白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚

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第23話 放課後の裏庭/カイルの決意

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第23話 放課後の裏庭/カイルの決意

放課後の鐘が鳴り終わる頃、裏庭は静まり返っていた。

高い木々が風に揺れ、夕陽が差し込んで芝生を赤く染める。
学院の喧騒から少し離れたこの場所は、誰にも邪魔されない──
カイルはそれを見越して、リオナをここに呼んだのだった。

(……来てくれるだろうか)

胸の内がざわつく。
リオナがどれほど傷ついているか思うと、落ち着かずに歩き回った。

(ミレイナ……君は本気でリオナを潰すつもりなんだな)

カイルの横顔には怒りが浮かんでいた。
普段穏やかで冷静な彼からは考えられないほどの険しい表情。

「カイル……くん……?」

弱々しい声がして、カイルは振り返った。

リオナが立っていた。
今日はいつもの明るさが影を潜め、制服の裾をぎゅっと握りしめている。

「リオナ……来てくれて、ありがとう」

カイルは急いで近づいた。

「大丈夫? 誰かに何かされた?」

「……されてないよ。
ただ……なんか……みんなの目が、怖かった……」

リオナはうつむき、声が震えていた。

「わ、私……そんなことしてないのに……カイルくんを誘惑してるとか……。
みんな信じてくれなくて……。
今日一日ずっと、居場所がないみたいで……」

カイルは拳を握りしめた。

(言っていいのか迷っていた。
でもこれ以上、彼女が傷つくのは絶対に許せない)

「リオナ」

カイルはそっと彼女の肩に触れた。

「噂は──ミレイナが流したんだ」

リオナの目が大きく見開かれる。

「えっ……ミレイナさんが……?」

「そう。昨日、君を庇ったせいだ。
彼女は、僕が誰かと親しくするのを許さない。
まして……それが君だと、なおさらだ」

カイルの声には悔しさと怒りが混じっていた。

リオナは唇を震わせた。

「どうして……どうしてそこまで……」

「ミレイナは、幼い頃から僕の“婚約相手の候補”と言われていた。
だから、自分以外の誰かが僕の近くにいることが許せないんだ」

「……そんな理由で……?」

リオナの胸に重い痛みが広がる。

(私……巻き込まれちゃったんだ……)

しかし、次の瞬間。

カイルはリオナの両肩をしっかりと掴んだ。

「リオナ、よく聞いて」

その声は、真剣そのものだった。

「僕は、君を守る。
どんな噂が流れようと、誰が君を孤立させようと──
絶対に、君をひとりにはしない」

リオナは言葉を失った。

(か、カイルくん……こんなに……)

「僕は、ずっと見てたんだ。
みんなに避けられても、泣きそうになっても、必死に笑おうとしていた君を。
そんな君を……放っておけるわけないだろ」

夕陽の光がカイルの横顔を照らし、優しい影をつくる。

リオナの胸がぎゅっと熱くなった。

「……ありがとう……」

やっと絞り出せた言葉だった。

しかしカイルは首を横に振る。

「“ありがとう”じゃ足りない。
君が今日、どれだけ傷ついたか……本当に悔しいんだ」

リオナはそっと顔を上げ、まっすぐに彼の瞳を見つめた。

カイルの瞳の色──
それが怒りや焦りではなく、確かな“決意”を宿しているのがわかった。

「リオナ。
俺、もう……曖昧にしない」

「え……?」

「ミレイナに“君を守る理由”を、はっきり示す。
そのためなら、どんな対立でも構わない」

カイルがゆっくりと、リオナの頬へ手を伸ばす。

(え……え……近い……っ……!?)

リオナは心臓が爆発しそうになる。

が──その瞬間。

裏庭の木陰から、何人かの女子生徒の影が動いた。

「……ほら、見て! 二人で……!」
「やっぱり噂、本当だったんだ……」

小さな声が、現実へ引き戻す。

リオナは慌てて距離を取った。

「カ、カイルくん……! み、見られてる……!」

カイルは一瞬、悔しげに目を伏せ──
そしてすぐにいつもの穏やかな笑みをつくった。

「大丈夫。
その誤解は、僕が必ず解くから」

そう言う彼の横顔には、もはや迷いはなかった。

(カイルくん……何か、決意してる……?)

リオナが胸の奥に不安と期待が混じった感覚を抱く中──
カイルは“決定的な行動”を翌日とることになる。

それが学院全体を揺るがす大事件のきっかけとなるとは、
まだ誰も知らなかった。


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