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8章
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しおりを挟む拍手が落ち着き、夜会は祝宴のモードに切り替わる。シルフィーネとエドワルドは貴族たちから祝福の言葉を受け、一部の者は渋々ながらも口先だけは「おめでとう」と言うしかない状況だ。そんな中、彼女の目には“あの給仕”の姿が見えなくなっていたが、気にする暇はなかった。
(あの毒入りのグラスは失敗に終わったのね。きっと護衛や周囲の警戒もあって、もう手を出せないはず)
実際、その男は王宮の廊下で衛兵に怪しまれ、取り押さえられそうになって逃げたと後で判明する。まだ誰が黒幕かまでは突き止められていないが、当面は大きな動きはできまい。ライオネル派やロドリゲス公爵派の残党が狙っていた妨害は、結局失敗に終わった格好だ。
(ざまぁ……)
シルフィーネは心の中でそう呟く。かつて意識不明にさせられ、アメリアによって命の危機に瀕(ひん)した自分が、いまや王太子から溺愛され、堂々と婚約を発表する立場に立っている。アンチたちにとっては“痛恨の事態”だろうが、彼女にしてみれば“ざまぁ”以外の言葉が見つからない。
夜会の終盤、エドワルド王太子はシルフィーネとともに舞踏を披露する。ワルツの曲が鳴り、二人が華麗に踊る姿に、会場からは感嘆の声が上がる。彼女の動きは完全とは言えないが、エドワルドが巧みにリードし、身体を支えているおかげでまるで欠点など見えない。むしろ、愛し合う二人の優雅な舞いとして、観客たちを魅了していた。
「大丈夫? 息が辛くない?」
「うん、少し疲れたけれど……とても幸せ……」
シルフィーネは笑みを浮かべ、エドワルドの肩にそっと寄りかかる。彼は腕の力をわずかに強め、演奏が終わったタイミングで彼女をそっと包み込んだ。人々の前で大胆な所作ではあるが、もうとやかく言われることはない。むしろ「なんてロマンチックなんだ」と拍手が湧き起こる。
こうして、壮大な夜会は“ハッピーエンド”の空気のまま幕を閉じた。シルフィーネとエドワルドの婚約は正式に宣言され、周囲もそれを祝福する。噂の残党が動こうにも、王太子の後ろ盾と公爵家の警戒態勢でどうにもならない。
かつて彼女を辱め、踏みにじろうとした者たちこそ、ひっそりと影の中へ退散するしかない。ある者は「いずれ隙ができる」と思っているかもしれないが、今はとても手出しできない。結果的に“ざまぁ”を味わうのは彼らに違いなかった。
幕引きと、新たな地平へ
夜会が終わり、控え室でドレスを着替え終えたシルフィーネは、部屋の窓から夜空を眺めていた。少し前まで、この場所に立つと不安ばかりが先立っていたが、今は心地よい達成感がある。身体に疲労は残るけれども、心が満たされているのをはっきり感じるからだ。
(本当に……私、幸せになっていいのかな。ライオネルの時は散々だったのに、こんなにも優しい人に溺愛されるなんて……)
エドワルドは今後、いくつかの公務を済ませた後、ノルディア王国へ一時帰国するという。シルフィーネも体調が落ち着き次第、彼に伴ってノルディアへ向かうことになる予定だ。結婚式をどちらの国で挙げるかはまだ議論中だが、婚約者として正式にお披露目された以上、もう後戻りはない。
まさに“政略結婚から始まる溺愛恋愛ざまぁ”の結末――そこでは、かつての悪意に満ちた裏切りや陰謀がすべて空回りし、シルフィーネが心からの祝福を受ける立場へと昇華したのだ。
廊下から足音が聞こえ、ドアがノックされる。「お嬢様、そろそろ馬車の準備が整いました」
案内に従って外へ出ると、エドワルドがまだ待ってくれていた。すでに大半の客は帰路につき、王宮は少し静けさを取り戻している。
「……シルフィーネ、今日は本当にお疲れ様。無理をさせてしまったけれど、どうかゆっくり休んでくださいね」
「閣下こそ、お疲れさまでした。……私、幸せです。ありがとう」
自然と微笑み合い、手を取り合う。周囲には騎士や従者がいるが、もう気にすることもない。むしろ“王太子と公爵令嬢”という枠を越え、愛し合う二人の姿がそこにあった。
この夜を境に、シルフィーネの人生は大きく変わる。かつての呪縛を断ち切り、新たな地平へ――ノルディア王国での結婚生活が待っている。そこでも障害はあるかもしれないが、今の彼女には乗り越えるだけの覚悟と力、そして“王太子の溺愛”という強力な支えがある。
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