婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚

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8章

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 夜の帳が降り始めた頃、エルフィンベルク家の馬車が王宮へ向けて出立した。ルドルフ公爵とマリア夫人、そしてシルフィーネが揃って夜会に参加する。護衛の兵や侍女たちも同行し、もしもの時の対応ができる体制を敷いている。以前の事件――アメリアに階段から突き落とされた惨劇を、もう二度と繰り返さないために。



 王宮は大勢の貴族や要人で埋め尽くされ、煌(きら)びやかな照明が廊下や広間を照らしていた。各国からの外交使節も参列し、談笑や取引の話があちこちで飛び交っている。豪奢な服装に身を包んだ客たちは、じきに始まる“王太子からの重大な発表”を待ちわびているようでもある。――何を隠そう、この夜会はエドワルドが主催し、“国際交流の場”と銘打ちながら、実質的には“自身の婚約発表”を行う場として用意されたのだ。



「シルフィーネ、頑張ってきなさい。もし何かあれば、必ず私たちに頼るのよ」



 会場入り口で、マリア夫人が娘にそっと囁く。その言葉にシルフィーネは小さく頷き、胸の奥に湧き上がる鼓動を抑えながら、広間の中へ足を踏み入れた。

 すぐにエドワルド王太子の姿が目に飛び込む。彼は深い紺色のタキシードに身を包み、その端正な容姿が人混みの中でも際立っている。周囲の貴族たちが羨望の眼差しで彼を見る中、エドワルドはシルフィーネに気づくと、優雅な足取りで真っ直ぐに近づいてきた。



「シルフィーネ。待っていましたよ」



 短い言葉に込められた想いが、まるで“もう自分の婚約者”だと言わんばかりだ。人目を憚(はばか)ることなく、その瞳には熱が宿っている。

 周囲の客たちが“噂の公爵令嬢”を一斉に見つめ、ひそひそと囁く声が広がる。中には「なんて美しい……」と賞賛する声もあれば、「本当に体調は大丈夫なのか?」「病弱だという話を聞いたが……」といった心ない言葉も混じっている。しかし、シルフィーネはエドワルドの隣に立つと決めているからこそ、ここで怯むわけにはいかない。



「王太子閣下……どうか、今夜はよろしくお願いします」



「ええ、私の方こそ。……あなたの歩幅に合わせて、無理なく進められるよう心がけます。もし体調が悪くなったら、すぐに言ってください」



 エドワルドのさりげない気遣いが、シルフィーネをさらに勇気づける。寄せられる視線にはどんな敵意が混じっていても、彼が味方でいてくれる限り大丈夫――そう思えるのだ。

 彼女は軽くエドワルドの腕を取り、肩を並べて会場の中央へ向かう。今日の夜会は、しばらく社交の時間が続き、その後、王太子が正式なスピーチを行う段取りになっている。そこで“婚約宣言”を行うわけだ。

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