白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚

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第14話「誘拐犯ではありません!? 正体は“あの人”」

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第14話「誘拐犯ではありません!? 正体は“あの人”」

翌朝。
リオナはいつものように優雅に朝食のトーストを食べながら、

「旦那様。そんなに私を見つめてどうされました?」

と、目の前で腕を組んで立つカイルに問いかけた。

「……監視だ」

「監視と言われると、なんだか悪いことをしているようですわ」

「悪いことはしていない。
だが、お前には“事件に巻き込まれる才能”がある」

「才能……?」

リオナはぽかんとした顔をした。

その会話を聞きながら、リリィは朝から泣きそうだ。

「うう……リオナ様が攫われたら……わたし……っ」

「もう泣かないで、リリィ。攫われませんわ。
攫われるほど価値があるとは思えませんし」

「あります!!」
「あるに決まってるだろう!」

リリィとカイルの声が見事に重なった。

リオナは「まあ」と目をぱちぱちさせる。

***

そんな和やかな(?)朝食時間を破るように、玄関から大声が響いた。

「リオナ様を……お迎えにあがりましたぁぁぁ!!」

三人は同時に固まった。

(来た……!!)
(本当に来た……!!)
(泣く準備しないと……!!)

カイルは椅子を蹴るように飛び上がった。

「リオナ、絶対に部屋から出るな!」

「はいはい。では紅茶でも淹れて待っていますわ」

「茶を飲むな! おとなしくしていろ!!」

カイルは剣を装備する勢いで玄関へ向かった。

リリィは震えながらリオナのスカートを握る。

「リ、リオナ様……怖いです……」

「大丈夫よ。たぶん」

「たぶん!?」

***

カイルが玄関ホールへ駆けつけると――。

そこに立っていたのは、覆面姿でも黒ローブでもなく。

ひとりの婦人だった。

しかも、どこか見覚えがある優雅な女性。

「……あなたは……」

カイルが戸惑ったのと同じくらい、女性も驚いた。

「あら、カイル様? まあ、久しぶりですわね」

その声に、カイルの眉がぴくりと動いた。

「……まさか……」

そして数秒後、
リオナとリリィが玄関にそっと顔を出す。

「旦那様、どなたがいらしたのです――」

その瞬間。

婦人がぱあっと破顔した。

「まあ、リオナ! 本当に大きくなって……!!」

「え……?」

リオナはきょとんとした。

しかし、婦人はそのままリオナの両手を握った。

「リオナ、わたくしですわ。
覚えていらっしゃらないかしら……?」

「失礼ですが、どちら様……?」

婦人はハンカチで目元を押さえた。

「……リオナの叔母、ミレイユよ」

「「叔母!?」」

カイルとリリィが声を揃えた。

リオナだけが、まだついていけていない。

「あの……叔母、と言われましても……」

ミレイユは涙をこぼし、リオナの手をぎゅっと握った。

「あなたのお母様の妹よ。
幼いあなたと何度も遊んだのに……
ああ、思い出してくれないなんて悲しい……!」

「……ええと」

カイルは額に手を当てた。

(誘拐犯じゃなかったのか……!)
(リオナの親族……!
なのに“覆面姿の変な男”に見えたのはリリィの見間違い……!?)

リリィは両手で口を押さえ、真っ赤になった。

「ご、ごめんなさい……っ
だ、だって……ミレイユ様、黒い大きな帽子を深く被ってて……
道端でスカーフで顔を隠してて……!」

ミレイユは恥ずかしそうに俯く。

「日差しが強かったので……つい日焼け対策を……」

「……」

「……」

場が凍りついた。

カイルは静かに言った。

「つまり……“不審者”というのは……」

「……叔母上だった、ということですね」

ミレイユはぱぁぁっと手を上げる。

「ええ! リオナを迎えにきたんですの!」

「迎えって……どこへ?」

ミレイユは胸を張った。

「もちろん――
あなたを本家で預かるためよ!!
嫁いでしまって心配で心配で……!」

カイルがぎくりとした。

「ちょっと待て。本家で預かるとはどういう……」

「リオナにはもっと相応しい場所が必要なの。
領主の家なんて頼りないでしょう?」

「頼りないって俺の家のことか!?」

ミレイユは大真面目だ。

「もちろんですわ」

カイルは言葉を失った。

リオナはゆるりと微笑んだ。

「叔母様、ご心配ありがとうございます。
ですが、私はここで幸せに暮らしていますの」

「でも……!」

「あと、旦那様は頼りになりますわ。
時々過保護すぎて困るくらいに」

その一言で、カイルの耳が赤くなる。

ミレイユは娘を見る母のように目を細めた。

「……まあ。
ずいぶん、良いところに嫁いだのね」

「叔母様、だから私は誘拐されてませんわ」

ミレイユは照れながら言った。

「ええ……本当に良かった……」

***

こうして――

“誘拐犯”と恐れられた人物の正体は、
ただの過保護な叔母さまであることが判明した。

だが、リオナの平和な日常は、
まだまだ事件に満ちていた。
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