
「何件目でしょう」
レティシアは一瞬だけ手を止めた。
「数えるのはやめましょう」
静かな声だった。
その時、扉が開いた。
「宰相」
金髪の青年。
王太子ユリウス・ヴァルディエールだった。
官僚たちは一斉に立ち上がる。
レティシアも立ち上がり、一礼した。
「王太子殿下」
ユリウスは机の上の書類をちらりと見た。
そして顔をしかめる。
「また書類か」
レティシアは静かに答える。
「殿下の問題です」
ユリウスは椅子に腰を下ろした。
「教会の件はどうなった」
「解決しました」
ユリウスは興味なさそうに言う。
「そうか」
そして笑った。
「さすがだな」
感謝ではない。
当然だろう、という口調だった。
ユリウスは机の書類を手に取る。
「しかし」
「お前は本当に細かい」
書類をぱらぱらめくる。
「慰謝料」
「口止め」
「支援金」
ユリウスは肩をすくめた。
「こんなことを気にしていたら、王族などやっていられん」
レティシアは静かに言った。
「殿下」
「王宮の予算も有限です」
ユリウスは眉をひそめる。
「は?」
レティシアは机の書類を示した。
「これらはすべて」
「殿下の後始末です」
慰謝料。
賠償金。
補償金。
レティシアは続ける。
「貴族家との関係調整」
「教会との交渉」
「王宮の財政」
ユリウスは鼻で笑った。
「そんなもの」
「宰相の仕事だろう」
レティシアは少しだけ沈黙した。
そして言った。
「殿下」
「せめて」
ユリウスが顔を上げる。
レティシアは淡々と言った。
「避妊をお考えください」
完全な沈黙。
官僚たちは一斉に視線を逸らした。
ユリウスの顔が歪む。
「……お前」
「婚約者に向かって何を言っている」
レティシアは表情を変えない。
「事実です」
ユリウスは机を叩いた。
「俺は王太子だ!」
「女の一人や二人で騒ぐな!」
レティシアは静かに言う。
「一人や二人ではありません」
再び沈黙。
官僚の一人が咳払いをした。
ユリウスは苛立ったように立ち上がる。
「くだらん」
「書類ばかりの女め」
扉へ向かいながら言う。
「お前は本当に」
「細かい」
そして吐き捨てた。
「宰相というより」
「書記官だな」
扉が閉まる。
静かな執務室。
官僚の一人がぽつりと言った。
「……宰相閣下」
「よろしいのですか」
レティシアは書類を見ていた。
そして羽根ペンを取る。
「問題ありません」
淡々と署名する。
「仕事ですから」
だが、その言葉の奥にあるものを。
この時、誰も知らなかった。
それは。
王太子への――
最後の忠告だった。
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