16 / 29
3章 元婚約者の破滅と、揺れ動く想い
3-4.王太子の焦りと、アメリアの野望
しおりを挟む
4.王太子の焦りと、アメリアの野望
一方その頃、グランフォード王国の王都。
王宮の奥深くにある謁見の間では、王太子アルバートが苛立ち紛れに玉座を睨んでいた。通常、玉座には国王が座るものだが、病床に伏せっている王の代わりに、アルバートが代理として政務を取り仕切っているのだ。
その隣には“聖女”アメリアが侍り、愛想を振りまいている。金髪碧眼の王太子と、柔らかな茶髪に穏やかな笑みを浮かべる聖女。見た目は美男美女の組み合わせだが、その場には妙な殺気じみた空気が漂っていた。
「アルバート様、先ほども申し上げましたが、どうにも王宮の財政が逼迫しているようですわ。私のために用意してくださる資金も、もう少し増やしていただけませんか?」
「……アメリア、先月も大金を下賜したばかりだぞ。何に使っているのか把握していないわけではないが、さすがに度が過ぎる。領主たちが増税に反対し始めているし……」
アルバートは頭を抱える。アメリアを庇護するための費用が莫大になっており、さらに奇妙な病の蔓延で生産力が落ち、税収が減っている。その補填として新たに課税を強化すれば、貴族や平民の反発は必至。国内の不満が高まれば、自らの立場も危うい。
「うふふ。私はただ、病んだ方々を救うための“薬”を作る資金が必要なだけ。アルバート様だって、私がみんなを助けたい気持ちを分かってくださいますよね?」
「そ、それは……確かに、お前の奇跡がなければ、この国の人々は救われない。わかっているが……」
アメリアは潤んだ瞳でアルバートを見つめる。その瞳には不自然なほど甘い光が宿り、王太子の心を溶かすかのようだった。
(そうだ……アメリアは聖女だ。この国を救うために、多少の犠牲は仕方ない……)
アルバートは頭の奥で声が響くような感覚に囚われ、再び疑念を押し殺す。かつては穏やかで理知的な一面もあった彼だが、今は完全にアメリアに心酔し、まともな判断ができない状態に陥っている。
「とにかく、増税の件は慎重に進めよう。反乱でも起こされたら……」
「反乱……たとえば、ヨーク伯爵家のような? あそこはどうも私を嫌っているようですし……。先日はわざわざ私に嫌がらせめいた言葉を投げかけましたわ。私としては、ああいう方々こそ粛清すべきだと思いますが」
くすっと笑いながら、アメリアは王太子の肩を撫でる。その手つきは一見甘美な愛撫のようでいて、まるで蛇が獲物を絡め取るような不気味さを伴っている。
「ヨーク伯爵家……。確か、スカーレットの実家だな。あの娘はもう追放したが、親はまだ王都に残っている。……ちっ、あの夫妻はスカーレットの潔白を信じているからな。もし余計な証拠を掴んで騒ぎ立てられたら面倒だ」
「そうですわ。ですから、なるべく早く手を打たないと。放火くらいではきっと懲りないでしょうから……うふふ」
アメリアの口元には邪悪な笑みが浮かぶ。その表情を見ながら、アルバートは微かな罪悪感を覚えるものの、すぐにかき消されてしまう。
「わかった……。近衛兵にでも命じて監視を強化する。もし伯爵夫妻が謀反の証拠を見せるようなら、即刻捉えるまでだ」
かくして、王太子とアメリアによる暴走は止まる気配がない。グランフォード王国の闇は深まり、やがて“隣国”の耳にも届くのは時間の問題だった。
一方その頃、グランフォード王国の王都。
王宮の奥深くにある謁見の間では、王太子アルバートが苛立ち紛れに玉座を睨んでいた。通常、玉座には国王が座るものだが、病床に伏せっている王の代わりに、アルバートが代理として政務を取り仕切っているのだ。
その隣には“聖女”アメリアが侍り、愛想を振りまいている。金髪碧眼の王太子と、柔らかな茶髪に穏やかな笑みを浮かべる聖女。見た目は美男美女の組み合わせだが、その場には妙な殺気じみた空気が漂っていた。
「アルバート様、先ほども申し上げましたが、どうにも王宮の財政が逼迫しているようですわ。私のために用意してくださる資金も、もう少し増やしていただけませんか?」
「……アメリア、先月も大金を下賜したばかりだぞ。何に使っているのか把握していないわけではないが、さすがに度が過ぎる。領主たちが増税に反対し始めているし……」
アルバートは頭を抱える。アメリアを庇護するための費用が莫大になっており、さらに奇妙な病の蔓延で生産力が落ち、税収が減っている。その補填として新たに課税を強化すれば、貴族や平民の反発は必至。国内の不満が高まれば、自らの立場も危うい。
「うふふ。私はただ、病んだ方々を救うための“薬”を作る資金が必要なだけ。アルバート様だって、私がみんなを助けたい気持ちを分かってくださいますよね?」
「そ、それは……確かに、お前の奇跡がなければ、この国の人々は救われない。わかっているが……」
アメリアは潤んだ瞳でアルバートを見つめる。その瞳には不自然なほど甘い光が宿り、王太子の心を溶かすかのようだった。
(そうだ……アメリアは聖女だ。この国を救うために、多少の犠牲は仕方ない……)
アルバートは頭の奥で声が響くような感覚に囚われ、再び疑念を押し殺す。かつては穏やかで理知的な一面もあった彼だが、今は完全にアメリアに心酔し、まともな判断ができない状態に陥っている。
「とにかく、増税の件は慎重に進めよう。反乱でも起こされたら……」
「反乱……たとえば、ヨーク伯爵家のような? あそこはどうも私を嫌っているようですし……。先日はわざわざ私に嫌がらせめいた言葉を投げかけましたわ。私としては、ああいう方々こそ粛清すべきだと思いますが」
くすっと笑いながら、アメリアは王太子の肩を撫でる。その手つきは一見甘美な愛撫のようでいて、まるで蛇が獲物を絡め取るような不気味さを伴っている。
「ヨーク伯爵家……。確か、スカーレットの実家だな。あの娘はもう追放したが、親はまだ王都に残っている。……ちっ、あの夫妻はスカーレットの潔白を信じているからな。もし余計な証拠を掴んで騒ぎ立てられたら面倒だ」
「そうですわ。ですから、なるべく早く手を打たないと。放火くらいではきっと懲りないでしょうから……うふふ」
アメリアの口元には邪悪な笑みが浮かぶ。その表情を見ながら、アルバートは微かな罪悪感を覚えるものの、すぐにかき消されてしまう。
「わかった……。近衛兵にでも命じて監視を強化する。もし伯爵夫妻が謀反の証拠を見せるようなら、即刻捉えるまでだ」
かくして、王太子とアメリアによる暴走は止まる気配がない。グランフォード王国の闇は深まり、やがて“隣国”の耳にも届くのは時間の問題だった。
13
あなたにおすすめの小説
『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』
ふわふわ
恋愛
「君は優秀だが、王妃としては冷たい。正直に言えば――飾りとしては十分だった」
そう言って婚約者である王太子に公然と切り捨てられた、公爵令嬢アデルフィーナ。
さらに王太子は宣言する。
「王家は外部信用に頼らない」「王家が条文だ」と。
履行履歴も整えず、契約も軽視し、
新たな婚約者と共に“強い王家”を演出する王太子。
――ですが。
契約は宣言では動きません。
信用は履歴の上にしか立ちません。
王命が止まり、出荷が止まり、資材が止まり、
やがて止まったのは王太子の未来でした。
自ら押した承認印が、
自らの継承権を奪うことになるとも知らずに。
公然侮辱から始まる、徹底的な強ザマァ。
救済なし。
やり直しなし。
契約通りに処理しただけですのに――
なぜか王太子が廃嫡されました。
婚約破棄された令嬢は平凡な青年に拾われて、今さら後悔した公爵様に知らん顔されても困ります
exdonuts
恋愛
婚約者に裏切られ、社交界から笑い者にされた侯爵令嬢セシリア。すべてを失い途方に暮れる中、彼女を救ったのは町外れのパン屋で働く青年リアムだった。
「もう無理に頑張らなくていい」――そう言って微笑む彼の優しさに、凍りついていた心が溶けていく。
しかし、幸せが訪れた矢先、かつての婚約者が突然彼女の前に現れて……?
これは、失われた令嬢が本当の愛と尊厳を取り戻す、ざまぁと溺愛の物語。
婚約破棄された公爵令嬢は、ただ冤罪を晴らしたいだけなのです
明衣令央
恋愛
王太子アレクシスから突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。
身に覚えのない冤罪まで着せられ、学園は騒然となる。
王家の調査が始まる中、彼女の前に現れたのは誠実な第二王子ウイリアム。
静かに真実へと歩み出すエレノアの影で、
“時”をめぐる運命が、ゆっくりと動き始めていた――。
婚約破棄されたので辺境伯令嬢は自由に生きます~冷酷公爵の過保護が過ぎて困ります!~
sika
恋愛
「君のような女と婚約していたなど、恥だ!」
公爵嫡男に突然婚約を破棄された辺境伯令嬢リーゼは、すべてを捨てて故郷の領地へ戻る決意をした。
誰にも期待せず、ひっそりと生きようとするリーゼの前に現れたのは、冷酷と噂される隣国の公爵・アルヴィン。
彼はなぜかリーゼにだけ穏やかで優しく、彼女を守ることに執着していて――。
「君はもう誰にも踏みにじられない。俺が保証しよう」
呪いのような過去を断ち切り、真実の愛を掴むざまぁ×溺愛ラブストーリー!
捨てられた公爵令嬢は氷の宰相に愛されすぎて困っています 〜婚約破棄の果てに見つけた真実の愛〜
nacat
恋愛
婚約者の王太子に「平民上がりの令嬢が」と断罪された公爵令嬢・リリアーナ。
居並ぶ貴族の前で婚約破棄を告げられ、家を追放された彼女の前に現れたのは、氷の宰相と恐れられる冷徹な美貌の青年、アラン・グレイス。
無表情で冷たいと噂された彼が見せたのは、誰も知らないほど深い優しさと狂おしいほどの独占欲だった。
最果ての領地で始まる、ざまぁと溺愛の逆転劇。
そして、王国を揺るがす陰謀の真実が明らかになるとき、二人の愛はすべてを変える――。
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~
深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。
灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。
婚約破棄された地味令嬢は、無能と呼ばれた伯爵令息と政略結婚する ~あなたが捨てたのは宝石でした~
新川 さとし
恋愛
「地味で可愛げがない」と婚約破棄された侯爵令嬢クリスティーヌ。
王子の政務を陰で支え続けた功績は、すべて無かったことにされた。
居場所を失った彼女に差し出されたのは、“無能”と噂される伯爵令息ノエルとの政略結婚。
しかし彼の正体は、顔と名前を覚えられない代わりに、圧倒的な知識と判断力を持つ天才だった。
「あなたの価値は、私が覚えています」
そう言って彼の“索引(インデックス)”となることを選んだクリスティーヌ。
二人が手を取り合ったとき、社交界も、王家も、やがて後悔することになる。
これは、不遇な二人が“最良の政略結婚”を選び取り、
静かに、確実に、幸せと評価を積み上げていく物語。
※本作は完結済み(全11話)です。
安心して最後までお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる