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第4章 呪いと愛の行方、そしてざまぁへの道
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ところが、その穏やかな日々は、突然の知らせによって大きく揺さぶられることになる。
翌日の昼下がり、私が自室で読書をしていると、ドアを控えめにノックする音がした。入ってきたのはラドクリフ執事だ。いつも落ち着いた彼だが、今日はどこか険しい表情をしている。
「ノイン様、失礼いたします。……実は、先ほど王都からの使者が到着いたしまして、エドラー伯爵ご一家がこちらを訪問されるということになりました。公爵閣下も了承なさっています。……おそらく、午後のうちに到着される見通しです。」
「え……エドラー伯爵が……?」
私は思わず声を上げる。あの伯爵家――エミリアや伯爵夫人を含めた家族が、まさかここを訪れるなんて。婚約の儀で「用済み」と突き放したはずではなかったのか。
ラドクリフは渋い顔で続ける。
「ええ。正式な婚約を結んで以来、一度もご挨拶していないから、ぜひ見学させてほしいというのが表向きの理由のようです。しかし、伯爵様や夫人がどういう目的で来られるのか……私どもには計りかねます。公爵閣下は『好きにさせておけ』と仰っておりますが……。」
私はまるで胸をえぐられるような感覚を覚えた。エドラー家が私を訪ねてくるなんて、いい予感がまったくしない。きっとまた、冷たい言葉を浴びせられるに違いない。「化け物公爵の嫁はどんな暮らしをしているのかしら」と嘲笑を受けるのがオチだろう。
しかし、ここは公爵家だ。私が勝手に門前払いを決めるわけにもいかない。ラドクリフの話によれば、公爵閣下自身が「来るなら勝手に来させればいい」と容認しているのだから、私はそれに従うしかない。
「……わかりました。私も覚悟しておきます。ご報告、ありがとうございます。」
「かしこまりました。……万一、伯爵ご一家が無礼を働くようなことがあれば、遠慮なく私どもを頼ってください。ノイン様はもう、エドラー家の持ち物ではございませんから。」
ラドクリフはそう言って一礼し、去っていく。――「もう持ち物ではない」。確かにその通りだが、私の中ではまだ伯爵家とのしがらみが消えてはいない。あんなにひどい扱いを受けていたのに、私はいまだに彼らを恐れている自分がいるのだ。
そして、午後になって――予想どおり、エドラー伯爵たちは大勢の従者を引き連れ、フェルディナンド公爵邸の門をくぐった。伯爵夫人やエミリアも馬車から降り立ち、庭先で待ち構えていた侍女や騎士たちを見回す。
「まあ、こんなに立派な庭園なのね……うちの伯爵家より広いんじゃない?」
伯爵夫人はちらりと嘲笑を浮かべ、エミリアも同じように鼻で笑っている。まるで「こんな化け物公爵に仕えている使用人たちも、大変でしょうに」と言わんばかりだ。
奥へ案内された伯爵家の一行は、応接室でフェルディナンド公爵を待つことになった。案内役を務めるラドクリフ執事に対しても、伯爵夫人は妙に上から目線の態度を取っている。「あなた、この屋敷で一番偉い使用人なんですって? ふふ、そう大変でもなさそうね」などと口走り、ラドクリフを困惑させていた。
私は応接室には入らず、少し離れた場所で様子を見守る。公爵閣下は今、執務を終えてこちらに向かっているそうだ。いずれ面と向かうことは避けられないが、正直に言って、エドラー家の人々と再会するのは恐ろしくてしかたがない。
「……ノイン様、大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけてくれたのはマリオンだった。私の手が小刻みに震えているのを見て、そっと肩に手を置いてくれる。
「だ、大丈夫……平気よ。ありがとう、マリオン。」
震える声で答えたところで、廊下の向こうからフェルディナンド公爵が現れた。いつもと同じく漆黒のマントをまとい、角と鱗を隠すことなく堂々と歩いてくる。その姿に思わず目を奪われる。やはり“化け物”と恐れられる容姿だが、どこか威風堂々とした佇まいには品格を感じるのだ。
公爵は私に近づくと、視線を落として静かに言う。
「ノイン。……行くぞ。お前を伯爵家の人間に再び好き勝手言わせるつもりはない。」
低く落ち着いた声音には、確かな決意が滲んでいるように聞こえた。私は一瞬息を呑む。――まるで“お前を守る”と宣言しているかのように思えたからだ。
「はい……」
それだけを答えるのが精いっぱいだったが、胸の奥で何かが温かく波打つのを感じた。公爵の言葉が心強い。私が一人で怯えているわけではないのだ……と思えるだけで、少しだけ足が軽くなった気がした。
翌日の昼下がり、私が自室で読書をしていると、ドアを控えめにノックする音がした。入ってきたのはラドクリフ執事だ。いつも落ち着いた彼だが、今日はどこか険しい表情をしている。
「ノイン様、失礼いたします。……実は、先ほど王都からの使者が到着いたしまして、エドラー伯爵ご一家がこちらを訪問されるということになりました。公爵閣下も了承なさっています。……おそらく、午後のうちに到着される見通しです。」
「え……エドラー伯爵が……?」
私は思わず声を上げる。あの伯爵家――エミリアや伯爵夫人を含めた家族が、まさかここを訪れるなんて。婚約の儀で「用済み」と突き放したはずではなかったのか。
ラドクリフは渋い顔で続ける。
「ええ。正式な婚約を結んで以来、一度もご挨拶していないから、ぜひ見学させてほしいというのが表向きの理由のようです。しかし、伯爵様や夫人がどういう目的で来られるのか……私どもには計りかねます。公爵閣下は『好きにさせておけ』と仰っておりますが……。」
私はまるで胸をえぐられるような感覚を覚えた。エドラー家が私を訪ねてくるなんて、いい予感がまったくしない。きっとまた、冷たい言葉を浴びせられるに違いない。「化け物公爵の嫁はどんな暮らしをしているのかしら」と嘲笑を受けるのがオチだろう。
しかし、ここは公爵家だ。私が勝手に門前払いを決めるわけにもいかない。ラドクリフの話によれば、公爵閣下自身が「来るなら勝手に来させればいい」と容認しているのだから、私はそれに従うしかない。
「……わかりました。私も覚悟しておきます。ご報告、ありがとうございます。」
「かしこまりました。……万一、伯爵ご一家が無礼を働くようなことがあれば、遠慮なく私どもを頼ってください。ノイン様はもう、エドラー家の持ち物ではございませんから。」
ラドクリフはそう言って一礼し、去っていく。――「もう持ち物ではない」。確かにその通りだが、私の中ではまだ伯爵家とのしがらみが消えてはいない。あんなにひどい扱いを受けていたのに、私はいまだに彼らを恐れている自分がいるのだ。
そして、午後になって――予想どおり、エドラー伯爵たちは大勢の従者を引き連れ、フェルディナンド公爵邸の門をくぐった。伯爵夫人やエミリアも馬車から降り立ち、庭先で待ち構えていた侍女や騎士たちを見回す。
「まあ、こんなに立派な庭園なのね……うちの伯爵家より広いんじゃない?」
伯爵夫人はちらりと嘲笑を浮かべ、エミリアも同じように鼻で笑っている。まるで「こんな化け物公爵に仕えている使用人たちも、大変でしょうに」と言わんばかりだ。
奥へ案内された伯爵家の一行は、応接室でフェルディナンド公爵を待つことになった。案内役を務めるラドクリフ執事に対しても、伯爵夫人は妙に上から目線の態度を取っている。「あなた、この屋敷で一番偉い使用人なんですって? ふふ、そう大変でもなさそうね」などと口走り、ラドクリフを困惑させていた。
私は応接室には入らず、少し離れた場所で様子を見守る。公爵閣下は今、執務を終えてこちらに向かっているそうだ。いずれ面と向かうことは避けられないが、正直に言って、エドラー家の人々と再会するのは恐ろしくてしかたがない。
「……ノイン様、大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけてくれたのはマリオンだった。私の手が小刻みに震えているのを見て、そっと肩に手を置いてくれる。
「だ、大丈夫……平気よ。ありがとう、マリオン。」
震える声で答えたところで、廊下の向こうからフェルディナンド公爵が現れた。いつもと同じく漆黒のマントをまとい、角と鱗を隠すことなく堂々と歩いてくる。その姿に思わず目を奪われる。やはり“化け物”と恐れられる容姿だが、どこか威風堂々とした佇まいには品格を感じるのだ。
公爵は私に近づくと、視線を落として静かに言う。
「ノイン。……行くぞ。お前を伯爵家の人間に再び好き勝手言わせるつもりはない。」
低く落ち着いた声音には、確かな決意が滲んでいるように聞こえた。私は一瞬息を呑む。――まるで“お前を守る”と宣言しているかのように思えたからだ。
「はい……」
それだけを答えるのが精いっぱいだったが、胸の奥で何かが温かく波打つのを感じた。公爵の言葉が心強い。私が一人で怯えているわけではないのだ……と思えるだけで、少しだけ足が軽くなった気がした。
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