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第21話『送り迎えは、アーロン様の役目です』**
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第21話『送り迎えは、アーロン様の役目です』
翌日。
ミリアは「今日から本当に日替わりで働く」と決まり、
まずはアーロン邸へ向かうため支度をしていた。
そこへ――
コン、コン
「ミリア、起きているか?」
聞きなれた低い声。
ミリアは目をぱちくりさせて扉を開いた。
「……アーロン様!? なぜこちらに?」
「迎えに来た」
「えっ……?」
「当たり前だ。
毎朝ミリアがいなくなっていたら……落ち着けるはずもない」
アーロンは真剣な目で言う。
「……心配だから、迎えに来た」
(……そんなストレートに言われると困ります)
ミリアの胸がくすぐったくなる。
「で、では、参りましょうか」
「うむ。……その前に」
アーロンは両手を差し出す。
「荷物をよこせ」
「持てますので大丈夫です!」
「俺が持つ」
「いえ、本当に──」
「ミリアの負担は俺が減らす」
即答。
(こういうところ……ずるい)
ミリアは結局、荷物を全部預ける羽目になった。
◆
●アーロン邸までの道のり
ミリアは横に立つアーロンをチラチラ見る。
(……距離、近くないですか?)
いつも以上に近い。
肩が触れそうなほど。
アーロンは気づかぬ顔で歩いている。
「ミリア。寒くないか?」
「だいじょうぶですわ」
「……寒そうに見える」
アーロンは自分のマントを外して、ミリアの肩にそっと掛けた。
「わ、私はメイドでして、そんな……!」
「よく効く。俺の体温が残っているからな」
「説明はいりません!!」
顔が一気に赤くなるミリア。
アーロンは少し口元をゆるめた。
「ミリアが赤くなるのは珍しいな」
「なっていません!」
「なっている」
(うわぁぁぁぁあ!!)
ミリアは前だけを見て歩いた。
◆
●アーロン邸の使用人たち
屋敷に着くと、まず目に飛び込んだのは――
使用人たちの集団。
みんながギンギンに目を光らせて二人を見ていた。
「(あれ……? なんか妙な雰囲気……?)」
「(おい見ろよ、殿下が……お付きの馬車じゃなくて、徒歩でミリア嬢を……)」
「(しかもマントをかけてるわよ!?)」
「(完全に……特別扱い……!)」
「(ミリアさんの時だけ距離近くない?)」
「(あの殿下が……男の顔してた……)」
ミリア:(聞こえてる、全部聞こえてる……!)
アーロンはそのざわめきにも動じず、
「ミリアを頼む。今日は俺が不在の間、よろしく」
そう言い残して去った。
使用人たちはミリアを取り囲んだ。
「ミ、ミリアさん……もしかして殿下とは……」
「違います!!!!!!」
秒で否定。
しかし使用人たちはもう盛り上がりが止まらない。
「いやいや、違うって言う方が怪しいやつ!」
「殿下、あんな優しい声を出せるんですね……」
「ミリアさん、殿下にマントかけられてましたね……?」
「……いろいろありまして……!」
(言えない……誘拐事件とか、賊処理とか……言えない……)
ミリアの心労は増すばかりであった。
◆
●仕事中もアーロンの話題
掃除してても。
「ミリアさん、殿下って普段どんな感じなんです?」
洗濯物を干してても。
「殿下と歩く時って、腕とか組んだりします?」
料理中も。
「ミリアさん、殿下に告白されてるんでしょ?」
(なんでこうなるのですかぁぁ!!)
ミリアは涙目になりながら答える。
「そ、そんなことは、一切……ありませんわ!」
(……ないはずですわよね?)
心の中でだけ、弱気。
◆
●昼休憩
外の中庭でひとりお茶を飲んでいると、ふわっと影が落ちた。
「ミリア」
「アーロン様!? 外出されたのでは?」
「昼だけ戻ってきた」
「え、ええっ!? お仕事は!?」
「……ミリアの様子が気になったので、仕方なくな」
ミリアは固まった。
「き、気にするほどのことなど……!」
アーロンは彼女の前に腰を下ろし、静かに言う。
「ミリアは、昨日……
俺のことで泣いた」
「そ、それは……!」
(泣いたのはほんの少しだけです!)
「だから……無理をしていないか、見に来た」
アーロンの声は、静かに優しかった。
ミリアの胸がじんわり熱くなる。
「私は、大丈夫ですわ……本当に」
「……ならよい」
アーロンはミリアの手元に視線を落とした。
「その……さっきの紅茶。
ひと口、飲んでもいいか?」
「え?」
アーロンは紅茶を指差した。
「ミリアの淹れた紅茶を飲むと……落ち着く」
(……また、そんな……)
ミリアは耳まで真っ赤になりながら、そっと紅茶を差し出した。
アーロンはひと口飲んで、ふっと微笑む。
「……やはり、うまい」
ミリアの心臓が一段階跳ねる。
(だめですわ……これは……反則……)
◆
そして午後。
使用人たちが、信じられないものを見た。
――殿下が。
――ミリアの飲んだカップを、
なにげなく手で包んでいた。
「(………………あれは……もしかして……間接キスというやつでは???)」
「(殿下……完全に恋する男の顔……!!)」
「(ミリアさん、もう逃げられないわよ……!)」
ミリア:(
やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!
そんな目で見ないでぇぇぇぇ!!!
)
こうして、ミリアの“日替わりメイド生活”は、
初日から甘さと噂で大騒ぎとなるのであった。
---
翌日。
ミリアは「今日から本当に日替わりで働く」と決まり、
まずはアーロン邸へ向かうため支度をしていた。
そこへ――
コン、コン
「ミリア、起きているか?」
聞きなれた低い声。
ミリアは目をぱちくりさせて扉を開いた。
「……アーロン様!? なぜこちらに?」
「迎えに来た」
「えっ……?」
「当たり前だ。
毎朝ミリアがいなくなっていたら……落ち着けるはずもない」
アーロンは真剣な目で言う。
「……心配だから、迎えに来た」
(……そんなストレートに言われると困ります)
ミリアの胸がくすぐったくなる。
「で、では、参りましょうか」
「うむ。……その前に」
アーロンは両手を差し出す。
「荷物をよこせ」
「持てますので大丈夫です!」
「俺が持つ」
「いえ、本当に──」
「ミリアの負担は俺が減らす」
即答。
(こういうところ……ずるい)
ミリアは結局、荷物を全部預ける羽目になった。
◆
●アーロン邸までの道のり
ミリアは横に立つアーロンをチラチラ見る。
(……距離、近くないですか?)
いつも以上に近い。
肩が触れそうなほど。
アーロンは気づかぬ顔で歩いている。
「ミリア。寒くないか?」
「だいじょうぶですわ」
「……寒そうに見える」
アーロンは自分のマントを外して、ミリアの肩にそっと掛けた。
「わ、私はメイドでして、そんな……!」
「よく効く。俺の体温が残っているからな」
「説明はいりません!!」
顔が一気に赤くなるミリア。
アーロンは少し口元をゆるめた。
「ミリアが赤くなるのは珍しいな」
「なっていません!」
「なっている」
(うわぁぁぁぁあ!!)
ミリアは前だけを見て歩いた。
◆
●アーロン邸の使用人たち
屋敷に着くと、まず目に飛び込んだのは――
使用人たちの集団。
みんながギンギンに目を光らせて二人を見ていた。
「(あれ……? なんか妙な雰囲気……?)」
「(おい見ろよ、殿下が……お付きの馬車じゃなくて、徒歩でミリア嬢を……)」
「(しかもマントをかけてるわよ!?)」
「(完全に……特別扱い……!)」
「(ミリアさんの時だけ距離近くない?)」
「(あの殿下が……男の顔してた……)」
ミリア:(聞こえてる、全部聞こえてる……!)
アーロンはそのざわめきにも動じず、
「ミリアを頼む。今日は俺が不在の間、よろしく」
そう言い残して去った。
使用人たちはミリアを取り囲んだ。
「ミ、ミリアさん……もしかして殿下とは……」
「違います!!!!!!」
秒で否定。
しかし使用人たちはもう盛り上がりが止まらない。
「いやいや、違うって言う方が怪しいやつ!」
「殿下、あんな優しい声を出せるんですね……」
「ミリアさん、殿下にマントかけられてましたね……?」
「……いろいろありまして……!」
(言えない……誘拐事件とか、賊処理とか……言えない……)
ミリアの心労は増すばかりであった。
◆
●仕事中もアーロンの話題
掃除してても。
「ミリアさん、殿下って普段どんな感じなんです?」
洗濯物を干してても。
「殿下と歩く時って、腕とか組んだりします?」
料理中も。
「ミリアさん、殿下に告白されてるんでしょ?」
(なんでこうなるのですかぁぁ!!)
ミリアは涙目になりながら答える。
「そ、そんなことは、一切……ありませんわ!」
(……ないはずですわよね?)
心の中でだけ、弱気。
◆
●昼休憩
外の中庭でひとりお茶を飲んでいると、ふわっと影が落ちた。
「ミリア」
「アーロン様!? 外出されたのでは?」
「昼だけ戻ってきた」
「え、ええっ!? お仕事は!?」
「……ミリアの様子が気になったので、仕方なくな」
ミリアは固まった。
「き、気にするほどのことなど……!」
アーロンは彼女の前に腰を下ろし、静かに言う。
「ミリアは、昨日……
俺のことで泣いた」
「そ、それは……!」
(泣いたのはほんの少しだけです!)
「だから……無理をしていないか、見に来た」
アーロンの声は、静かに優しかった。
ミリアの胸がじんわり熱くなる。
「私は、大丈夫ですわ……本当に」
「……ならよい」
アーロンはミリアの手元に視線を落とした。
「その……さっきの紅茶。
ひと口、飲んでもいいか?」
「え?」
アーロンは紅茶を指差した。
「ミリアの淹れた紅茶を飲むと……落ち着く」
(……また、そんな……)
ミリアは耳まで真っ赤になりながら、そっと紅茶を差し出した。
アーロンはひと口飲んで、ふっと微笑む。
「……やはり、うまい」
ミリアの心臓が一段階跳ねる。
(だめですわ……これは……反則……)
◆
そして午後。
使用人たちが、信じられないものを見た。
――殿下が。
――ミリアの飲んだカップを、
なにげなく手で包んでいた。
「(………………あれは……もしかして……間接キスというやつでは???)」
「(殿下……完全に恋する男の顔……!!)」
「(ミリアさん、もう逃げられないわよ……!)」
ミリア:(
やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!
そんな目で見ないでぇぇぇぇ!!!
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こうして、ミリアの“日替わりメイド生活”は、
初日から甘さと噂で大騒ぎとなるのであった。
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