「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

鍛高譚

文字の大きさ
25 / 26
第4章:新しい幸せの形――それぞれの未来へ

4-5.輝く未来――マイラとルシアンの新たな一歩

しおりを挟む
5.輝く未来――マイラとルシアンの新たな一歩

 ラウル王子の一件が完全に決着を迎えた頃、マイラとグランシェル侯爵家の事業はさらに大きく飛躍し始めた。先の新春祝賀式典で得た反響によって、貴族や商会、領主たちとの正式契約が次々と成立し、伯爵令嬢セレナをはじめとした友人たちも「グランシェル侯爵家は一躍、社交界の注目の的ね」と驚いている。
 ベルナール商会との協力体制も盤石となり、ルシアンとマイラはそれぞれの立場から“共同事業のパートナー”として公に認められるようになった。
 そんなある日。侯爵家の広い庭園では、マイラとルシアンが業務の打ち合わせをしていた。澄んだ冬の空気がまだ冷たいものの、日差しは少しずつ春を予感させる柔らかさを帯びている。
「今度は、グランシェル領地の森林開発にも着手する予定なんです。木材を効率よく伐採し、再植林を進める体制を整えれば、長期的に安定した資源を確保できるはず……」
 マイラは資料を広げながら、力強い口調で構想を語る。目を輝かせる彼女の横顔を、ルシアンは穏やかなまなざしで見つめていた。
「本当に活動的になりましたね、マイラ様は。最初にお会いしたころは、もう少し遠慮がちというか、どこか冷めている印象もありましたが……今はまるで、新しい世界を楽しんでいるように見えます」

 唐突な言葉に、マイラは少し頬を染めてうつむく。
「そう……ですか。私自身は、ただ必死にやってきただけ、という感じですが……」
「いいえ、そんなことはありません。あなたが本気で取り組んできたからこそ、今日の結果がある。私も、あなたのその姿勢に刺激を受けました。――実は、今日、そのことでお話がありました」
「お話……?」
 ルシアンはスッと視線を落とし、懐から小さな箱を取り出した。それを見たマイラは、一瞬何が起きたのか理解できなかったが、箱が開いたときに見えたものは――繊細な細工が施された指輪。
 庭園の木々に囲まれた静かな空間で、ルシアンは膝をつき、マイラを見上げる。その姿にマイラは息を飲む。

「マイラ・グランシェル様。私はあなたを敬い、そして深く愛しています。あなたが真剣に生きる姿を見ているうちに、私自身もあなたと一緒に未来を築きたいと強く望むようになりました。……私と共に歩んでいただけませんか?」

 その言葉に、一瞬の沈黙が訪れる。マイラは驚きと感動、そして喜びが一気に押し寄せ、胸がいっぱいになる。――ラウル王子との婚約破棄を経て、もう恋愛などしないと心を閉ざしていた時期もあった。だが今、目の前には自分を“ありのまま”見てくれる男性がいる。共に働き、共に悩み、一緒に笑い合ってきた尊敬すべきパートナーがいるのだ。

「……私、ずっとあなたを信頼していました。お仕事でご一緒するうちに、あなたの優しさや誠実さに何度も救われて……。私も、同じ気持ちになっていたんだと思います」
 うまく言葉にできない感情が込み上げる。だが、彼女の瞳はしっかりとルシアンを映していた。
「ルシアン・ベルナール様。私でよければ、これからも……ずっと隣で、あなたと同じ景色を見たいです」

 そう言って差し出された指輪を、マイラは震える指で受け取り、そのまま自分の薬指にはめる。サイズはピッタリだった。
 微笑みながら立ち上がったルシアンは、マイラの手をそっと取って優しく握りしめる。そして、二人は絵画のように美しい庭園の中、固く結ばれた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

完結 愛される自信を失ったのは私の罪

音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。 それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。 ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

処理中です...