婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚

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第2章:陰謀の序曲と公爵令嬢の決意

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 一方その頃、王宮の一角では、ライオネル・グラントが密かに笑みを浮かべていた。王宮の庭園に面した小さなサロンのような部屋――そこには、重厚なカーテンが閉ざされ、時折ランプの灯りが微かな光を投げかける程度である。朝の時間帯にもかかわらず閉め切られた空間は、どこか陰鬱でありながら、蠱惑的な雰囲気を醸し出している。

 彼の傍らには、例のアメリア・フォン・ローゼリック伯爵令嬢がいた。水色のドレスから一転、今日は紫を基調とした艶やかなドレスを身にまとっている。その豊満な胸元や滑らかな肩のラインは、男を挑発するかのように大胆に露出しており、香り高い香水がほのかに漂っていた。

「ライオネル様。昨日のあの場での宣言、なかなか胸がすく思いでしたわ。まさか、あれほどあっさりとシルフィーネ令嬢が受け入れるとは思いませんでしたけど」

 アメリアは、妖艶な笑みを浮かべながら言う。しかし、その声には微かな苛立ちも混じっていた。おそらく、シルフィーネがもっと取り乱して恥をかく様子を期待していたのだろう。ところが、彼女は驚くほど冷静に対応し、エルフィンベルク家を貶める隙をあまり与えなかった。

「そうだな。俺としては、もう少し大騒ぎになって“あいつが幼稚で感情的だ”と周囲に印象付けられればベストだったが……とはいえ、これで公の場での婚約破棄は成立したも同然だ。あとは、王家に働きかけて“シルフィーネの方が悪い”という既成事実を作ればいい。そうすれば、エルフィンベルク家も大きくは動けないだろう」

 ライオネルは気怠げにソファに身を預け、手にしたワイングラスを軽く傾ける。アメリアは隣に腰掛けると、その首筋に手を回し、甘えた仕草で寄り添った。

「王家の判断を仰ぐ形にしてしまえば、公爵家といえども逆らいにくい……。貴方の言う通り、これで勝負は私たちのものですわ。エルフィンベルク家は伝統ある名家だけど、いくらなんでも“王族の甥”であるライオネル様に刃向かうのは難しいはず。……それにしても、あのかわいらしいお人形さんみたいな娘が、あなたの邪魔になるなんて笑止千万。やっぱり貴方には、この私のような“大人の魅力”が必要ですものね」

「はは、そうだな」

 言いながらも、ライオネルの瞳には微妙な影が差していた。外見は確かにアメリアの方が成熟しており、いわゆる“女としての魅力”を大いに感じさせる。だが、シルフィーネにはまた別種の魅力があるのも事実だ。かつては“あの子がいつか大輪の花を咲かせるだろう”と期待していた自分を思い出し、少し胸がざわつく。

(とはいえ、今さら戻るつもりはない。エルフィンベルク公爵家の権勢を利用しようと考えていたが、あいつが大きくなる前にこっちが先に動いただけだ。どのみち、昔の俺が言った甘い言葉など、すでに捨て去ったものだ)

 ライオネルはそう自分に言い聞かせると、アメリアの顔を覗き込む。彼女の目は欲望に満ちており、まるで虎視眈々とライオネルとその地位を手に入れようとする野心が感じられた。ローゼリック伯爵家の借金を返済するためには、グラント侯爵家や王家の力を利用しなければならない。彼女は今、まさにそのチャンスを手に入れたのだ。

「もっとも、エルフィンベルク家は黙ってはいないかもしれないが……まあ、その点は心配ない。伯父上――つまり、国王陛下の弟であるロドリゲス公爵が“うまく動いてくれる”ことになっている。俺のためなら、多少のことは目を瞑ってくれるだろうよ」

「まあ、心強いですわ。ライオネル様は王族の血筋とはいえ、どうやら現在の国王陛下とはそこまで親密でもないと聞きましたけど……ロドリゲス公爵が味方してくれるなら大丈夫ね」

「ああ、俺は国王陛下と直接にはそれほど親しくないが、その弟君であるロドリゲス公爵との繋がりはある。ロドリゲス公爵は、兄王が亡くなった後を狙って色々と画策しているらしいが、俺はそこに加担しているわけではない。ただ、“親族同士の助力”という名目で手を貸してもらうだけさ」

 そう言ってライオネルは含み笑いをする。アメリアは楽しげに微笑みながら、ライオネルの胸元に頬を寄せた。二人の視線が絡み合い、何やら妖しげな企みが進んでいるかのようにも見える。

 (グラント侯爵家はこうして王族の影響力を使い、公爵家を貶めようとしている……。彼らに正義などない。ただ、自らの欲望と利害に従って行動しているだけ――)

 エルフィンベルク公爵家にとって、この脅威を跳ね返すのは容易ではないだろう。しかし、シルフィーネもまた、自分の矜持と家名を守るために闘う決意を固めた。そうとも知らず、ライオネルとアメリアは“政略”や“金銭”の話を続け、薄暗いサロンで不気味な笑みを交わしていた。
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