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第4章 呪いと愛の行方、そしてざまぁへの道
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フェルディナンド公爵との婚約を結び、公爵家に迎え入れられてから数日が経った。
私――ノインは、広大な公爵邸での新生活に、戸惑いながらも少しずつ慣れ始めている。伯爵家で“みそっかす”扱いされていた頃とは比べものにならないほど、ここでは丁寧な扱いを受けていた。とはいえ、当主である公爵の姿はめったに見ることがない。彼は早朝から執務室にこもり、領地経営や王都からの依頼業務などに忙殺されているらしい。
私の方はというと、専属の侍女マリオンや、ラドクリフ執事に導かれながら、まずは屋敷内を把握することから始めた。庭園を散策し、図書室を訪ね、音楽室のグランドピアノに驚き、使用人たちの仕事ぶりを見学する――そんな日々を重ねながら、慣れない貴族生活の息苦しさと、それでも孤児院や伯爵家よりはるかに自由な空気の間で、どこか浮足立った気分を抱いていた。
ある日の午後、私は侍女マリオンとともに屋敷の廊下を歩いていた。彫刻の施された柱や、美しいタペストリーが飾られた壁を眺めながら、なんとも言えない感慨に浸る。
「ノイン様、そちらは当主の私室へ続く廊下です。この先は護衛も多く、許可なしには立ち入れません。……とはいえ、今のノイン様は公爵閣下の婚約者ですから、通行を咎められることは少ないかと。」
マリオンの丁寧な口調に、私は少しだけ気圧される。気を抜くと「え、えっと……」と孤児院時代の小声に戻ってしまいそうだが、何とかがんばって貴族らしく振る舞わなければ。
「そう……なの。ありがとう、マリオン。……私、公爵閣下にお会いしたいのだけれど、今は執務中よね?」
「あいにく、今はとてもお忙しくされております。まだしばらくは執務室に籠もりきりになるかと。……ただ、夕方には一度、中庭で休憩を取られるご予定だと伺っております。そのときにお声がけしてみるのはいかがでしょう?」
私は小さく頷く。フェルディナンド公爵との会話は、婚約の儀以来、ほとんどしていない。その後、たまに廊下ですれ違ったり、使用人越しに指示を受けたりはするのだが、ゆっくり言葉を交わす機会はないまま日々が過ぎていた。
(……もう少し、きちんと公爵閣下と向き合いたいのに。)
そんな焦りにも似た感情を抱きつつ、私は侍女の案内で広間の方へ向かう。途中、ひとりの若い騎士がこちらに歩み寄ってきた。私と同じくらいの年齢だろうか、短く切り揃えた金髪が印象的な青年で、公爵の親衛隊の一人らしい。
「ノイン様……こんにちは。えっと、その……初めまして、ですね。俺、親衛隊のロイと申します。閣下から、『ノイン様がお困りの際は手助けをしろ』とのお達しがあって……あの、何かお力になれることがあったら、いつでも声をかけてくださいね。」
照れ臭そうに頭を下げるロイを見て、私はほっとする。使用人や騎士の中には、フェルディナンド公爵に仕えているがゆえ、どこか冷徹な雰囲気をまとっている人も多い。だが、ロイは素直で親しみやすそうに見える。
「ありがとう、ロイさん。……慣れないことばかりで、正直戸惑ってるんです。誰か気軽に話せる人がいるのは助かります……。」
そう言うと、ロイは照れ隠しのように笑みを浮かべて「は、はい!」と背筋を伸ばし、すぐに踵を返して立ち去った。
マリオンはそんな様子を横目に見つつ、小さく微笑む。
「ロイはまだ若いですが、とても忠誠心の厚い騎士です。公爵閣下にも信頼されていて、何かと重用されております。……よろしければ、何か頼みごとをしてみるのもいいかもしれませんね。」
私は再び「そうね……」とうなずく。少しずつだが、公爵家の空気に慣れ、周囲の人々とも関係を築けるようになりつつある――そんな手応えを感じる瞬間でもあった。
私――ノインは、広大な公爵邸での新生活に、戸惑いながらも少しずつ慣れ始めている。伯爵家で“みそっかす”扱いされていた頃とは比べものにならないほど、ここでは丁寧な扱いを受けていた。とはいえ、当主である公爵の姿はめったに見ることがない。彼は早朝から執務室にこもり、領地経営や王都からの依頼業務などに忙殺されているらしい。
私の方はというと、専属の侍女マリオンや、ラドクリフ執事に導かれながら、まずは屋敷内を把握することから始めた。庭園を散策し、図書室を訪ね、音楽室のグランドピアノに驚き、使用人たちの仕事ぶりを見学する――そんな日々を重ねながら、慣れない貴族生活の息苦しさと、それでも孤児院や伯爵家よりはるかに自由な空気の間で、どこか浮足立った気分を抱いていた。
ある日の午後、私は侍女マリオンとともに屋敷の廊下を歩いていた。彫刻の施された柱や、美しいタペストリーが飾られた壁を眺めながら、なんとも言えない感慨に浸る。
「ノイン様、そちらは当主の私室へ続く廊下です。この先は護衛も多く、許可なしには立ち入れません。……とはいえ、今のノイン様は公爵閣下の婚約者ですから、通行を咎められることは少ないかと。」
マリオンの丁寧な口調に、私は少しだけ気圧される。気を抜くと「え、えっと……」と孤児院時代の小声に戻ってしまいそうだが、何とかがんばって貴族らしく振る舞わなければ。
「そう……なの。ありがとう、マリオン。……私、公爵閣下にお会いしたいのだけれど、今は執務中よね?」
「あいにく、今はとてもお忙しくされております。まだしばらくは執務室に籠もりきりになるかと。……ただ、夕方には一度、中庭で休憩を取られるご予定だと伺っております。そのときにお声がけしてみるのはいかがでしょう?」
私は小さく頷く。フェルディナンド公爵との会話は、婚約の儀以来、ほとんどしていない。その後、たまに廊下ですれ違ったり、使用人越しに指示を受けたりはするのだが、ゆっくり言葉を交わす機会はないまま日々が過ぎていた。
(……もう少し、きちんと公爵閣下と向き合いたいのに。)
そんな焦りにも似た感情を抱きつつ、私は侍女の案内で広間の方へ向かう。途中、ひとりの若い騎士がこちらに歩み寄ってきた。私と同じくらいの年齢だろうか、短く切り揃えた金髪が印象的な青年で、公爵の親衛隊の一人らしい。
「ノイン様……こんにちは。えっと、その……初めまして、ですね。俺、親衛隊のロイと申します。閣下から、『ノイン様がお困りの際は手助けをしろ』とのお達しがあって……あの、何かお力になれることがあったら、いつでも声をかけてくださいね。」
照れ臭そうに頭を下げるロイを見て、私はほっとする。使用人や騎士の中には、フェルディナンド公爵に仕えているがゆえ、どこか冷徹な雰囲気をまとっている人も多い。だが、ロイは素直で親しみやすそうに見える。
「ありがとう、ロイさん。……慣れないことばかりで、正直戸惑ってるんです。誰か気軽に話せる人がいるのは助かります……。」
そう言うと、ロイは照れ隠しのように笑みを浮かべて「は、はい!」と背筋を伸ばし、すぐに踵を返して立ち去った。
マリオンはそんな様子を横目に見つつ、小さく微笑む。
「ロイはまだ若いですが、とても忠誠心の厚い騎士です。公爵閣下にも信頼されていて、何かと重用されております。……よろしければ、何か頼みごとをしてみるのもいいかもしれませんね。」
私は再び「そうね……」とうなずく。少しずつだが、公爵家の空気に慣れ、周囲の人々とも関係を築けるようになりつつある――そんな手応えを感じる瞬間でもあった。
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