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第11話 起こしに来ない朝
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第11話 起こしに来ない朝
翌朝。
王宮は静かだった。
いつもなら、日の出とともに王宮は動き始める。
侍従が廊下を歩き。
侍女が水を運び。
厨房では朝食の準備が始まり。
書記官たちが書類を運ぶ。
だがその朝。
王宮は――
妙に静かだった。
王太子の私室。
分厚いカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。
ベッドの上で、ユリウス・ヴァルディエールはまだ眠っていた。
しばらくして、彼はゆっくり目を開ける。
ぼんやりと天井を見た。
そして眉をひそめる。
「……」
いつもなら。
とっくに侍従が来ている時間だった。
起床の時間。
着替えの準備。
朝食の案内。
だが今日は――
誰も来ない。
ユリウスはベッドの上で言った。
「おい」
返事はない。
ユリウスはもう少し大きな声で言う。
「侍従」
沈黙。
部屋は静かだった。
ユリウスは苛立った。
「遅い」
時計を見る。
すでにかなり遅い時間だ。
「まったく」
ベッドから起き上がる。
「昨日は宴だったのだぞ」
「王太子を起こしに来ないとは」
ユリウスは苛立ちながら扉を開けた。
廊下に出る。
誰もいない。
ユリウスは顔をしかめる。
「……?」
もう一度言う。
「侍従!」
返事はない。
回廊は静まり返っていた。
ユリウスは歩き出す。
数歩進んで、ようやく一人の騎士を見つけた。
警備の騎士だった。
ユリウスは言う。
「おい」
騎士は驚いて敬礼した。
「王太子殿下!」
ユリウスは苛立って言う。
「侍従はどうした」
騎士は困った顔をする。
「侍従……でございますか?」
「そうだ」
「起床の時間だろう」
騎士は少し考えて言った。
「本日」
「見かけておりません」
ユリウスは眉をひそめる。
「は?」
騎士は言う。
「今朝は」
「王宮の侍従をほとんど見ておりません」
ユリウスは笑った。
「馬鹿な」
「そんなことあるはずがない」
王宮には何百人もの使用人がいる。
侍従。
侍女。
メイド。
一人二人いなくても問題ない。
ユリウスは言った。
「他を探せ」
騎士は頭を下げた。
「はっ」
騎士が走り去る。
ユリウスは廊下に立ったままだった。
王宮は広い。
広すぎるほど広い。
そして――
静かだった。
遠くで、別の騎士の声が聞こえる。
「おい!」
「誰かいないのか!」
しかし返事はない。
ユリウスは不機嫌そうに言った。
「……まったく」
「昨日の宴で怠けているのか」
その時。
遠くの回廊で、騎士が戻ってきた。
息を切らしている。
「殿下!」
「どうした」
騎士は言った。
「侍従が……」
「見当たりません」
ユリウスは顔をしかめた。
「何?」
騎士は続ける。
「メイドも」
「執事も」
「侍女も」
一呼吸。
「……ほとんど見当たりません」
沈黙。
ユリウスは苛立った声を出した。
「そんなはずがあるか」
騎士は言う。
「現在、確認中です」
ユリウスは舌打ちした。
「くだらん」
そして言った。
「とりあえず朝食だ」
騎士は戸惑った。
「朝食……でございますか」
ユリウスは当然のように言う。
「そうだ」
「腹が減った」
騎士は小さく言った。
「厨房が……」
ユリウスは眉をひそめる。
「厨房が?」
騎士は答えた。
「……動いておりません」
その言葉の意味を。
この時、ユリウスはまだ理解していなかった。
王宮は今。
静かに。
しかし確実に――
止まり始めていた。
翌朝。
王宮は静かだった。
いつもなら、日の出とともに王宮は動き始める。
侍従が廊下を歩き。
侍女が水を運び。
厨房では朝食の準備が始まり。
書記官たちが書類を運ぶ。
だがその朝。
王宮は――
妙に静かだった。
王太子の私室。
分厚いカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。
ベッドの上で、ユリウス・ヴァルディエールはまだ眠っていた。
しばらくして、彼はゆっくり目を開ける。
ぼんやりと天井を見た。
そして眉をひそめる。
「……」
いつもなら。
とっくに侍従が来ている時間だった。
起床の時間。
着替えの準備。
朝食の案内。
だが今日は――
誰も来ない。
ユリウスはベッドの上で言った。
「おい」
返事はない。
ユリウスはもう少し大きな声で言う。
「侍従」
沈黙。
部屋は静かだった。
ユリウスは苛立った。
「遅い」
時計を見る。
すでにかなり遅い時間だ。
「まったく」
ベッドから起き上がる。
「昨日は宴だったのだぞ」
「王太子を起こしに来ないとは」
ユリウスは苛立ちながら扉を開けた。
廊下に出る。
誰もいない。
ユリウスは顔をしかめる。
「……?」
もう一度言う。
「侍従!」
返事はない。
回廊は静まり返っていた。
ユリウスは歩き出す。
数歩進んで、ようやく一人の騎士を見つけた。
警備の騎士だった。
ユリウスは言う。
「おい」
騎士は驚いて敬礼した。
「王太子殿下!」
ユリウスは苛立って言う。
「侍従はどうした」
騎士は困った顔をする。
「侍従……でございますか?」
「そうだ」
「起床の時間だろう」
騎士は少し考えて言った。
「本日」
「見かけておりません」
ユリウスは眉をひそめる。
「は?」
騎士は言う。
「今朝は」
「王宮の侍従をほとんど見ておりません」
ユリウスは笑った。
「馬鹿な」
「そんなことあるはずがない」
王宮には何百人もの使用人がいる。
侍従。
侍女。
メイド。
一人二人いなくても問題ない。
ユリウスは言った。
「他を探せ」
騎士は頭を下げた。
「はっ」
騎士が走り去る。
ユリウスは廊下に立ったままだった。
王宮は広い。
広すぎるほど広い。
そして――
静かだった。
遠くで、別の騎士の声が聞こえる。
「おい!」
「誰かいないのか!」
しかし返事はない。
ユリウスは不機嫌そうに言った。
「……まったく」
「昨日の宴で怠けているのか」
その時。
遠くの回廊で、騎士が戻ってきた。
息を切らしている。
「殿下!」
「どうした」
騎士は言った。
「侍従が……」
「見当たりません」
ユリウスは顔をしかめた。
「何?」
騎士は続ける。
「メイドも」
「執事も」
「侍女も」
一呼吸。
「……ほとんど見当たりません」
沈黙。
ユリウスは苛立った声を出した。
「そんなはずがあるか」
騎士は言う。
「現在、確認中です」
ユリウスは舌打ちした。
「くだらん」
そして言った。
「とりあえず朝食だ」
騎士は戸惑った。
「朝食……でございますか」
ユリウスは当然のように言う。
「そうだ」
「腹が減った」
騎士は小さく言った。
「厨房が……」
ユリウスは眉をひそめる。
「厨房が?」
騎士は答えた。
「……動いておりません」
その言葉の意味を。
この時、ユリウスはまだ理解していなかった。
王宮は今。
静かに。
しかし確実に――
止まり始めていた。
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