10 / 43
◆第11話(完全版)
しおりを挟む
◆第11話(完全版)
“ただのメイド”ではもうない。アーロンの心を揺らす存在
ミリアが誘拐された――
その報告を聞いた瞬間、
アーロンの胸は氷のように冷たくなった。
「……ミリアが? 誘拐……だと?」
言った侍従の顔が恐ろしく見えるほど、
アーロンは震えていた。
(おかしい……俺は冷静なはずだろう。
政治の交渉も、危機対応も慣れているはずなのに……
どうして、こんなにも乱れている?)
心の中で答えはすぐに出た。
――ミリアを失うのが怖い。
気づかぬうちに、彼の中でミリアは
“守らなければならない存在”から
“失いたくない存在”へ変わっていた。
「ご主人様、落ち着きを――!」
「落ち着けるわけがない!」
アーロンは怒鳴ったのではなかった。
叫びに近い声だった。
「……すまない。だが……行くぞ。
ミリアを……取り戻す」
侍従たちは顔を見合わせた。
彼らは気づいていた。
アーロンは気付かぬうちに、この屋敷のメイドに心を寄せている。
そして、アーロン自身は――
まだその事実を口にできないだけだ。
---
◆◆一方その頃、ミリアは――
薄暗い小屋の中。
縄で縛られながら、静かに座っていた。
(……アーロン様。
ご心配なさっておりますわよね……)
ミリアは目を伏せた。
(わたくしは、ただのメイドですのに……
ご主人様が動揺なさってしまうのは……心苦しいですわ)
胸がチクリと痛んだ。
それは“ただの忠義”では説明できない感情。
ミリア自身、まだ言葉にできないもの。
(……早くお戻りになって安心していただかないと)
そう思い、彼女は静かに縄を見つめた。
(そろそろ……動きますわ)
誘拐犯たちには聞き取れないほどの小さな声で呟いた。
---
◆◆アーロン、焦りを隠せず
アーロンは馬を走らせながら、心の声と必死に戦っていた。
(どうしてこんなに怖いんだ?
もしミリアに、傷ひとつでもついていたら……)
考えただけで胸が締め付けられる。
(……もう誤魔化せない。この気持ちは……)
そのとき、先行していた護衛騎士が叫んだ。
「アーロン様! 廃屋に人影が!」
「行くぞ!」
アーロンは馬から飛び降り、剣を抜いた。
---
◆◆その時、廃屋の扉が開いた
ギィ……と軋む音。
中からゆっくりと出てきたのは――
「ミリア!!!」
アーロンは駆け寄った。
ミリアはほこりを払うようにエプロンを整えると、
優雅に一礼した。
「お騒がせいたしました、ご主人様。
粗大ごみの整理に少し時間がかかりましたわ」
「粗大ごみ……?」
アーロンの視線はミリアの背後へ。
倒れ伏した誘拐犯たちが、
整然と廃材の横に並べられていた。
「み、ミリア……無事か……?
怪我は……?」
アーロンの声は震えていた。
心配の色を隠そうともしない。
ミリアはその震えを感じ取り、胸が温かくなった。
「はい。ご主人様のお気持ちだけで十分でございます」
アーロンは息を呑んだ。
(……気持ち……?
“気持ちだけでいい”なんて……)
それは、まるで――
彼の感情に気づいているかのような返しだった。
アーロンの心臓が跳ねる。
「……ミリア。
君が無事で……本当に……よかった」
その声は、かすれて優しかった。
ミリアは表情を崩さず、
しかしいつもより少しだけ柔らかい声で答えた。
「ありがとうございます、ご主人様」
---
◆◆アーロンの中で確信が生まれる
屋敷に戻る馬上で、アーロンは気づいた。
(これは……誤解なんかじゃない。
ミリアは……俺にとって、本当に……)
彼の胸に宿った言葉は――
まだ言葉にならない。
だが確かに芽生えた。
“ミリアは最大の弱点”ではなく――
彼にとって“最も大切な存在”になってしまった。
アーロンは目を閉じた。
(……もう手放せない)
そう、静かに噛みしめた。
“ただのメイド”ではもうない。アーロンの心を揺らす存在
ミリアが誘拐された――
その報告を聞いた瞬間、
アーロンの胸は氷のように冷たくなった。
「……ミリアが? 誘拐……だと?」
言った侍従の顔が恐ろしく見えるほど、
アーロンは震えていた。
(おかしい……俺は冷静なはずだろう。
政治の交渉も、危機対応も慣れているはずなのに……
どうして、こんなにも乱れている?)
心の中で答えはすぐに出た。
――ミリアを失うのが怖い。
気づかぬうちに、彼の中でミリアは
“守らなければならない存在”から
“失いたくない存在”へ変わっていた。
「ご主人様、落ち着きを――!」
「落ち着けるわけがない!」
アーロンは怒鳴ったのではなかった。
叫びに近い声だった。
「……すまない。だが……行くぞ。
ミリアを……取り戻す」
侍従たちは顔を見合わせた。
彼らは気づいていた。
アーロンは気付かぬうちに、この屋敷のメイドに心を寄せている。
そして、アーロン自身は――
まだその事実を口にできないだけだ。
---
◆◆一方その頃、ミリアは――
薄暗い小屋の中。
縄で縛られながら、静かに座っていた。
(……アーロン様。
ご心配なさっておりますわよね……)
ミリアは目を伏せた。
(わたくしは、ただのメイドですのに……
ご主人様が動揺なさってしまうのは……心苦しいですわ)
胸がチクリと痛んだ。
それは“ただの忠義”では説明できない感情。
ミリア自身、まだ言葉にできないもの。
(……早くお戻りになって安心していただかないと)
そう思い、彼女は静かに縄を見つめた。
(そろそろ……動きますわ)
誘拐犯たちには聞き取れないほどの小さな声で呟いた。
---
◆◆アーロン、焦りを隠せず
アーロンは馬を走らせながら、心の声と必死に戦っていた。
(どうしてこんなに怖いんだ?
もしミリアに、傷ひとつでもついていたら……)
考えただけで胸が締め付けられる。
(……もう誤魔化せない。この気持ちは……)
そのとき、先行していた護衛騎士が叫んだ。
「アーロン様! 廃屋に人影が!」
「行くぞ!」
アーロンは馬から飛び降り、剣を抜いた。
---
◆◆その時、廃屋の扉が開いた
ギィ……と軋む音。
中からゆっくりと出てきたのは――
「ミリア!!!」
アーロンは駆け寄った。
ミリアはほこりを払うようにエプロンを整えると、
優雅に一礼した。
「お騒がせいたしました、ご主人様。
粗大ごみの整理に少し時間がかかりましたわ」
「粗大ごみ……?」
アーロンの視線はミリアの背後へ。
倒れ伏した誘拐犯たちが、
整然と廃材の横に並べられていた。
「み、ミリア……無事か……?
怪我は……?」
アーロンの声は震えていた。
心配の色を隠そうともしない。
ミリアはその震えを感じ取り、胸が温かくなった。
「はい。ご主人様のお気持ちだけで十分でございます」
アーロンは息を呑んだ。
(……気持ち……?
“気持ちだけでいい”なんて……)
それは、まるで――
彼の感情に気づいているかのような返しだった。
アーロンの心臓が跳ねる。
「……ミリア。
君が無事で……本当に……よかった」
その声は、かすれて優しかった。
ミリアは表情を崩さず、
しかしいつもより少しだけ柔らかい声で答えた。
「ありがとうございます、ご主人様」
---
◆◆アーロンの中で確信が生まれる
屋敷に戻る馬上で、アーロンは気づいた。
(これは……誤解なんかじゃない。
ミリアは……俺にとって、本当に……)
彼の胸に宿った言葉は――
まだ言葉にならない。
だが確かに芽生えた。
“ミリアは最大の弱点”ではなく――
彼にとって“最も大切な存在”になってしまった。
アーロンは目を閉じた。
(……もう手放せない)
そう、静かに噛みしめた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました
Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに!
かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、
男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。
痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。
そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。
「見つけた! 僕の花嫁!」
「僕の運命の人はあなただ!」
──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。
こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。
すっかりアイリーンの生活は一変する。
しかし、運命は複雑。
ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。
ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。
そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手……
本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を───
※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です
由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。
婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。
ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。
「君を嫌ったことなど、一度もない」
それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。
勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
華やかな異世界公爵令嬢?――と思ったら地味で前世と変わらないブラックでした。 ~忠誠より確かな契約で異世界働き方改革ですわ~』
ふわふわ
恋愛
華やかなドレス。きらびやかな舞踏会。
公爵令嬢として転生した私は、ようやく優雅な人生を手に入れた――
……はずでしたのに。
実態は、書類の山、曖昧な命令、責任の押し付け合い。
忠誠の名のもとに搾取される領地運営。
前世のブラック企業と、何も変わりませんでしたわ。
ならば。
忠誠ではなく契約を。
曖昧な命令ではなく明文化を。
感情論ではなく、再評価条項を。
「お父様、お手伝いするにあたり契約を結びましょう」
公爵家との契約から始まった小さな改革は、やがて王家を巻き込み、地方貴族を動かし、王国全体の制度を揺るがしていく――。
透明化。共有化。成果の可視化。
忠誠より確かな契約で、異世界働き方改革ですわ。
これは、玉座を奪う物語ではありません。
国家を“回る構造”に変える、公爵令嬢の改革譚。
そして最後に選ばれるのは――契約ではなく、覚悟。
---
国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!!
隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!?
何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。
だってわたくし、悪女ですもの
さくたろう
恋愛
妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。
しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる