「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

鍛高譚

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第4章:新しい幸せの形――それぞれの未来へ

4-6.新しい幸せの形――エピローグ

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6.新しい幸せの形――エピローグ

 マイラとルシアンの婚約は、すぐにグランシェル侯爵家内や王都の商会に知れ渡った。驚く者も多かったが、すでに二人が一緒に仕事をしている姿を見慣れている人々の間では、「やはりそうなったか」という声も少なくない。
 デゼル侯爵は当初、「男爵家の血筋とはいえ、実業家が相手とはどうか」と一瞬考え込んだが、ルシアンが築いてきた実績と人格、何よりマイラ自身の強い意志を尊重し、素直に認めてくれた。「お前のように頭の固い父親をここまで納得させるとは、なかなかの大物だ」と笑い、むしろ前向きに祝福してくれたのである。
 やがて季節が変わり、王都にも花の便りが届き始めるころ、マイラとルシアンは正式に婚約発表の舞踏会を開催することになった。既にビジネスの成功やグランシェル侯爵家との協力体制で名を馳せたルシアンは、貴族たちからも“一目置かれる実業家”として認知されている。令嬢たちの間では「ルシアン様は素敵だけど、彼の心はもうマイラ様だけのものね……」などと噂されるほど人気も高い。

 一方、ラウルとリリアの消息は、王都ではあまり話題にのぼらなくなった。視察と称して地方を巡ったあと、更に遠い辺境へ移ったという噂は聞こえてくるが、その正確な行き先を知る者はほとんどいない。わずかに流れてくるのは「厳しい環境に苦しんでいるらしい」という噂話程度だ。
 中には「ラウル殿下がリリアを捨て、単身で逃げ出した」という説や「二人そろって荒野の村で細々と暮らしている」という説もささやかれる。いずれにせよ、王都での華々しい生活とは無縁の世界で生き延びているのだろう。
 ――かつて彼が「息苦しい」と捨ててしまったマイラは今、もう「氷の美姫」などではない。自らの力で人生を切り拓き、愛する人と手を携えて未来を築こうとしている。ラウルが後悔を抱えたまま遠い地で暮らしているとしても、それはもう戻らない日々の代償でしかない。

 婚約発表の舞踏会は、グランシェル侯爵家の邸宅にて華やかに催された。マイラは純白のドレスを身にまとい、手にしたブーケには領地で育てた白い花があしらわれている。隣に立つルシアンは、落ち着いた紺色の礼装に身を包み、柔和な笑みで参列者を迎えている。
 来客には有力貴族や商人たち、そして伯爵令嬢セレナら多くの友人が集まり、祝辞を述べる。父デゼルは壇上で「私の娘は、一度の婚約破棄を経験して大きく成長した。今では私の誇りであり、彼女の選んだ相手なら間違いないだろう」と述べ、満面の笑みで杯を掲げた。

 歓声と拍手が響く中、マイラはルシアンの手を取ってそっと耳打ちする。
「本当にありがとうございます。あなたの側で、私、これからも頑張りますね」
「こちらこそ。あなたと共にある未来が、今からとても楽しみです」
 二人の視線が交わると、まるで世界がそこだけ切り取られたように時が止まる。どんな困難があろうとも、この人となら乗り越えられる――そう確信できる瞬間だった。

 会場の隅に置かれた大きな鏡に映る自分の姿を見て、マイラはふと思う。
(――ラウル殿下にとって、私は“息苦しい存在”だった。でも、今の私は、もう誰かに合わせて生きる必要なんてない。私自身で自分の幸せを選んだんだから)

 かつての婚約破棄は、苦しみと屈辱をもたらし、周囲からの嘲笑を浴びるきっかけにもなった。けれど、それを経たからこそ、マイラは真の意味で自由を手にし、共に歩みたいと思える相手と出会うことができたのだ。
 もしラウルが王都のどこかで今のマイラを目にしたとしたら、何を思うだろう。きっと後悔に苛まれることだろう。だが、それは自業自得というものだ。
 「後悔するが遅すぎる」――この物語の幕引きは、まさにラウルとリリアの行く末が体現している。彼らがどういう未来を辿ろうとも、もはやマイラの道を阻むことはできない。

 祝宴の喧騒のなか、マイラは幸せを噛みしめる。ルシアンが柔らかく手を添え、二人は笑みを交わし合う。拍手や乾杯の声が響く中で、彼女ははっきりと感じていた。
 ――私はあの苦難を乗り越え、本当の幸せの形を掴んだのだ、と。

 これが、侯爵令嬢マイラが選んだ新しい人生。
 捨てられた婚約を、むしろ糧にして得た輝かしい未来。
 そして、ここにいる誰もが、その美しさに惜しみない賞賛を送り、彼女を認め始めている。

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