婚約者として差し出された化け物公爵様、実は最強の美形でした ~孤児の私が溺愛されるまで~

鍛高譚

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第1章 ――「みそっかす孤児の名」――

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そして、ついに私が孤児院を去る日がやってきた。伯爵の馬車が孤児院の門の前に止まったとき、誰一人見送りに来る子供はいなかった。みんな奥の部屋に引きこもってしまったり、廊下の隅でこちらを睨んでいるだけだ。院長は少し離れた場所から「元気でね」とだけ声をかけると、さっさと奥に戻ってしまう。そんなものだ。私とて今までたいした存在でもなかったから、別れを惜しむ相手などいない。

 伯爵の侍女が私の手を引いて馬車に乗せてくれたが、その際にも冷たい視線を感じた。侍女は私に微笑みを向けるわけでもなく、ただの義務として動いているかのようだった。やがて、揺れる馬車の中で私がうずくまっていると、侍女がぼそりと呟く。

 「あなたが噂のノイン……本当に、これでいいのかしら。」

 その言い方に引っかかるものを覚えながら、私は目を伏せる。返事をしようにも何を答えていいかわからなかった。

 馬車を走らせる御者は無言だ。車輪が石畳を踏む音だけが、私たちの間に響く。孤児院を出てすぐの道は、今まで掃除したこともないような広くて立派な道で、両脇には商店が並び、人々が忙しそうに往来している。普段は孤児院の庭先や裏口から少し離れた町角を遠目に眺めるだけだった私には、これほど大きな街があることが新鮮な驚きだった。

 (ここが、外の世界……)

 そう胸が高鳴る一方で、私は再び恐怖を感じていた。私がこれから住む伯爵家は、どれほど広い屋敷なのだろう。使用人たちはみな、きっと私を「みすぼらしい孤児」と見下してくるのではないか。そんな不安はつきまとい、決して消えることはない。

 さらに言えば、なぜ私は選ばれたのか。伯爵は言った。「この子でいい」。侍女もなぜか納得した様子だった。それがどういう理由なのか、まったく見当がつかない。もしかして、養女という名目で家に仕えさせるためなのだろうか――そんな噂を昔どこかで聞いたことがある。身寄りのない子供を引き取っては、事実上の下働きとして使う貴族もいるとかいないとか。

 馬車はしばらくして壮麗な門をくぐり、やがて美しい庭園を通って大きな屋敷の玄関に停まった。遠くから見てもわかるほど立派な建物だ。白亜の壁に金色の装飾が施され、玄関前には噴水まである。これが私の新しい「家」になるのだろうか……。胸の奥が、ずきりと痛む。まるで場違いなところへ来てしまったような感覚でいっぱいだった。
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