婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚

文字の大きさ
15 / 29
3章 元婚約者の破滅と、揺れ動く想い

3-3.ヨーク伯爵家の危機

しおりを挟む
3.ヨーク伯爵家の危機

 ゼインは書斎で騎士を呼び、秘密裏の調査を命じた。数日後、手配された数名の私兵がグランフォード王国へ潜入していく。スカーレットは祈るような気持ちで日々を過ごしながら、邸の雑用をこなし、図書室で時間を潰していた。
 どれほど待っただろう。ある晩、ゼインが急ぎ足で別邸へ戻ってくると、そのままスカーレットの部屋へやってきた。彼の表情は険しく、何か深刻な知らせを抱えているのが明白だった。

「スカーレット、少し話がある。……悪いが、来客用の応接室まで来てくれ」
「はい……!」

 昼夜を問わず政務に追われるゼインが、わざわざこんな時間に呼びに来るなど、よほどの事態だろう。スカーレットは胸の奥がざわめくのを感じながら、急いで身支度を整え、応接室へ向かった。
 そこには数名の私兵が待機しており、いかにも遠路はるばる帰還したばかりという様子で埃まみれの装いだ。彼らがグランフォード王国へ潜入していた調査隊なのだろう。スカーレットが部屋に入ると、彼らは一斉に頭を下げた。

「スカーレット様……無礼を承知でお伝えいたしますが、どうか落ち着いてお聞きください」

 その口振りに、嫌な予感が走る。スカーレットは震える声で言葉を返した。

「……はい。教えてください。父と母、ヨーク伯爵家のことが何かわかったのですね」

 隊長格と思しき男は、苦渋に満ちた表情で報告を始めた。

「はい。まず前提として、王都は現在、アメリア嬢を中心に不気味な雰囲気が漂っています。人々の間では、“アメリア様を崇めれば幸せになれる”“彼女に逆らうと呪われる”などと囁かれ、貴族の中にも彼女を盲信する者が多数出始めている。……スカーレット様の両親であるヨーク伯爵ご夫妻は、それに疑問を呈しているらしく……」
「両親が……何か反対意見を示したのですか?」
「恐らく、伯爵ご夫妻はスカーレット様が追放された真相を探ろうとし、アメリア嬢に直接質問したり、裁判のやり直しを求めたりしていたようです。その結果……ヨーク伯爵家は、王宮から“反逆の疑いあり”として監視を強められているとのこと」
「監視……っ」

 スカーレットの呼吸が浅くなる。両親が王太子に睨まれてしまえば、どれだけ伯爵家が名門だろうと危うい。場合によっては家名剥奪だけでは済まないかもしれない。

「さらに、先日、何者かがヨーク伯爵家に放火を試みたとの噂もあります。大火事にはならなかったようですが、これは明らかに“警告”のつもりでしょう。今は伯爵家の使用人たちも怯え、邸には訪問者もほとんど来ない状態だとか……」

 放火。血の気が引くような事態だ。スカーレットはぎゅっと拳を握り締め、唇を噛む。父と母が無事なのが不幸中の幸いだが、いずれそれ以上の危害が及ぶ可能性が高い。

「なぜそこまで……? 何も罪を犯していないのに、両親が命を狙われるなんて……」
「さだかではありません。ですが、アメリア嬢の取り巻きや、彼女に取り入る貴族たちが、“伯爵夫妻がアメリア嬢を誹謗している”と糾弾しているのは確かなようです。王太子殿下もそれを黙認しているか、もしくは裏で煽っている可能性があります」

 スカーレットは怒りと恐怖で身体が震える。アルバートにとって伯爵夫妻はかつての婚約者の両親であり、本来なら味方であるはずだ。それをこんなにも簡単に切り捨てるなど、どう考えてもおかしい。アメリアに操られていると言っても、あまりに酷い。

「公爵様……私、どうすれば……。両親が危ないなんて、そんな……」

 震えるスカーレットの声に、ゼインは苦悩に満ちた眼差しを向ける。しばし沈黙が流れた後、彼は深く息をついてから断言した。

「俺が、なんとかしよう。……ヨーク伯爵夫妻を、こちらの領地に匿う手段を探る。ただし、そうなれば本格的に“グランフォード王国への内政干渉”とみなされる可能性がある。戦争の火種になるかもしれない。……それでも構わないか?」
「戦争……!」

 スカーレットは思わず息を呑む。隣国の公爵であるゼインが、他国の伯爵夫妻を匿う――それは外交的に見れば、かなり際どい行為だ。王太子が激怒し、武力衝突へと発展してもおかしくない。しかし、ゼインはそんなリスクを承知の上で、自分の頼みを聞こうとしてくれているのだ。

「ただちに開戦という事態まではいかないよう動くが、アメリアや王太子が激昂すれば、どう転ぶかわからない。今のグランフォード王国は正常な判断力を失っている節があるからな。……それでも、お前は両親を救いたいか?」

 問いかけられたスカーレットは、涙目になりながらも、はっきりと応える。

「はい。救いたいです……! 両親は何も悪くありません。私を信じて、真実を追おうとしてくれているだけなんです。どうか……お願いします」

 ゼインは小さく頷き、私兵の隊長に指示を出した。

「伯爵夫妻を密かに保護する作戦を立てる。今すぐ動くのは危険が大きいから、まずはヨーク家と接触して、意思を確認した上で計画を練ってくれ。細心の注意を払ってな」
「はっ。承知いたしました。次の機会に、適任の者が潜入してご夫妻をお守りいたします。続報をお待ちください」

 こうして、伯爵夫妻救出への作戦が動き出す。スカーレットは安堵と不安に包まれつつ、ゼインに何度も頭を下げた。自分の力ではどうしようもできなかったことが、彼の力と決断で動き始めている。それがどれほど救いになるか、言葉では言い尽くせない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』

ふわふわ
恋愛
「君は優秀だが、王妃としては冷たい。正直に言えば――飾りとしては十分だった」 そう言って婚約者である王太子に公然と切り捨てられた、公爵令嬢アデルフィーナ。 さらに王太子は宣言する。 「王家は外部信用に頼らない」「王家が条文だ」と。 履行履歴も整えず、契約も軽視し、 新たな婚約者と共に“強い王家”を演出する王太子。 ――ですが。 契約は宣言では動きません。 信用は履歴の上にしか立ちません。 王命が止まり、出荷が止まり、資材が止まり、 やがて止まったのは王太子の未来でした。 自ら押した承認印が、 自らの継承権を奪うことになるとも知らずに。 公然侮辱から始まる、徹底的な強ザマァ。 救済なし。 やり直しなし。 契約通りに処理しただけですのに―― なぜか王太子が廃嫡されました。

婚約破棄された令嬢は平凡な青年に拾われて、今さら後悔した公爵様に知らん顔されても困ります

exdonuts
恋愛
婚約者に裏切られ、社交界から笑い者にされた侯爵令嬢セシリア。すべてを失い途方に暮れる中、彼女を救ったのは町外れのパン屋で働く青年リアムだった。 「もう無理に頑張らなくていい」――そう言って微笑む彼の優しさに、凍りついていた心が溶けていく。 しかし、幸せが訪れた矢先、かつての婚約者が突然彼女の前に現れて……? これは、失われた令嬢が本当の愛と尊厳を取り戻す、ざまぁと溺愛の物語。

捨てられた公爵令嬢は氷の宰相に愛されすぎて困っています 〜婚約破棄の果てに見つけた真実の愛〜

nacat
恋愛
婚約者の王太子に「平民上がりの令嬢が」と断罪された公爵令嬢・リリアーナ。 居並ぶ貴族の前で婚約破棄を告げられ、家を追放された彼女の前に現れたのは、氷の宰相と恐れられる冷徹な美貌の青年、アラン・グレイス。 無表情で冷たいと噂された彼が見せたのは、誰も知らないほど深い優しさと狂おしいほどの独占欲だった。 最果ての領地で始まる、ざまぁと溺愛の逆転劇。 そして、王国を揺るがす陰謀の真実が明らかになるとき、二人の愛はすべてを変える――。

婚約破棄されたので辺境伯令嬢は自由に生きます~冷酷公爵の過保護が過ぎて困ります!~

sika
恋愛
「君のような女と婚約していたなど、恥だ!」 公爵嫡男に突然婚約を破棄された辺境伯令嬢リーゼは、すべてを捨てて故郷の領地へ戻る決意をした。 誰にも期待せず、ひっそりと生きようとするリーゼの前に現れたのは、冷酷と噂される隣国の公爵・アルヴィン。 彼はなぜかリーゼにだけ穏やかで優しく、彼女を守ることに執着していて――。 「君はもう誰にも踏みにじられない。俺が保証しよう」 呪いのような過去を断ち切り、真実の愛を掴むざまぁ×溺愛ラブストーリー!

婚約破棄された公爵令嬢は、ただ冤罪を晴らしたいだけなのです

明衣令央
恋愛
王太子アレクシスから突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 身に覚えのない冤罪まで着せられ、学園は騒然となる。 王家の調査が始まる中、彼女の前に現れたのは誠実な第二王子ウイリアム。 静かに真実へと歩み出すエレノアの影で、 “時”をめぐる運命が、ゆっくりと動き始めていた――。

婚約破棄された地味令嬢は、無能と呼ばれた伯爵令息と政略結婚する ~あなたが捨てたのは宝石でした~

新川 さとし
恋愛
「地味で可愛げがない」と婚約破棄された侯爵令嬢クリスティーヌ。 王子の政務を陰で支え続けた功績は、すべて無かったことにされた。 居場所を失った彼女に差し出されたのは、“無能”と噂される伯爵令息ノエルとの政略結婚。 しかし彼の正体は、顔と名前を覚えられない代わりに、圧倒的な知識と判断力を持つ天才だった。 「あなたの価値は、私が覚えています」 そう言って彼の“索引(インデックス)”となることを選んだクリスティーヌ。 二人が手を取り合ったとき、社交界も、王家も、やがて後悔することになる。 これは、不遇な二人が“最良の政略結婚”を選び取り、 静かに、確実に、幸せと評価を積み上げていく物語。 ※本作は完結済み(全11話)です。 安心して最後までお楽しみください。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

処理中です...