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第4章 呪いと愛の行方、そしてざまぁへの道
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公爵とともに応接室へ入ると、そこにはエドラー伯爵夫人とエミリア、そして伯爵本人が並んで座っていた。奥には、使用人や従者が控えている。
伯爵夫人は公爵の姿を見て一瞬ビクリとしたが、すぐに取り繕うように微笑む。
「まあ、公爵閣下。お久しぶりでございますわ。こちらにお呼びいただき、光栄です。」
「呼んだ覚えはないが……勝手に来ただけだろう?」
公爵の冷たい言葉に、夫人の微笑みがひきつる。だが、すぐに愛想笑いに変えて言葉を続ける。
「まあまあ、ご冗談を。……ところで、ノインはどこに……。あら、そこにいたのね。元気かしら?」
さも心配しているような口調だが、その目には私への軽蔑と嘲笑が見え隠れしている。私が戸惑っていると、公爵が私の肩を引き寄せるように前に出す。
「ここにいる。今はもう、エドラー伯爵家の人間ではない。わたしの婚約者だ。……お前たちがどういう目的で来たのか知らないが、ノインを傷つけるような言動は許さない。」
公爵の強い宣言に、エミリアが露骨に嫌悪の色を浮かべる。
「……『傷つける』だなんて、そんな。私たちはノインの様子を見に来ただけですわ。……そもそも、彼女はウチの養女だったんですもの。しっかりと“責任”を持って送り出したのですから、どんな暮らしをしているか確認する義務があるのよ。」
嘘だ。そんなことを考える人たちではない。私は奥歯を噛みしめながら、何とか平静を保つ。すると、エミリアが私に向き直り、わざとらしく頭の先からつま先まで見下ろすように眺めてくる。
「ノイン、ちょっと見ないうちに……随分といい暮らしをしているみたいねぇ。ほら、その服なんか、以前の古びたドレスとは大違いじゃない?」
言われて思わずドレスの裾を握りしめる。あれから公爵の指示で仕立て直してもらったドレスを身につけているのだが、当の私は“こんなに綺麗な服を着ていいのだろうか”と未だに落ち着かない。エミリアはそれを見透かしたかのように、嫌味な笑みを浮かべてささやいた。
「でも、結局は“化け物”の花嫁なんでしょう? 怖くないの? 夜も眠れないんじゃない?」
伯爵夫人も追従するように口を開く。
「そうですわよねえ。何しろ、あの角や鱗……。私だったら恐ろしくて、とても一緒に暮らせませんわ。ノインは小さい頃から苦労していたから、多少のことには慣れているのかもしれないけれど。」
あからさまな悪意に、私は反論もできず俯く。伯爵や夫人の言うことは当然不愉快だが、角や鱗が恐ろしいのは事実。それを真正面から否定するだけの勇気が出ない。
――だが、代わりにフェルディナンド公爵が毅然とした声をあげた。
「……貴様ら。わたしの外見をどう思おうが勝手だが、ノインを侮辱することは許さない。既にこの娘は正式な儀式を経て、わたしの婚約者となった。王国にも届け出済みだ。」
伯爵夫人はひるむことなく、卑屈な笑みを浮かべる。
「ええ、存じておりますわ。だからこそ、こうして“ご挨拶”に来たのですよ。私たちだって、ノインがどれほどご立派に嫁いでいるか、確かめておきたいのですもの。……ただ、この婚約がいつまで続くかはわかりませんわよね?」
「何を言う……?」
公爵が眉をひそめると、エミリアが横から口を挟む。
「だって、化け物と孤児の婚約でしょ? 世間体が悪いし、もし閣下が正気に戻ったら、すぐに破棄なさるかもしれないじゃない。ふふ……」
無遠慮な言葉に、私の心がざわつく。伯爵家の人々からすれば、私と公爵の関係なんて“いつ崩れてもおかしくない”と思っているのだろう。彼ら自身が“身代わり”として送り込んだわけだから、自分たちに火の粉が降りかからなければそれでいいのだ。
――こんな屈辱を突きつけられても、私は一言も言い返せないのか。そう思うと悔しさが込み上げてくる。だが、公爵は私の手を取るようにして、やわらかく引き寄せた。
「……正気に戻ったら破棄などと、なぜ貴様らが決めつける? わたしが選んだのだ。たとえ世間がどう言おうと、ノインを手放すつもりはない。」
その言葉は静かだが、明確な宣言だった。胸が熱くなる。私がきつく唇を結んだまま俯くと、エミリアは鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「はっ、言ってくれますわね。まあ、勝手にどうぞ。私たちはただ見学に来ただけなんですから。ところで、公爵閣下のお屋敷を案内していただけませんか? せっかくですし、どういうところでノインが暮らしているのか、見てみたいんです。……別に、変な意味ではありませんわよ?」
変な意味に決まっている。そう思うが、ここで断れば「やましいことでもあるのか」と揚げ足を取られるのが目に見えている。公爵は短く舌打ちし、ラドクリフ執事に目をやってうなずいた。
「……仕方ない。ラドクリフ、案内を頼む。ただし、立ち入りを許可しない区域には絶対に近づかせるな。」
「かしこまりました、閣下。」
こうして、エドラー伯爵家の人々は使用人たちの先導のもと、公爵家の屋敷を“見学”することになった。伯爵夫人やエミリアは口々に「あら、思ったより素敵ね」「こんな化け物屋敷にしては、ずいぶんと上品だわ」などと失礼極まりない感想を漏らす。伯爵本人はというと、ほとんど喋らず、時折眉間に皺を寄せながら屋敷の内装を眺めていた。
私と公爵は少し後ろの方から、彼らの様子を見守るように歩く。正直、胃が痛くなる思いだったが、公爵は私に「気にするな」と言うように小さく首を振ってみせた
伯爵夫人は公爵の姿を見て一瞬ビクリとしたが、すぐに取り繕うように微笑む。
「まあ、公爵閣下。お久しぶりでございますわ。こちらにお呼びいただき、光栄です。」
「呼んだ覚えはないが……勝手に来ただけだろう?」
公爵の冷たい言葉に、夫人の微笑みがひきつる。だが、すぐに愛想笑いに変えて言葉を続ける。
「まあまあ、ご冗談を。……ところで、ノインはどこに……。あら、そこにいたのね。元気かしら?」
さも心配しているような口調だが、その目には私への軽蔑と嘲笑が見え隠れしている。私が戸惑っていると、公爵が私の肩を引き寄せるように前に出す。
「ここにいる。今はもう、エドラー伯爵家の人間ではない。わたしの婚約者だ。……お前たちがどういう目的で来たのか知らないが、ノインを傷つけるような言動は許さない。」
公爵の強い宣言に、エミリアが露骨に嫌悪の色を浮かべる。
「……『傷つける』だなんて、そんな。私たちはノインの様子を見に来ただけですわ。……そもそも、彼女はウチの養女だったんですもの。しっかりと“責任”を持って送り出したのですから、どんな暮らしをしているか確認する義務があるのよ。」
嘘だ。そんなことを考える人たちではない。私は奥歯を噛みしめながら、何とか平静を保つ。すると、エミリアが私に向き直り、わざとらしく頭の先からつま先まで見下ろすように眺めてくる。
「ノイン、ちょっと見ないうちに……随分といい暮らしをしているみたいねぇ。ほら、その服なんか、以前の古びたドレスとは大違いじゃない?」
言われて思わずドレスの裾を握りしめる。あれから公爵の指示で仕立て直してもらったドレスを身につけているのだが、当の私は“こんなに綺麗な服を着ていいのだろうか”と未だに落ち着かない。エミリアはそれを見透かしたかのように、嫌味な笑みを浮かべてささやいた。
「でも、結局は“化け物”の花嫁なんでしょう? 怖くないの? 夜も眠れないんじゃない?」
伯爵夫人も追従するように口を開く。
「そうですわよねえ。何しろ、あの角や鱗……。私だったら恐ろしくて、とても一緒に暮らせませんわ。ノインは小さい頃から苦労していたから、多少のことには慣れているのかもしれないけれど。」
あからさまな悪意に、私は反論もできず俯く。伯爵や夫人の言うことは当然不愉快だが、角や鱗が恐ろしいのは事実。それを真正面から否定するだけの勇気が出ない。
――だが、代わりにフェルディナンド公爵が毅然とした声をあげた。
「……貴様ら。わたしの外見をどう思おうが勝手だが、ノインを侮辱することは許さない。既にこの娘は正式な儀式を経て、わたしの婚約者となった。王国にも届け出済みだ。」
伯爵夫人はひるむことなく、卑屈な笑みを浮かべる。
「ええ、存じておりますわ。だからこそ、こうして“ご挨拶”に来たのですよ。私たちだって、ノインがどれほどご立派に嫁いでいるか、確かめておきたいのですもの。……ただ、この婚約がいつまで続くかはわかりませんわよね?」
「何を言う……?」
公爵が眉をひそめると、エミリアが横から口を挟む。
「だって、化け物と孤児の婚約でしょ? 世間体が悪いし、もし閣下が正気に戻ったら、すぐに破棄なさるかもしれないじゃない。ふふ……」
無遠慮な言葉に、私の心がざわつく。伯爵家の人々からすれば、私と公爵の関係なんて“いつ崩れてもおかしくない”と思っているのだろう。彼ら自身が“身代わり”として送り込んだわけだから、自分たちに火の粉が降りかからなければそれでいいのだ。
――こんな屈辱を突きつけられても、私は一言も言い返せないのか。そう思うと悔しさが込み上げてくる。だが、公爵は私の手を取るようにして、やわらかく引き寄せた。
「……正気に戻ったら破棄などと、なぜ貴様らが決めつける? わたしが選んだのだ。たとえ世間がどう言おうと、ノインを手放すつもりはない。」
その言葉は静かだが、明確な宣言だった。胸が熱くなる。私がきつく唇を結んだまま俯くと、エミリアは鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「はっ、言ってくれますわね。まあ、勝手にどうぞ。私たちはただ見学に来ただけなんですから。ところで、公爵閣下のお屋敷を案内していただけませんか? せっかくですし、どういうところでノインが暮らしているのか、見てみたいんです。……別に、変な意味ではありませんわよ?」
変な意味に決まっている。そう思うが、ここで断れば「やましいことでもあるのか」と揚げ足を取られるのが目に見えている。公爵は短く舌打ちし、ラドクリフ執事に目をやってうなずいた。
「……仕方ない。ラドクリフ、案内を頼む。ただし、立ち入りを許可しない区域には絶対に近づかせるな。」
「かしこまりました、閣下。」
こうして、エドラー伯爵家の人々は使用人たちの先導のもと、公爵家の屋敷を“見学”することになった。伯爵夫人やエミリアは口々に「あら、思ったより素敵ね」「こんな化け物屋敷にしては、ずいぶんと上品だわ」などと失礼極まりない感想を漏らす。伯爵本人はというと、ほとんど喋らず、時折眉間に皺を寄せながら屋敷の内装を眺めていた。
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