婚約者として差し出された化け物公爵様、実は最強の美形でした ~孤児の私が溺愛されるまで~

鍛高譚

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第1章 ――「みそっかす孤児の名」――

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ところが、その日院長に呼び出されたのは……なんと私だった。院長室の扉を叩き、重々しい返事を待って中へ入ると、伯爵と侍女が椅子に腰かけ、私を上から下まで値踏みするように見つめていた。視線が肌に突き刺さり、気分が悪くなる。それでも私は、失礼がないようにと必死に頭を下げた。何がなんだかわからない。

 伯爵はメガネの奥の目でじっと私の顔を見ている。まるで「本当にこの子でいいのか?」と自問しているようにも見えた。一方で侍女の女性――まだ若く、20代前半くらいか――は、どこか満足げな表情を浮かべている。まるで「この子ならば文句あるまい」と言わんばかりの雰囲気だ。

 院長が困惑まじりに口を開く。

 「……本当に、この子でよろしいのですか? もっと年上の少女もおりますし、明るくて元気な子も……」

 伯爵は静かに首を振った。

 「いや、この子でいい。ノイン……とか言ったな? それが名か?」

 「は、はい。私、ノインと呼ばれています……」

 情けない声が自分でもわかる。第一印象は最悪だろう。でも仕方ない。伯爵のような身分の高い人物に見つめられているだけで、緊張して足が震えてしまう。

 「ノイン。それが気に食わないというわけじゃないが……まあ、養女になるのならば、もう少し名の響きも考えてみようか。……とにかく、あとはよろしく頼むよ、院長殿。」

 伯爵はそれだけ言うと、椅子から立ち上がり、侍女に向かって「もう行くぞ」と声をかける。侍女は深く一礼し、伯爵に寄り添うようにしてドアへ向かう。院長は慌てて伯爵を見送るために後を追った。

 室内には、ぽつんと私だけが残された。立ちすくむ私の頭の中には、「なぜ私が選ばれたのか」という疑問でいっぱいだった。伯爵家が“気まぐれ”に選んだだけなのか、或いは何かの間違いなのか……。いずれにせよ、これで私の孤児院生活が終わるのかもしれないと思うと、心のどこかで安堵する気持ちもあった。

 ――しかし、その裏でうっすらとした不安も漂う。
 伯爵家に行けば、本当に温かい日々が待っているのだろうか? 私のようなみそっかす孤児が、いきなりそんな幸せを掴んでいいのだろうか……。

 その後の手続きは、とんとん拍子で進められた。エドラー伯爵はやや急ぎの様子で、孤児院との「養育契約」を結び、早ければ数日中には私を迎えに来ると伝えていた。あまりに唐突で、周囲の子供たちも驚いていた。と同時に、私へのいじめや陰口が一気にエスカレートする。

 「なんでノインが選ばれたんだよ! 嘘だろ!」「どうせ伯爵様もすぐ後悔するさ。そんなみそっかす連れて行っても役に立たないだろうし。」「ああ腹立つ……どうして私が選ばれないのよ!」

 子供たちの小さな世界でこそ、これは「重大事」だった。なぜなら伯爵家という大貴族に養子に迎えられれば、今後の人生が大きく変わるのは火を見るより明らかだからだ。嫉妬や憎しみが渦巻いて、私の持ち物を隠したり、夜中にこっそり私の部屋に入りこんで布団をぐちゃぐちゃにされたりもした。朝起きてみると、食器棚にしまっていた私のコップが粉々に割られていたことすらある。陰湿ないじめに心が痛む。しかし、私がここを出るまでの辛抱だと思えば……なんとか耐えられた。

 院長やシスターたちは「子供同士の喧嘩」とあまり深刻には受け止めていないようだった。孤児院では、いじめや小競り合いは日常茶飯事だ。いちいち止めてはいられないというのが実情なのだろう。それでも、引き取られるまであとわずかだからと、私は夜な夜な怖い思いをする毎日を過ごした。
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